想像力の勝ち

シェアオフィスで私が勝手にIT技術者の方だと思っていた若い彼は、不動産関係のお仕事をされていることが分かりました。思い込みって恐ろしい。いつも大きなディスプレイを使い、常にパソコンの前に座っていたので、先入観で勘違い。色々とお話をする中で、並行して勉強していた資格試験がこの状態で伸びてしまい、いつになるか分からないので、モチベーションが下がってしまったと弱音を吐いてくれました。いやいや、いつもオフィスに来て勉強している姿を見ているから大丈夫ですよ、そう心の中で呟きながらエール。通常の時間帯だけでなく、追加オプションを頼み、遅くまでオフィスにいることも分かりました。ここの番人のような存在、絶対に合格してください。その姿を見て、私も頑張るから。

以前、そのオフィスの階段で何かをやっていた若い女性スタッフさん。私がなんとなく光合成をしているんじゃないかと楽しんでいた一コマです。よく見てみると、そこにはミニキャロットが育てられていて、間違いではなかったと喜んでしまいました。想像力の勝ち、適当に言って当たることもあるものです。そう言えば昔、サボテンのサボちゃんを私も育てていたな。水をあげ過ぎて変な形になってしまいましたが。サービス精神旺盛なのは、時に良くないらしい。

今、視野を広げたくても、ここ数か月市内から出ていない現状があり、これは一体どうしたものかと困惑していました。さすがにネタ切れか?と思っていると、パソコンを立ち上げ飛び込んできた嬉しいニュース。『甲子園中止で西武・松坂が“代替案”ネット賛同「SNS甲子園やるしかない」「怪物は人間性も凄い」』というものでした。高校野球の夏の大会が中止となり、「従来の形の地方大会でなくとも、仲間と積み上げた日々を証明する舞台を用意してもらいたいです。『インターネット上のグラウンド』で紹介することはできないでしょうか。」と提案したそう。その記事を読み、胸の奥底からこみ上げるものがありました。嘆いている場合ではない、何か新しいこと、他の手段で選手達の気持ちに応えてあげてほしい、僕がそうだったように、その舞台は未来に続くものだから、そんな気持ちを感じました。松坂投手の横浜高校時代、優勝が決まった瞬間のガッツポーズを思い出し、彼の原点がここにあるのだと熱いものがこみ上げ、下を向いている場合ではないなと思いました。何か形になるものを。泡のように消えてしまわないように、野球を仲間と頑張ってきて良かったなと心から思える舞台が整ってくれることを、私も願っています。

大学在学中、大学野球で中部地区の上位まで行った野球部を応援する為に、チャーターバスが用意されました。それでも、アルバイトに行かなければならなかった為、泣く泣く断念。行きたかったな。せめて練習風景だけでも見に行けば良かった。その時しか見られないこと、できないこと、後になってみてその大切さを知りました。その時の悔しさが今でも残っているから、見逃したくない試合は可能な限り観るようにしていて。ダイジェストじゃダメなんだよ。その時、その一球で、そのサインで試合が決まる瞬間を見届けたいんだ。

私がまだ岐阜の小学校に行く前、父が単身赴任をしていた頃、ふらっと名古屋に帰って来てくれたことがありました。久しぶりに会えたことが嬉しく、黒のアタッシュケースに小さないたずら。それを見た母と祖父は私に激怒したのですが、すぐにはがれるシールのようなものを付けただけだったということもあり、父は何も言わず、凹んでいる私に声をかけてくれました。「S、一緒にキャッチボールするか!」本当に嬉しかった。たまにしか会えない父と、何かコミュニケーションを取りたくて思いついたいたずら。その子供心に父は気づいていました。だから、怒りよりも私がしたいと思うことを伝えてくれたのだと。「うん・・・。」半分涙声になりながら頷き、始めたキャッチボール。会話なんてない。それでも、お互いの顔を見て、相手が投げたボールが手の中に収まる時、交われているような優しい感触がありました。こうなることは、予想していなかった。だから多分、今回は父の勝ち。娘にとって何が心地いいのか、分かっていたから。