過去が現在になる

友達と楽しそうに帰ってきた息子が、嬉しそうに伝えてくれました。「ボクのランドセルが、今日重いのはどうしてでしょうか?」「う~ん。水筒のお茶を飲まなかったから?」ブッブーと言いながら取り出してくれたのは、大きなサイズの絵本でした。「今日ね、初めて授業で図書室に行って、1冊借りてきたんだ。後で一緒に読もうね!」ついにこの日が来たかと思うと、なんとも言えない気持ちがこみ上げました。

よく見てみると、バーコードがしっかりと貼付され、ブックカバーも綺麗にしてあり、息子に貸出の方法を聞いてみると、「図書室の先生が、ピッとやっていたよ。」という話。でも、どうやら毎日来ている訳ではないらしく、決まった曜日に来てくださっていることが分かりました。「沢山の本があったんだよ。ボク、迷っちゃったんだけど、面白そうだったからこれにしたんだ。」自分で選んで、自分で借りたのね。その本は、学校のもの。大切に読んで返しに行ってね。「図書室の先生がね。」って話してくれる息子の表情がとても嬉しそうで、私もそんな風に子供達に言われていたのかなと、やはり懐かしくなりました。

貸出をパソコンで行うのは、図書室のIT化が進んでいる証拠。私もオンライン目録で苦戦した経験があり、その時に周りの先生達が、そこまで慌てることはないからと慰めてくれたことがありました。理由を聞いてみると、一人一枚の紙の貸出カードを持っていて、本を借りる時、一生懸命に書名を書くから、文字の練習にもなりますと。便利になることばかりに目がいっていたので、そういった先生達の視点にはっとなりました。カウンターで、もたもたしながら貸出カードを書いていた一年生の子達。「先生、『あ』ってどうやって書くんだっけ?」そう言えば、そんな質問もされたな。データ化され、貸出返却処理がパソコンでできるようになっても、画面ばかりを見るのではなく、ちゃんと子供達の顔を見ようと、皆から教わったような気がしました。

息子が借りてきたのは、『100かいだてのいえ』(いわいとしお著、偕成社)という可愛らしい絵本。縦に開いていく珍しいタイプの絵本で、知らない世界がまだまだあるなと、息子とまた一緒に学んでいこうと思います。そして、読んでいる時、左の肩に当たる彼の温もりも忘れないでいよう。

小学校の図書室を退職する1週間ぐらい前、朝早くから出勤されている校長先生に、ちょっとわがままなお願いをしました。「校長先生、図書室のパソコンの立ち上がりが遅いので、申し訳ないんですけど、出勤されたら電源だけ入れてもらってもいいですか?子供達をいつも待たせてしまうので。」そう伝えると、快諾してくれました。そして、ある時伝えてくれました。「朝の図書室のカウンターで、のんびり絵本を読むのもいいね。あの絵本、懐かしかったよ。」そう言って笑ってくれた校長先生は、私の意図にそっと気づいてくれていたよう。電源は理由の一つで、本当はカウンターに毎日違う絵本をこっそり置いて、先生に読んでもらいたかったことを。私はここを離れるけど、こういった絵本を子供達は読んでくれていて、こんな本がこの図書室には置いてあるのだと、知ってもらう為。そして、何より、いつも忙しくしている校長先生に和んでもらいたくて。小学校にある図書室は、そういう場所。最後に、にやっと笑った先生の顔を見て、作戦成功を確信。

退職後、2年生の女の子が、読書感想文で表彰されたとメールをくれました。『先生が子供達に本の面白さを教えてくれたおかげです。職員室でも拍手が起きました。ありがとう』と。