募る思い

宅配物が届くのが分かっていた日、息子には一人で学校から帰ってきてもらいました。すると、意外にも習字道具など荷物が多く、疲れたと言って機嫌が悪くなってしまったので、こちらもヒートアップ。すると、ピンポンと鳴ったので画面を見てみると、お父さん?!タイミングがいいんだか悪いんだかと思いつつ、玄関まで出るとまたいつもの調子で伝えてきました。「Rいる?これ渡しておいて。」とクオカードを持っていたので、少し入ってと促すことに。「自転車置きっぱなしなんだよ~。」と早く帰りたそうにしているのは分かっていたものの、こっちは話したいことがあるんじゃと思い、リビングまで来てもらいました。とりあえず、お菓子を食べていた息子とご挨拶。そして、座ろうとしなかったので立ち話でもいいやと思い、体調のことなど聞いてみることに。「甲状腺の結果は悪くなかったから、手術は一旦様子を見ることにした。1年間で3回も手術したからちょっと休みたいしな。」「そうだね、体力も使うからね。仕事は週3日行ってるの?」「週4に戻した。」「まだ術後の後遺症もあるし、通勤も大変じゃない?」「いやあ、まあ何とかなる。」仕事に対する責任感の強さは人一倍、知ってるよ。そんな父は、どんどん佐賀の祖父に似てきて、急におじいちゃんのことが恋しくなりました。老いって人のやわらかさも出るのかな、そんなことを思った夕方。最近父に会うと、いろんな気持ちが巡るのはなぜだろう。ゆったりと緩やかな波の中へ。

小学校2年の2月、父は岐阜へ転勤になり、祖母の調子も悪化していたので、単身赴任で一人社宅生活を送ってくれることになりました。翌月、祖母は危篤状態に。そんな中、駆け付けた父は間に合い、養子に入り可愛がってくれた祖母の背中をさすりながら、大粒の涙を流し、おばあちゃんは他界。父のぬくもりを持って生を終えてくれたこと、それは今でも感謝していて。その後、女三人も岐阜へ行くことになり、今度は祖父の一人暮らしが始まりました。そんな時、社宅でいつも顔を合わせる上司と同じ支店で働く父は、何が気に入らなかったのかその上司に書類をぶちまけてしまったそう。元々気の短い父は、若かったこともあり、咄嗟にやってしまったことなのだろうと、母からこっそり聞いた時、その心理状態を想像できた気がしました。もう銀行にいられないかもしれない、家に帰り動揺している姿は子供の私にも分かり、心配していた中で、上司が丸く収めてくれたのがなんとなく分かり安堵。その上司の息子は、私と同級生でした。クラス替えをしても同じクラスにはならず、担任の先生が気を利かせてくれていたのではないかと今でも思っていて。それでも、帰り道に偶然会った時はお互いにランドセルを背負い、笑いながら一緒に社宅まで帰ってきました。その時の上司の肩書は支店長代理、それから数年後、一足先に名古屋に戻ることが分かり、引っ越しする友達を見送ることに。異性でクラスも違い、そんなに沢山話した訳ではないのだけど、同じ転校生で3年に1度の転勤は子供ながらに理解していて、穏やかな彼の存在にどこかで自分は助けられていたんだなとその時実感しました。別れって突然なんだな。その後、父も栄転で名古屋に戻ることになり、支店長代理に。追いついたんだなと思っていたのも束の間、父の天敵であった上司は、いつの間にか支店長にまで登りつめていたことがふとした会話で分かりました。父は、言葉にはしないけど、そこを目指しているんだなと。それから、学歴の壁にぶつかり、上に行くどころか危うい立場に。父の中で沢山の葛藤や悔しさが混在し、家の中は荒み、若い彼女を作って出ていきました。彼女がいたのは寂しかったから、でも本当は一人になりたかったのではないか、そんな気もしていて。そんな波乱に満ちた状態の後、何回か父宅へ呼び出され、最近あった出来事を話しました。「大学近くの駐輪場で、○○君の自転車を見かけたの。名前が書いてあって名字が珍しいから絶対本人だと思って。もしかしたら同じ大学に通っているのかも?」「この間、通勤のバスの車内でたまたま○○さんに会ったんだよ。そうしたら、Sと同じ大学に通ってるって聞いたぞ。学部は違うみたいだけど。」その話を聞いて、一気にいろんな気持ちがこみ上げ、胸がいっぱいになりました。父は上司に追い付けなかった、でも子供達は同じキャンパスで同じ時を過ごしていたんだなと。ふらっと息子にクオカードを持ってきた父を見て、心も体も丸くなった姿を感じ、戦った人の痕跡に触れたような気がしました。お父さん、私ね、大学在学中、一般教養の講義も結構受けていたの。文学部に在籍していたけど、他学部の学生さん達と入り混じって大講義室で受講することもあった。その中にもしかしたら○○君もいたかもしれないね。世の中そんな風にできているんじゃないかなって思ったら、嬉しくなったよ。お父さんが追い付けなくても、私は彼と横一線だった。いろんなことがあったね、父の横顔を見ながらそっと心の中で伝えました。

「じいちゃんな、いっぱい手術して傷口だらけなんだよ。」と言いながら孫にお腹を見せて、若干引いている息子。その様子がちょっと滑稽で、このひとときをおじいちゃん達は微笑ましく見てくれているだろうかと、なんだか気配を感じたようでした。Sちんのところにみんなが集まるんだよ、それで苦しくなることもあると思う、そうネネちゃんは何度も言ってくれた。なんでだろうと改めて考えてみたら少しだけ分かった気がして。みんなの秘密を守るからなのかな。格好悪さも、人間味。せっかく出してくれた勇気をそっと胸の中で応援し続ける、これからもずっと。