同じ目線

どんよりとした雨の日、ようやく止んでくれたので、気持ちを奮い立たせるために図書館へ。自習室をやめ、珍しく一階の人の出入りが多いテーブル席でパソコンを開いていると、少し離れたところから視線を感じました。あっ!と思い手を振ると、寄ってきてくれたのは隣に住む先輩ママでした。「最近どうしているのかなって思っていたの。」「実は色々なことがあって・・・。」そう言葉を濁すと、次の話題に行くどころか、その“色々”をその場で聞こうとピタッと彼女の動きが止まり、次の言葉を待っていてくれました。お隣さんじゃない、せっかく会えたんだから、今ここで聞くよ。そんな思いが伝わり、図書館だということも忘れて、涙が溢れそうに。「実は年明けに手術をして、今薬物療法中なんです。副作用がきつくて、なかなか連絡できなくてすみません。」「・・・大丈夫?R君にはたまにゴミ出しの時に会っていたの。今も辛いよね。落ち着いたタイミングでお茶でもしよ。いつでも連絡してきてね。」彼女が伝えてくれた「大丈夫?」という言葉に、色んな意味が含まれていることを感じました。隣なのに何も知らなくてごめんね、小さな子供がいるのに入院や手術は気が気じゃなかったでしょう、長い期間連絡がなかったということは、それだけの思いをしてきたんだよね。一気に沢山の気持ちが自分の中に届いて、目をうるうるさせると微笑んでくれました。大切なことを思い出した、こういう時こそ同性だということ。

産後、授乳の為にまともに寝ていない中で、それでもなんとか気分転換をしようとベビーカーで準備をしていると、声をかけてくれたお隣さん。自宅にも遊びに来てくれるようになり、育児の悩みを話しました。「母乳とミルク、混合なんですけど、母乳を泣いて嫌がってしまう時もあってすごいショックで・・・。」そう話すと伝えてくれました。「どっちでもね、元気に育ってくれたらそれでいいんだよ。男の子ってね、ぐびぐび飲めた方がいいから、ミルクの方が喜ぶっていうお母さんにも何人か出会ってきたよ。」そう、あなただけじゃないから。その気持ちがどれだけ嬉しかったことか。ホルモンバランスを崩していた時だったからこそ、こういった言葉に助けられるのだと痛感しました。こうやって雲の合間に光が差し込んでいく。そして、今ならはっきりわかる。頭痛が悪化し、それでも鎮痛剤を飲まずに授乳をしていた私の辛さを、息子は感じ取ってくれたんだろうなと。離乳食が始まると同時に母乳をやめることができたのは、息子のおかげであり、先輩ママのおかげでした。あの時、彼が泣かずに母乳を飲み続けていたら、体が悲鳴を上げたかもしれないな。

シェアオフィスのミルキーのKさん。奥様の体調が悪くなった時、近くのお医者さんに連れて行ったそう。その後、どんどん悪化していくので、総合病院へ移ることに。その時の自分の判断が、生死を分けたのではないかとずっと自分を責め続けていて。「そんなことはないです。毎日そばにいて、精一杯やったんですよ。奥様、嬉しかったと思うし幸せだっただろうなって思います。」一瞬姉の言葉が蘇ってきて。「Sは線引きができないの。そりゃお母さんは居心地がいいよ。あんたが全部受け止めてくれるんだから。でも、負の感情を散々ぶつけられたSは自分を守る方法を知らないから、苦しくなっちゃうんだよ。いい?何でも屋になったらだめ。」言っている意味は分かる、その当時に比べたら学習もしたし経験もした。だから、自分を守りながら彼を受け止める。「奥さんが亡くなった病院で、辛そうにしていたら心療内科も勧められたんです。でも行く気にはなれなくて。だから、あなたが気持ちを分かってくれて、泣ける場所があって有難いです。」胸がえぐられそうな辛さ、理不尽さ、分かりますよ。そういう人達に沢山出会ってきたし、私もたまに泣いちゃっているから。心の中で呟きながら、彼が少し笑ってくれてほっとし、お別れ。

そんな姿を見ると必ず思い出すのは、高校の友達Y。お父さんが子供の頃に自殺した話をしてくれた時、さりげなく聞いてみました。「K君は知ってるの?」と。「あいつには話していない。Sさんにだから話した。なんでだろうな。もう、どうすることもできないんだよ。なんで家族をおいて逝っちゃうんだよって、俺達のこと大事じゃなかったのかって沢山考えても答えは見つからなかった。そういうどうしようもない気持ち、Sさんなら分かってくれると思ったのかも。」彼の悲しみに底辺が見えなくて。それでも、私に話してくれたということは、向き合おうとしてくれているのかもしれないと感じました。「きっとね、お父さんにしか分からない苦悩があったんだと思う。家族が大切だったから言えないこともあったんじゃないかな。ねえY、とことん悩んでもいいけど、いつか自分を許してあげてね。お父さんのことを許せない自分が許せない、そんな気持ちを感じるから。」そう話すと、目に涙を溜め、そっと微笑んでくれました。大きな氷から一滴の水が解けた時。
さあ私は、どうやって自分の痛みと向き合おうか。婦人科の先生に言われた、とりあえず一年の薬物療法。とりあえずビールで!に置き換えたら元気になるかも。