役に立たなくてもいい

マスクが売ってないなと開き直っていたここ最近、そんなマスクの大切さを思い出した珍事件。まだ一人暮らしをしていた頃、冬休みに入り、母が祖父の入院先に付きっきりだったので、交代しようと思い、名古屋駅まで迎えに来てもらった時のこと。介護で気を張っているせいか、どこか母が逞しく見えて、少しの間こっちにいるから休める時に休んでと言葉を交わすとほっとしてくれました。総合病院に着くと、胃腸風邪が流行っているのでマスクの着用をするようにという注意喚起が。帰省したばかりで持っていなかったので、祖父の顔を一目だけ見て帰ったその夜に、何とも言えない気持ちの悪さが襲い、トイレに駆け込みました。ちょっと洒落にならないよ、母を助けるどころか、自分が病人になっている場合ではないと思いながら、一晩中うめいて朝を迎え寝ながら姉に電話。「お姉ちゃん、おじいちゃんの病院で胃腸風邪が流行っていたらしく、どうやら移ってしまったみたいで、深夜に吐いちゃったの。お母さんには内緒で、薬を買ってきてもらえたら助かるよ。」そう伝えると相変わらず冷静な姉が、「ちょっと待っていてね。色々考えてみるよ~。」とやや能天気な終わり方。数分後、母が飛んできて伝えてくれました。「今お姉ちゃんから電話があって、あなたが吐いちゃったから見てあげてって。今すぐ病院へ行きましょう。」お姉ちゃん、ちょっと考えるって、お母さんに伝えてどうするのよ、もう~と思いながらも素直に甘え、近くのクリニックへ。紳士的なおじいちゃん先生が診てくれたまさにその前でまた吐き気に襲われ、ノックダウン。母も看護士さんもみんなで背中をさすってくれて、情けなさと有難さが混在した気持ちで難を逃れました。

その後、もらってきた薬ですっかり回復。母にマスクをもらい、万全の態勢で祖父を見舞うと、顔色もよく、なんだか私の方が元気をもらったようでした。脳梗塞の治療がどういったものなのかが知りたくて、時間になって呼びに来てくれたリハビリ担当の方と祖父と一緒に個室へ。言語聴覚士さんだったかな。優しく丁寧に何枚かの絵を並べ、これは何を意味するか分かりますかと祖父に聞いていました。“駅舎”“切符”“3人組の男女”、それを見た祖父が、「皆仲良く」と言い出して、大爆笑。笑う所じゃないことは百も承知で、その発想がなぜかツボにはまってしまい、母も私を見てつられて笑いを堪え始め、随分和んだ空間になってしまいました。「おじいちゃん、多分それ、旅行とかそういう答えだと思うよ!」と心の中で呟きながら、言語聴覚士さんに祈るように感謝。丁寧なリハビリをありがとう、優しい時間をありがとう。母も、救われたと思います。

無事に退院した後も、別の場所で週に2回だけ送迎のデイサービスを受けることに。夏休みに、祖父に届けたいものがあるからと、母と二人で出向き、少しだけ様子を見せてもらいました。すると、祖父が皆の輪の中に入ろうとせず、一人だけ端のベンチへ行ってしまい、介護士さん達が皆と一緒に踊る姿を見て、涙がポロリ。ここで介護を受ける方達のこれまでの人生が一瞬垣間見えたようで、老いる姿をサポートしてくれようとしてくれるスタッフさんがいて、その気持ちが本当に温かくて。いつもお世話になっている主任さんにお礼を言うと、こっそり伝えてくれました。「○○さん、いつもは笑顔で楽しそうにしていますよ。今日はお孫さんもいて、照れもあるし、そういった姿を見せたくなかったんだと思います。きっと、格好いいおじいちゃんでいたかったんでしょうね。」そう言われ、はっとなりました。「そう言えば、少し前に姉が、届け物があってきたと聞いたんですが、その時はどうだったんですか?」「お姉さんは荷物を置いて、すぐに帰られましたよ。」淡白な所がいかにも姉らしいとも思ったのですが、本当は祖父への配慮だったのではないかとも思い、何とも言えない気持ちがこみ上げました。
その後、自宅に戻ってきた祖父にひと言。「おじいちゃんが一番格好良かった。男前だなあと思ったよ。」うんうん、そうか。くしゃっと笑った祖父の表情を忘れないでいようと思いました。役に立ったかは分からないけど、孫の私にできたこと。