広がる世界

気持ちが流れるようにと願って出向いた、図書館の自習室。この雰囲気が好きで席に落ち着くと、斜め前に座ったのは、坊主頭の学生さんでした。もうね、野球部にしか見えない。こんがり焼けているし、主将をやっていそうな貫禄もあり、ちょっとテンションが上がってしまいました。来て良かった。

まだ梅雨が真只中の時、広報委員で平日の夜に急遽集まらなければならない事案ができ、委員長からグループLINEが入りました。夜は調子が崩れやすく、息子もどうしようと思う中で、『できるだけ向かいます』と絵文字を入れて送信すると、同じクラスですっかり仲良くなったお母さんが個別に連絡をくれました。『R君、よかったらうちの子と遊んでる?みんな忙しそうだから、二人で作業ができたらいいなって思って。』以心伝心。お互いが一人っ子の男の子ママ。一人で留守番をさせるにはまだどこかで抵抗があると話したことがあって、私の文面からそのことを感じ取って連絡をくれたことが分かりました。幸い、母が来てくれる段取りがついていたのでそのことを伝えると安心してくれて、彼女の自宅で作業をさせてもらうことに。4時の待ち合わせに向けて、午前中はパソコンを開き、息子は半日で帰宅し、夕飯準備をし、宿題を見て、母が持参してくれたとうもろこしをゆで、すでにへとへと。それでも、気持ちを切り替え学校で待ち合わせをしてご自宅にお邪魔すると、すっかりスイッチが入りました。修正版の最終チェックの為に二人で真剣モード。訂正箇所を私が読み上げ、彼女が業者さんへの提出資料に赤を入れ、何度も何度も確認をしました。テニスのダブルスで前衛を任された時は、私が右に行くと相方が後衛ですかさず左に走ってくれる、そんな阿吽の呼吸のようなものがいつも二人の間にはあって、嬉しくなりました。息子君ともすっかり仲良しで、思いっきり絡みにいき、みんなで大盛り上がり。最後は、ガールズトークで栄養士さんだったことが分かりました。彼女と何かが重なるんだな。「今度は、R君と二人でゆっくり遊びに来てね。」とまだ全然話し足りない様子で笑ってしまって。息子が本当に繋げてくれたよ、深い縁。受け身でいるのに、世界がゆっくりと広がっていく。

姉の結婚式。父と祖父は目も合わせようとせず、席順を見たら円テーブルの隣同士だったので、私が間に入ることにしました。神経をすり減らし、お祝いの席でうちの席だけどんよりしていたので、本当に困ってしまって。父に話しかけてもリアクションは薄く、母はなんだかそわそわしていて、祖父は久しぶりに会った父をどこかで許していないよう。お姉ちゃんの結婚式なんだからという気持ちと情けなさと、なんとか周りに気づかれないよう取り繕わなければと、いろんな思いが錯綜していた時に姉夫婦の後ろがぱっと明るくなったように感じました。何?と振り向くと、そこには姉の元同僚達が制服を着て並んでいて、そこだけひと際華やいでいるようで。航空会社で働いていた姉、慣れない土地で一人頑張り、うちの両親のことは恥ずかしくて同期の誰にも言えないなんて弱音を吐いてくれたこともあって、そんな姉が大阪で色んな気持ちを抱えながらも飛んでいたのだと思いました。一人ずつ寄せてくれる言葉が空港や飛行機を連想させ、最後にマイクを持った綺麗な方が落ち着いて届けてくれて。「Ladies and gentlemen…」
流暢な英語で最後を締めた時、涙が一滴こぼれ、姉がいた世界を感じさせてもらえたことに胸がいっぱいでした。女子寮に行くと、みんなが温かく迎えてくれて、名古屋で一緒に合コンに行ったこともあり、そんな方達の働く姿を想像して、届けられた空気感に嬉しくなりました。

自分の語学力に限界を感じ、後輩達が沢山入ってくる中で、留学を決意。大学4年時、カナダへ行った姉に会いに行く為、母と乗り込んだ大きな飛行機で色んなことを感じました。姉は、夢のある飛行機に乗って心の重しを忘れたかったのかもしれないなと。久しぶりの再会、そしてくだらない話を聞いてもらいました。「機内で、『Beef or fish?』って聞かれたんだけど、あまりにも眠たくて『Yes!』って答えたら半笑いされながら肉が届いたの。」「答えになってないし。」「でね、入国審査の時旅の目的を聞かれたんだけど、聞き取れなかったから、3択にしてくれたの。『Travel or study or business?』って。で、『Travel!』って言ったら、『Oh, カンコウ!』って言われて、日本語しゃべれるじゃないかってずっこけそうになったよ。」「あんたさ、そんなにボケボケでよくお母さんとバンクーバーで乗り換えできたね。」「とりあえず、表示された単語を拾ったり、適当な英語でなんとかなったんだよ。乗り換えの時間がないのに、お母さんが現地のお菓子が食べたいって言い出して、まだ換金していないから無理って言いながら連れてくるの、大変だったんだから。」そう言うと、ひとしきり笑ってくれました。「よく来たね。」姉のその言葉にはいろんな思いが詰まっていて、堪りませんでした。
太平洋を横断して、長距離フライトで来たよ。海も雲の上も、綺麗だった。私に、世界を見せたかったこと、知ってるよ。