心の中で飛んでみた

私が大学生の時に、姉が留学していたカナダ。そこのホストママがお誕生日にプレゼントしてくれた雪だるまのパジャマを姉から譲り受け、着心地がいいからまだ使っていると本人に伝えると、大爆笑をされてしまいました。「まだ使っていたの?!何年前だっけ?」「かれこれ20年ぐらい前だね。何回洗濯してもボロボロにならないし、温かいから楽なんだよ。」と話すと、私の物持ちの良さを知っている姉は呆れながらも笑い続けてくれました。20代の頃、一人暮らしを頑張る私の手に、もう使わないからとルイヴィトンの財布を渡され、それもまだ使っている話は次回会ったらすることにしよう。年季入りすぎなのだけど、姉が大阪で使っていたものだから捨てられないんだ。

高校3年の冬休み、指定校推薦を勝ち取り、大学合格を決めてほっとしながら姉の女子寮に向かいました。挨拶もそこそこに、明日は早番だから早く寝る!と言われ、いつもの日常を見せてもらった訳で。「早番とか遅番とか、時間が定まっていないから体が大変だよね。」「そうなんだよ。あまりにも早い時間だと、電車も走っていないからタクシーに乗って、車内でメイクする時もあるよ。」「本当に体に気を付けてね。明日、適当に起きて関空に向かうからそこで待ち合わせしようね!文庫持っていくから、遅れても大丈夫だよ。」「分かった。適当に時間潰していてね。」そう言って就寝。本当にまだ暗いうちから準備を済ませ、ささっと出て行く姉を心の中で見送り、のんびりと支度を終わらせ、南海電車に乗りました。段々と海が近づくその景色を見て、姉はいつもどんな気持ちで揺られているのだろうと沢山の思いが渦巻いて、胸がいっぱいに。そして、空港に到着すると、いろんな制服を着た沢山のスタッフの方が歩いていて、ワクワクしてきました。姉の仕事はグラウンドホステス、チェックインカウンターに行くと本人は不在だったものの、同じ制服を着た方達が働いていて嬉しくなって。「S、グラホの仕事が決まった!大阪だよ!関空だよ!」「お姉ちゃんおめでとう!面接の練習、結果が出て嬉しいよ~。」そう言って二人で喜んだ後、大阪か、離れちゃうんだねとそっと寂しくなった時のことが蘇ってきて堪らない気持ちになりました。そんな私の思いを察してか、呼んでくれた関空、海外の大きな翼の飛行機が何機も飛び立ちずっと見ていたひととき。あっという間に時間が過ぎ、待ち合わせ場所のベンチで本を読んでいると、慌ててやってきた制服姿の姉。「S、ごめん!まだ着替えていないからもう少し待ってて。」「お姉ちゃん!素敵~。ちょっとマニアには堪らない。」「あんた、何言ってるの?」「せっかくだから写真撮ってもらおうよ~。カメラ持ってきたの。」「はあ?」そんなことを言っていると、道を尋ねてきた老夫婦。姉が説明を終えた後、「制服着ているから目立つんだよ!」と怒られながらも、近くを通過した方にツーショット写真を撮ってもらいました。「なんで妹と制服姿で写真なのよ~。」とまだプリプリしていたものの、本当に嬉しくて。お姉ちゃん、制服姿素敵よ、見せてくれてありがとう。

その後、私服に着替えた姉がまだ半分冗談で怒りながら、空港内のレストランに案内してくれました。「私がチェックインカウンターに行った時、姿が見えなかったの。」「もしかしたら、トランシーバーを持って走っていたかも。搭乗ゲートにいたかもしれないね。」「大変だね。結構体力勝負なんだと思ったよ。スーツケースを計る時も持ちあげるから重いよね。」「ヒールを履いているから最初は大変だった。でも、もう慣れたよ。」そう言って笑ってくれました。その時、お会計でヴィトンの財布から出してくれた二人分の料金。姉が働いて得た給料を、名古屋からやってきた妹の為にと出してくれた価値あるお金。その時のお財布だから、大事にしたかった。どんな思いで働き、空港から見上げた空に飛び立つ飛行機のCAを目指し、頑張っていたか。スカーフを巻く度、関空で働く姉に少しだけ近づけた気がしました。ずっと応援していたよ。
時は流れ、長い間友達でいた男性と結婚した姉。二次会で、グループの席でクイズが行われ、姉がこれまで行った合コンの回数が4択で出されました。「この席は、妹さんがいるから当たるよ。お姉ちゃん何回行っていた?」と聞かれ、「え~、結構行っていましたよ。30~40回かな。」と言うとそのテーブルのみんなが驚いていて。そして、正解はなんと50回以上という答え。「え~!!お姉ちゃんそんなに行っていたの!!」と私が叫ぶものだからみんなが大爆笑。同期のみんなが名古屋まで駆けつけてくれて、いい結婚式だったな。

その後、母と行ったオーストラリアで東日本大震災が起き、姉との国際電話で状況が分かりました。「S、いい?まずは落ち着きなさい。おじいちゃんのことはこちらでなんとかするから、すぐに帰国できなくても気にしなくていい。とにかくチェックインカウンターで聞いてきて。」色んな状況に空港で対応してきた姉だからこその落ち着きに拝みたくなりました。成田行きはキャンセル、関空行きはすでにいっぱいで、その日は帰国することができず、ようやく翌日の夜に関空に到着。まさか、二回目の関空がこんなことになるとは思わず、姉とツーショート写真の場所を通過し、泣きそうになりました。しまった!成田空港から高速バスのチケットで帰る予定だったので、そんなに現金がない!と慌て、ATMを見つけ二人分の新幹線代を確保。南海電車に揺られ、色んなことが駆け巡りました。国際電話でも、新幹線の中でもメールでそばにいてくれた姉。フライトは決して楽しいことばかりじゃない、でも、飛んだ。目的地に向かって。姉も私も辛いフライトを経験して、それでもどこかで夢を乗せてくれていると信じて飛ぶ。心の中に大きな翼、きっとみんな持っているんだよね。