新しい出発へ

マブダチK君との感激の再会後、両親の車を見送り、息子と二人で名古屋駅を散策することにしました。西口にあるキオスクに入ると、一人暮らしの時に毎回ここでお土産を買って、母と祖父との別れは後ろ髪を引かれる思いだったなとほんのり切なくなって。それでも、そのお土産を持って大学図書館へ行くとみんながいつも温かく迎えてくれました。ただいま、そう言える場所があること、言える人達がいること、あの頃の私にはどうしようもなく嬉しかった。そんなことを思っていると、息子の足が止まりました。「ママ、このお菓子買いたい。」そう言われ見てみると、かっぱえびせんの天むす味で、そんな商品があることに嬉しくなりながら購入決定。そして、新幹線の窓口でこだまの切符を買い、最後に一か所だけ付き合ってほしいと伝え、ツインタワーのマリオットホテルがある、15階までエレベーターで向かいました。名古屋にいた頃も、一人暮らしを始め名古屋駅に着いた時も立ち寄っていた特別な場所。ようやくまた来られたんだ、そう思うと不思議な力が湧いてきて、自分の新しい出発を感じさせてくれるその一歩を大切にしようと思いました。また来るよ、名古屋駅のビル群に向かって心の中で呟き、背を向ける。息子の手を取り、歩き始めました。ありがとう名古屋、私の大好きな街。

その後、息子のおもちゃを買う為、お店を梯子し、名古屋駅構内のど真ん中にあるお土産やさんで、新幹線をゲット。どのお菓子も欲しくなってしまい全種類を買いたい衝動に駆られながら、大人しくみんなのおみやげを選びました。そして、絶対に外せなかった天むすも買い、のんびりと新幹線乗り場へ。テンションMaxの息子を案内し、駅のホームに行きながら、自由席である1号車を目指し到着。すると、先に来たのぞみの進行方向を見て大慌て。「しまった!進行方向逆だった!」「え~、ママ急ごう。ボクどうしても先頭車両に乗りたいんだよ。」「そうだよね。気合い入れて歩くよ!」とまさかの展開に、ぜいぜい言いながら16号車を目指しました。新幹線長い!!ようやく辿り着くと、誰も待っていなかったおかげで、先頭から二番目の三人席に座ることができ、息子もご満悦。一番後ろの席に一組いるだけという快適空間に、9歳児の質問攻めが待っていました。「なんでこんなに少ないの?」「名古屋駅が始発だからだよ。のぞみが一番早くて、次にひかり、これはこだまで各駅に止まるから、少しずつ増えていくよ。せっかくだからゆっくり帰りたいと思ってこだまなの。」「そうなんだ~。テーブルもあっていいね!」そう言って、iPadを取り出し、お菓子をぼりぼり食べながら寛ぐ様子を見て笑ってしまいました。そして、動き出した新幹線。「名古屋にバイバイしよう。」そう伝えると「名古屋バイバイ。」と一緒に手を振ってくれました。「ボク、オーストラリアの次に名古屋が好き!また行きたい。」オーストラリアは譲れないのね!と笑いを堪えながら、何が良かった?と聞いてみました。「東山動物園!」お母さんも好きだったよ。おじいちゃんが連れて行ってくれたこともあった。そうだ、大切なことを思い出したよ。ぶっきらぼうな父は、いつも一人でどこかに行ってしまい、祖父が色んな所に連れて行ってくれた。お父さんがいるのにいないような、何とも言えない寂しさを埋めてくれたのはおじいちゃんだった。まだ小さかったから断片的にしか思い出せないけど、心に残っているのは、孫を可愛がってくれた祖父の愛でした。R、大丈夫だ。あなたの寂しさをいろんな人が埋めてくれる。それはきっと抱えきれない程の愛で、全然血の繋がっていない誰かが、あなたの為に心を痛め、一緒に泣き、笑い、そこにいてくれるだけでありがとうと言ってくれるでしょう。それは、あなたの何よりの財産になる。お金じゃない、とんでもなく価値のある宝物。そこから溢れ出す気持ちを、また誰かに渡してあげてほしい。あなたの中で、尽きることはないから。それは、お母さんが証明する。人を想う人であれ。

新幹線の車窓から流れゆく景色を見ながら、K君との会話が再生されました。「Y(子供の頃にお父さんが自殺した彼)のことを心配してるの。元気にしてる?」「最近会っていないけど、アイツは大丈夫だ。繊細だけど、芯はしっかりしてる。」「うん。お会いしたことないけど、お母さんもできた方なんだろうなって思うよ。」「まだ学生の頃、Yの実家で徹夜マージャンをしたことが何回もあったんだよ。たばこくせいし、散らかしまくって、姉貴はうるさいって怒鳴り込んできたことがあったけど、おばさんは朝になると必ず手作りのサンドイッチとスポーツドリンクを置いていってくれた。深夜にさ、門をよじ登って二階にあるアイツの部屋に入ったことがあったんだよ。そうしたら、おばさんにバレて怒られてさ。『K君、入る時は危ないから玄関から入ってきてね!』って。」それを聞いて大爆笑。器が大きくいいお母さんであることが彼を通して伝わってきました。「みんなどうしているだろうな。最後に同窓会したのって焼肉屋さんだったよな。Sがカラオケで『ら・ら・ら』(作詞作曲:大黒摩季)を歌ったんだよ。」「え~?覚えていないよ。焼肉屋さんで?!」「そう。」その曲は、女性の何とも言えない切ない気持ちを伝えてくれて、20代の頃とても好きだったことを思い出しました。その日は母に送ってもらって、帰らずそこの端で焼き肉を食べ出すので困惑してしまい、K君がビール瓶片手に母の前に座り、気を使ってくれた日でした。私が何年経っても大切にしていたその時間を、彼はマイクを持つ私をずっと覚えてくれていて。二人の記憶が、こんな形で重なっていたことに胸がいっぱいでした。

息子と天むすを食べ、新幹線デートは終了。在来線に乗り換え、最寄り駅から自宅まで歩き、夜になって両親が荷物を届けてくれました。宿題の日記には書くことが盛りだくさんで、嬉しい悲鳴を上げていて。お母さんと一緒だね。とても書ききれそうになくて。一行書く度に大粒の涙がこぼれてしまいそうになる。挫けそうな時は、息子と見た沢山の景色を思い出すから。故郷が自分を取り戻させてくれた。私の原点、またそこから歩き出すことにする。