ありのままでいること

担任の先生との面談後、もしかしたら保護者の私に踏み込んで話してくださったことを、先生が気にしてくれているのではないかと思っていたら、息子から翌日、宿題プリントを渡されました。大きく豪快に丸つけをしてくれた右上には、私宛のメッセージが。『昨日はありがとうございました!!だいたんにしゃべりすぎたと反省です。すみません。これからもよろしくお願いします!』絵文字が二つも入った先生らしい文章に、人柄が滲み出ていて笑ってしまいました。電話することでもない、連絡帳に書くことでもない、でも、ひと言だけ伝えておこうと、まさか息子のプリントから届けてくれるとは思わず、嬉しくなって返事を書くことに。『こちらこそありがとうございました。先生が温かい気持ちを届けてくださったからこそ、私は救われました。頂いた想い、ずっと大切にします。お会いできたことに感謝しています。これからもよろしくお願いします。』とこちらも絵文字付き。小さなメモ用紙に書き、提出物にクリップで留め、息子に配達してもらいました。受け取ってくれた先生が、そっと微笑んでくれたことは容易に想像できて。先生の一日が、ぽかぽかした時間になるといいな。

そんな週末、相変わらず室内遊園地と、自転車で広い公園まで弾けに行き、息子の寝相が悪かった影響で少し風邪をひいたらしく、学校はお休みすることにしました。すると、辛そうにしていたのは朝だけで、笑ってしまうぐらい食欲があったので、二人でご飯を食べた後ゆっくり話す時間が持てて。そして、最近の母の様子をさりげなく伝えると、何もかも分かっていて驚きました。近くにあったホワイトボードを使い、母の精神状態を大きな波で描いてくれて。「おばあちゃんの気分って、上がったり下がったりが激しいんだよ。そのことは三年生の終わりぐらいに気づいたの。最初はこういうものだと思っていたんだよ。でも、段々大きくなるにつれて何か違うって思うようになったの。一緒にいると、疲れちゃうようになってね。」「春休みは、おばあちゃんに預かってもらうこともあってごめんね。ジェットコースターのようなところがあるから、どうしてもRやお母さんは振り回されてしまうんだと思う。」「うん。このままだと一回転しそうだよ~。」と冗談交じりに話してくれるので、思わず笑ってしまいました。「おばあちゃんね、根はいい人なの。でも、自分で自分をコントロールできないところがあって、言いやすい人に気持ちをぶつけちゃうんだと思う。お母さんね、この歳になってもそういった人間関係の難しさに悩まされていて、Rもこの先色んな人に出会って、色々なことに直面すると思う。でもね、その歳でそれだけ理解できたのはすごいことだし、それはきっとこれから同じようなケースにぶつかった時役に立ってくれると思うんだ。みんなの前でいい子でいることはないんだよ。あれ?って思った時には、相手を傷つけない様に程よい距離を取ることが自分を守ることにも繋がっていくんだと思う。」そう伝えると、実は三年生の時に他の学年の子とちょっとあったと話してくれて驚きました。内容を聞くと、それは息子も重かっただろうなと思うことがあって。「話してくれてありがとう。なかなか聞いてあげられなくてごめんね。」「いいよ。ボクね、いつも一緒に帰ってくれる○○君がわざわざ遠回りしてくれて、なんでも聞いてくれるの。」その言葉を聞き、じわっとこみ上げました。引っ越し後、初めて学校までお迎えに行った時、途中でみんなと合流し、私の隣で楽しそうに会話をしてくれた友達。「○○君といるとボク楽なんだ。」分かるよ、お母さんも心地良かった。「Rが居心地いいのが一番だって思うよ。頑張らなくていいって大切なことだよね。大変なことも多いと思うけど、周りにいてくれる優しい友達を大切にしてね。小さい時のお母さんに似ているから、Rの気持ち分かるよ。」「生きていくことって大変だね。でも、ママが分かってくれて良かった。」本気で安堵していることが伝わってきたので、こちらも同じようにほっこりしました。息子はもう、本物を見つける旅に出たのかもしれないな。私がいなくても、歩き出している。

まだ小学校高学年の頃、地元の大きな本屋さんで友達と戯れることもあり、みんなでわいわいやっていると、父がふらっとやってきました。それを見逃さず、一冊の推理小説を握りしめ、「これ買って~。」と父に懇願。仕方がないな~という表情をされながら、無事に文庫をゲットし大喜び。その後も、偶然会う度、どさくさに紛れて文庫を買ってもらっていたことが、息子と過ごす中で急に蘇ってきました。父に分厚い文庫を渡すと、裏表紙を見て高いなと呟かれた時間。それに聞こえないふりをして、娘が小説を買ってほしいと言っているんだからここは譲らない!と絶対に折れませんでした。パチンコで勝とうが負けようが私には関係ない、子供に関心がなくてもこんな時ぐらい父親らしくいてよという自分の心の声までもが思い出され、笑ってしまって。父の前でプチ反抗期はそれなりにあったのかもしれないなと。そして、本もまた、父と私を繋いでくれていた。子供への投資の仕方って色々あるんだなと身をもって気づかされ、なんだか嬉しくなりました。父の世界を知りたくて、本棚にあった西村京太郎さんの本を読んでいた子供時代。ドラマで見た時、活字を追ってイメージした世界が映像で流れ、胸が高鳴りました。父の実家である佐賀まで、寝台列車で行くという話をされ、「殺人事件が起きたらどうしよう。」とオロオロする私に半笑いの父。実際、夜行列車に乗ると、本当に何かが起きそうで、そんな経験をさせてくれた両親に感謝の気持ちを忘れたらいけないなと改めて思いました。ずっと探していた、“本当”ってなんだろうなと。その答えを、私よりも先に息子が見付けてきたら、黙っておいてもらおうと思います。答えは目の前にあるよ、あなたと私が築いた関係。言葉にしたら、とても尊くて。心の中で一瞬光るキラキラが、本物なのかもしれない。