上手に気分転換

夏休みの宿題に、連日二人で苦戦。それでも、弱音を吐きながらも机に向かう息子に拍手を送りたいなと。そして、気持ちが少しでも和らいだらいいと願い、ちょっとくだらない話をしてみました。「お母さんね、高2の夏休み前、担任の先生に勉強合宿があるから参加しろと言われてね。強制ではないけど、成績上位者は強制だみたいなことを言われて、ちょっと迷ったの。ぶっちゃけ面倒くさいなって。だから、とりあえず質問してみたんだ。その合宿中に夏休みの宿題をやってもいいんですか?って。そうしたらいいと言われたから、じゃあ行きます!って返事したら、すごい笑われてね。お母さん、真面目な印象を持たれやすいんだけど、実はそうじゃない所もあって、そのギャップが面白かったんだと思う。本当に勉強合宿だったから、目的地はぼんやりしか思い出せないんだけど、確か知多半島の方。でね、本当に宿題しかやらなかったような気がするんだけど、強制参加じゃなかったから先生達も結構緩くて、楽しかったよ。何でも経験してみるものだなってその時思った。Rが覚える内容も、一体いつこれ役に立つんだって思うこと沢山あるかもしれない。でも、その漢字ひとつがきっと未来に繋がっているよ。」「へえ、そうなんだ。全然観光しなかったの?」「うん。ずっと合宿先で缶詰だった。でも、ラジオ体操ぐらいは外でしたよ!」そんな話で大盛り上がり。ね、通ってきた道が繋がった。

その合宿は、野球部の顧問である担任の先生は大会の為欠席だったので、同じ学年の先生達が取り仕切ってくれていました。夕飯は、いくつかのグループに分かれすき焼きが待っていて、みんなでわいわい。散々はしゃいだ後、片付けて、また夜の勉強が待っていたものの、出口近くにいた同じクラスのグループがまだ食べていたので、通りすがりに誘われて。「Sちゃんも食べる?」となんだか楽しそうだったので吸い込まれてしまい、いすがなかったので、まあいいかと開き直って立って食べることに。するとそれを見かけた尊敬する世界史の先生が、「おーい○○、立って食べるなよ~。」と笑いながら注意してきて。学校では絶対にしそうにないことをこちらがしていたので、そんな一面もあるんだなとツボにはまってくれたようでした。「いやあ、誘われちゃって!」と言い訳をすると、みんなもそうだそうだと頷いてくれて、厳しい学校だったからこその和やかな異空間に、なんだか胸がいっぱいでした。その最終日に書いた合宿の作文は、高校の校内新聞に掲載されて。国語の学年主任の先生が編集した跡があったので、いい感じにまとめたなと色々思う所はあったのだけど、仲間と先生達と学べて楽しかったよという気持ちが伝わっていたんだね。

日々いろんな思いが巡る中、息子が学校から持って帰ってきた資料に何気なく目を通してみると、とても気になる内容を見つけはっとなりました。起立性調節障害、ODと略されることもあり、主に思春期に好発する自律神経系の不調からくる身体の病気だそう。自分が高校生になり、どんときた辛さはこれだったのか?!とこの歳になり意外な所でヒントが見つかったようでした。中学の時から不調は少しあった中、部活に燃えていたので気が紛れていたのかなんとかなっていました。その後、器用じゃないのに二足の草鞋を履いたから成績が落ちたことを反省し、高校では茶道部を選択。それから睡眠不調が酷くなり、眠れなかった日に学校へ行くとくらくらが悪化してしまい、朝起きて今日は機能しないと感じた日は休むことにしました。二日連続休むのはやめよう、それは自分の中で決めていて。頭痛は常にある、それが弱いか強いかの話で、うまく説明のつかないしんどさの中にいました。情けないな、そんな感情が心の中でぐるぐる。そういった時期に出会ったのが、同じクラスのマブダチK君でした。先生には反抗するし、茶髪だし、授業中は寝ているのだけど、人のことは否定しないあたたかいハートを持ったいいヤツでした。私自身は、できるだけ内面を隠した、本当は苦しい家庭環境のことも、心身ともにあっさりバランスを崩しそうになることも、でも簡単には崩れるものかといつも意地を張っていることも。それとは対照的に、彼はありのままをさらけ出す人でした。建前は言わない、そのままの気持ちをストレートに表現するのに、なぜか腹も立たなくて。「おもしれえ女だな。Sの中で沢山の葛藤があるのはなんとなく分かる。でもなんとなくだ。それを強引に話してもらおうとも思わない。なんか、Sはどこかで大人なんだよ。見た目は高校生だけど、精神年齢はもっと上な気がする。もう別次元にいるんだよ。でも、話したくなったら俺に話せ。役に立たないかもしれないけど、そういうヤツがひとりでもいるって思うだけで違うだろ。」褒められている訳でもないし、けなされている訳でもない。ただ間違いなく言えるのは、私の何かに気づき、そのそばにいてくれようとしたこと。まあ、お前は俺を頼らないだろうという推測も込みで。その気持ちがね、嬉しかったんだよ、自分をもう少し肯定してみようと思えた、ひとりだけどひとりじゃない。

そんなK君とはクラスが変わり、校内でタバコを吸って無期停学をくらっていて。何日も経ち、反省文を持って高校へやってくると、驚く程凛としていたおばさんを見かけました。すごい人だなと。私が遊びに行くといつも優しい雰囲気で迎えてくれたのだけど、その日はさらに美しく見えて。そして、せっかく受かった大学も中退すると言い出し、おばさんから相談を受け、彼に説得を試みようと思った中、意志が固かったのでそれ以上何も言えませんでした。そんな息子の決断も尊重していて。そして、車の旅に出ると言い出し、本当にいなくなって。かと思えば、ふらっと電話が入り、今日見た景色がとても綺麗だっただの、今いる場所おかんには言うなよと釘をさされるだの、その時感じた胸の内を話してくれました。「なあS、今幸せか?」K君は時々ふいに、その質問を私に投げかけてきて。その度に、涙が溢れそうになりました。おばさんが注ぎ続けた真っ直ぐな愛は、彼の底なしの思いやりを育み、どこにいても何をしていても、こちらのことを気にかけてくれていて。その温度は、出会った頃のまま。 Sometimes I feel sad when my body isn’t feeling well, but I always keep smiling, thanks to you and your mom. 俺、英語嫌いなんだよ!そんな声が耳に届いてちょっと笑えた。お互い、長い旅に出たね。本当は辛い時もある、でも笑いたい、そんな方達の拠り所であり続けたい。