大笑いしよう

夏休み明け、ようやく落ち着いてシェアオフィスに行くと、待っていてくれたのはネネちゃんと同い年の女性スタッフさん。「お久しぶり~!元気そうで何より!」と半分友達のようなテンションに笑ってしまいました。「お久しぶりですっ。8月の絵、ホワイトボードに何を描いていたんだろうとずっと気になっていたんです。」「さあ、なんでしょう?」と問題を出されたので、受付で考えてみることに。「浮き輪?」「違いますよ。」「カブトムシかなあ。」「ムシは合っています。」「え~、なんだろう?蚊?」「正解!!」ボケたつもりがまさかのピンポンで、スマホから絵を見せてもらうと、蚊取り線香にやっつけられた蚊が描かれていて思いっきり笑ってしまいました。「若い方達、蚊取り線香知らないかもですよ~。やっつけられ方がかわいい!」と大盛り上がり。待ってましたと言わんばかりに解説をしてくれて、優しい時間が流れました。ただいま、帰ってきたよ。

姉の子供と一緒に公園で遊んだ時、幼少の頃の話をしてくれて、はっとなりました。とてもこの場で書けないような内容なので、細かいことは避けますが、私の中でやはり消去ボタンがあったことが明確になりました。パソコンで言う、ゴミ箱の存在。そこに捨てるのだけど、実際にはゴミ箱にまだデータは残っていて、それでも自分の中では削除したことになっているので見向きもしない。それが、姉の話で急に蘇り、母のことでずっと悩んでいた子供時代を思い出しました。自分が健やかに生きる為に必要なボタンだったのかもしれないな、それがこのタイミングで引き出されたのは、思い出してももう大丈夫だという所まで来たのではないか、ネネちゃんはそのことを分かった上で伝えてくれた言葉だと感じました。そして、少し違う角度から話してくれて。「うちの両親も、おじいちゃんやおばあちゃんも何か言って買ってくれる人達じゃなかったから、諦めていたよ。」その話を聞いて、遠い記憶がスライドのように蘇ってきました。父は、祖父のいる家に週末はいたくなく、パチンコ三昧。それでも、母に気づかれると不穏な空気が流れることを知っていた父は、気分転換に喫茶店へ私を誘いました。「S、喫茶店に行こう。二人で行けばパチンコだとは思われないから。」「だったらお姉ちゃんも誘う!」そう言うと露骨に父が嫌な顔をしたので、それ以上何も言えなくなって。お父さんは、三人分のお茶代を払うのも、三人で目立つのも嫌なんだろうなと。状況が分かり、父について行き、少年ジャンプを読みながらクリームソーダを飲み、姉に気づかれないようにそっと帰りました。本屋さんで偶然会えば、どさくさに紛れて文庫を買ってもらい、パチンコの景品のチョコレートは私の引き出しに入れられ、手に入れた中日戦に誘ってくれました。家の外では父親らしい一面も数パーセントだけどあって、でもそこにネネちゃんはいなくて、なんてことをしてくれたんだと思う。そして、私も彼女をどこかで傷つけていたのかもしれないなと。姉の結婚式。両親が別居してどろどろの状態であった中、父も出席することに。姉と父の間にあったわだかまり、それはもう埋めようのないもので、そんな二人が腕を組み、バージンロードをゆっくり歩いた時、どうしようもない溝が少しずつ薄れていくようで、真後ろに姉の会社の方達がいる中で、ポロポロ泣けてきてしまい大変でした。後からネネちゃんに聞くと、緊張していて何も覚えていないと話してくれて。でも、その横顔しっかり私が覚えておくよ。本当にいい時間だった。今後の姉妹カフェの費用一生分、父に払ってもらおうか。バリ島旅行でもいいかもしれない。鈍感なりに、人の痛みに気づけと爆弾を落としに行く準備は着々と進めることにしよう。

「ママもぬいぐるみ、好きだったんでしょ。」と息子。「うん、あまりにも好き過ぎて手に握れるサイズのねずみを半ズボンのお腹に入れていてね。その当時、トイレは和式で、すっかり忘れていてねずみをポチャンって落としちゃったの。本当にもう最悪だった。」そう話すとゲラゲラ大爆笑。「その後どうしたの?」「泣き叫んでいたら、M伯母さん(姉)が来てお腹抱えて笑っていてね。それを見たら余計に悲しくなってきて、そうしたらRでいうひいおばあちゃんが助けに来てくれたの。ねずみを拾い上げて、手洗いして、外の木に干してくれてね。どうなっているか気になって見に行くと、冬の寒い日でカチンコチンにしっぽから凍っていて、それを見てまた大泣き。そしたら、またひいおばあちゃんが来てこたつで解凍してくれたの。その間ずっとM伯母さんは隣で笑っていたよ。」そう伝えると、息子までお腹を抱えて笑うので、一緒に笑ってしまいました。「ママって、ばかだったの?」率直な感想をどうもありがとう。「Rもそういう所あるでしょ。くみちゃん、いつもそばにいるからボロボロだし。大事にし過ぎてそんな悲劇にあったから、本当にショックだったよ。」「ボクと一緒だね!」そう言っていい笑顔を見せてくれました。

雪の降った寒い日、決して体調の良くなかった祖母が冷たい水で手洗いしてくれた“ちゅうたろう”。しっぽを木の枝に留め、これで乾くからと笑ってくれました。祖母が他界し、見上げた我が家の桜の木、たった一輪だけ咲いた花と、カチンコチンに凍った“ちゅうたろう”を思い出し、涙が溢れた8歳の春。桜の木を見る度微笑みたくなるのは、祖母と姉と過ごしたあたたかい時間が幹に詰まっているからかもしれない。去年再会し、闇の中にいると話してくれたネネちゃん、最近になって「Rがぬいぐるみ好き過ぎる!」と話すと、「さすがDNA!」と大笑い。子供の頃の記憶、いつの日か全部笑い話にしよう。「やっぱり女性同士はアジアよね~。」という約束覚えているから。悲しい過去のパッキング、太平洋の海に捨てるカウントダウンは始まった。