ひらめきが大事

母宅のカーテンを留める時に、パンダの長い手にマグネットが付いたぬいぐるみで、パチッとやっているのを見かけました。実は密かに狙っていた娘。「お母さん、このパンダ、可愛いからもらっちゃダメ?Rが気に入りそう。」「あら、そうなの?まあいいわ。」最後のひと言が効いたのか、あっさりもらうことになり、早速自宅で利用しようと思うと、息子に取られてしまいました。「ママ、このパンダちゃんね、まだ赤ちゃんなんだよ。だから、ミルクをあげないと。」と言われ、慌ててブロックで哺乳瓶を作り出した7歳児。カーテン留めの役割はどこ行った?!仕方がないので、パンダちゃんのお世話を付き合うことに。「この子、中国から来たのかなあ。」と息子。「台東区じゃない?」と私。「えっ?どこ?日本なの?」と質問攻めが待っていた訳で。「東京都台東区の上野動物園です!!」と真面目に答えていると、寝かしつけごっこで遊びだした小2男子。人の話、聞いちゃいない。その後、公園へ遊びに行くことになり、くみちゃんにお世話をしてもらうから、リストを書いておくと言われ、すっかり出るのが遅くなってしまいました。これで、生活の授業と文字の練習はできたことになるのか?!パンダちゃんよ、母宅に帰るかい?ここにいたら、息子にいじられる人生が待っているよ。

大学在学中のある日、夜になってマブダチK君が電話をかけてきたことがありました。「ちょっと渡したいものがあるから、今から行くぞ。」「えっ?メイクも落として頭ぼさぼさなんだけど。」「今さらなに言ってるんだよ。お前高校時代もすっぴんだっただろ。」おっしゃる通りで。仕方がないので、本当に部屋着のまま玄関先まで出ると、車に乗ったまま、助手席の窓を開けて一枚のCDを渡されました。それは、Westlifeの『The Greatest Hits Vol.1』のアルバムでした。「このCDを運転しながら聴いていたら、なんだかSみたいだなって思ったんだよ。新しいのを買ったから聴いてみて。うまく説明できん。とりあえず聴け、じゃあな。」K君から形のあるプレゼントをもらったという記憶はなかったのに、整理していたら出てきた一枚のアルバム。その時以来、ずっと一緒にいてくれたようです。音楽と共に、彼の言葉が蘇る。「お前、超が付くほど色々考えさせられるし、もっと楽に物事を考えた方がいいだろと思ったりもするんだよ。そんな風に生きていたら苦しいだろって。でもな、俺はお前に会えてラッキーだったって思うんだよ。どうしてか分かるか?こんなに自分の為に怒ったり、一緒に泣いてくれるやつ、一生出会えないだろうって思うから。お前さ、嫌われることを恐れていないんだよ。それこそ、相手の為にエネルギーを使って怒って、それで縁が切れたとしても、分かってくれたらいいとか思うんだと思う。そんな先生に出会えたら、俺の人生もっと変わっていたかもしれないなって。お前が、教員の道は進まないって聞いた時、なんかもったいないなって思った。大変だと思うんだよ。でもやっぱりお前みたいな先生、いいなって。先生には反発していた俺が変われたように、こいつは何かを知らず知らずのうちに伝えられる人なんじゃないかって。だから、できるだけ多くの人と接しろよ。仕事じゃなくてもいい。沢山の人と触れ合え。俺と同じように、なんかよく分からないけど、お前と出会ってちょっと楽になった、人生捨てたもんじゃないなって思うヤツ、きっといると思うから。」

どんな時に、人は強くなれるのか。私にはまだよく分からないけど、ただ一つ言えるのは、訳の分からなくなっている自分を、そんな時もあるよって、いつもちゃんとしていたら気持ち悪いだろって笑い飛ばしてくれる友達がいてくれたこと。「お前が関東に行っても、俺と全く同じ気持ちでお前を友達として守ろうとする人にSは出会うよ。自信がある、だから心配していない。お前は一人になりたくても無理だ。分かったか。」そう言って笑ってくれた彼。そのバトンは、プログラマーのMさんに渡された。「あなたの文章で救われる人がいる。書いてみないか。」できるだけ多くの人に接すること、それは図書館や学校でなくてもできる。まさに、新しい生活様式になっていくこの時に、K君の言葉を反芻してみる。茶髪の彼が、親になり、真っ黒の頭になり、柔らかい笑顔を見せてくれた時、自分の役目は終わったのだと思いました。今度は、どこに向かう?その膨大なエネルギーを、自分の為にも誰かの為にも使い切れよ。
渡されたCDを聴くと、彼の言葉があの頃と全く変わらない温度で再生される。