ある日のこと

日曜日の朝、久しぶりに野球の練習があったものの、なかなか起きてこない息子の近くに行き、行きたくないことが分かっていたので、座ってお話をしました。「Rが行きたくないのに、強引に行かせたりしないからいいんだよ。また行きたいと思えるようになった時でいいから、無理しなくていい。」そう言って頭をなでるとほっとしてくれました。そして、月謝が全然渡せていないことと息子の状態をやんわりメッセージで男性役員の方にメールを送ると嬉しい返信が。『月謝は練習に参加する時で大丈夫です。三年生以下は野球以外も楽しみながらやっているみたいです。(練習ももっとしないといけませんが・・・)是非、気軽にお越しください。』あたたかいな、こちらを気負わせない優しい内容に心がほっこりしました。息子と同級生のお父さん、ご挨拶をさせてもらったこともあり、人柄ってこういう時に出るのだと。いいチームにいられて良かったね。あなたの選択を応援する。

その前日、昼ご飯を食べた後、息子がヤクルトを冷蔵庫から取り出し、軽い気持ちで上に投げた時にうまくキャッチができず、床に落としてしまった拍子に開いてこぼれてしまいました。それを見た夫が激怒。「何やってるんだよ!なんでそんなに学習できないんだ!自分で拭け!」と吐き捨てるように言われたことでショックを受け、夫が別の部屋に行った後、我慢していた息子がテーブルの下にしゃがみ込みこっそり泣いてしまいました。「Rがヤクルトを投げたのはよくないこと、それは分かるよね。でも、パパの言葉はきつかったから辛かったね。午後はお母さんと二人で出かけようか?」そう伝えると、こっくり頷いた息子。夫には、「ワクチンの倦怠感でまだ辛いだろうからゆっくりしていて。二人で出てくるから。」と違和感のないように伝え、そっと出ました。幸いにも両親がドライブに連れて行ってくれて、頭痛の酷かった私は自宅で休ませてもらうことに。いい表情で夕方帰宅した息子を見てほっとし、両親にお礼を言ってお別れ。そして、息子に改めて伝えました。「今日はパパの言葉が強くて悲しかったね。Rが昼間に感じた痛み、お母さんも何度も受けてきたから分かるよ。お母さんのお仕事のことも、パパがあなたに言ったのは分かっているから。」「うん。」「間に入って、苦しい思いをさせちゃってごめんね。Rが二つお仕事をしてなんてそんな意地悪を言う子じゃないって知っているから。」そう言うと、目に涙を溜めて頷いてくれました。息子を信じて良かった。夏休み、宿題を見た午前中、状態のあまり良くない私を寝かせてくれました。寝すぎて謝りながら起きてくると、「いいよ!その分ボク、テレビが観れたから。」と言ってくれて。そんな気遣いを見せてくれる息子が、私の仕事を批判する訳がない。その答え合わせができた時、私に司書に戻るよう息子に言わせた夫に対して、色んな気持ちがこみ上げました。怒り、悲しみ、呆れ、失望、もっと沢山のもの。

その夜も、夫と息子がお風呂に入っている時に何やら聞こえてきました。「リフォームしたらもっと家の中が綺麗になるんだよ。壁紙も変えるんだよ。このマンションでリフォームしたおうちが見られるから明日行こうよ!」と息子の誘導をまた始めた夫。翌日の昼になり、私も誘われたものの断ると、息子が何かを察知したようでした。その後、三人で公園に行く約束をしていたので、夫が先に車に行っている間に息子だけがトイレに戻って伝えてくれました。「ママ、リフォーム大したことなかったから来なくて正解だったよ。」その言葉を聞いて、思わずハグ。「ありがとうね。」彼の中で正しさを見付けて行ってくれているのではないか、そう思えた瞬間でした。どれだけ部屋をきれいにしても、息子や私の痛みに気づいてもらえなかったら、中身のない寂しい家庭になる。外ばかりを見たらダメなんだよ、そのことに夫は気づく時がくるのだろうか。

シェアオフィスのミルキーのKさんと前に偶然カフェで会った時、こちらの話を聞いてくれました。「実は、卵巣で腫瘍が見つかった時、夫に話しても優しい言葉一つかけてもらえなかったんです。仕事の部署が変わって大変なのは分かる、でも、手術前に不安や激痛と戦いながら、ようやく起き上がれた朝にため息をつかれたりして、本当に辛くて。入院二日前の執刀医の説明で、ようやく夫が事の重大さに気づいて、手術日有給取るよって言われたのですが、両親がいてくれるからもう今さらいいよって断ったんです。そのまま何も言われず、手術当日の朝『休みが取れなくてごめんなさい』ってメッセージが入っていたんですけど、そこじゃないって思いました。仕事で休めないなら仕方がない、たったひと言優しい言葉をかけてほしかった、それだけです。入院中も、週末一度行くよって連絡が入ったんですけど断りました。退院して夜に会い、テレビを点けたままソファに座って「大丈夫?」って面倒くさそうに言われて、LINEで謝ったらそれでいいんだって思いました。他に言うことはないの?って聞いても、不貞腐れてしまって、自分は悪くないんだなって。妻が命に関わる手術をしても、夫はこんな態度なんだと思ったら心底悲しくなりました。」そう話すとKさんは絶句。「ちょっと考えられないです。僕の感覚とは違い過ぎて・・・。僕、奥さんがICUに入った時、毎日病院に行っていたんです。足をさすったり、話しかけたり、そばにいました。退院してきたらハグでしょう。なんで、ソファでテレビ観ているんですか。○○さん、どうしてこんなに深く僕の話を聞いてくれるのかなって、ずっと不思議だったんです。なんでそんな優しい言葉をかけてくれるのかなって。ようやく分かりました。あなた自身が辛い中にいるからですよね。僕、あなたがいなかったらどうなっていたか分かりません。そんなあなたがなんでそんな思いをしているんですか。世の中にそういう人がいるのは分かります。でも、それが○○さんの旦那さんだと思うといやだし納得ができない。右側の卵巣、もし再発してまた入院にでもなったら、僕が旦那さんのお面を付けて毎日病院に行きます。あなたは迷惑かもしれないけど、そんな寂しい思いをしたらだめですよ。告知された時辛かったでしょう。僕も胃がんを経験したから分かるんです。手術は成功しても、なかなか体は元の状態に戻らなかったりするんです。そんな自分が悔しくて。だから、僕にできることはなんでも言ってください。」そう言って、私の為に心を痛めてくれました。「ありがとうございます。Kさんの奥様、こんな優しい旦那さんに愛され、お幸せでしたね。」そう言うとまた泣かせてしまいました。

私の心が、少し晴れた日。告知された時辛かったでしょう、彼のこんな言葉でようやく自分の為に泣けた気がしました。大切なものを知っている人の愛あるひと言、消えることなく受け取ったよ。