週末の朝、ピンポンとチャイムが鳴り、洗面所で顔を洗う前だったので息子に出てもらいました。すると、顔を出したのは父、まだ会いたくないんだよなと思いながらも対応することに。「おはよう。」「おう!よく来てくれたな。これ、香典返し。費用、結構かかっただろ。」「わざわざありがとう。費用のことはいいよ。」「何時に着いた?」「夜9時。」「なんで飛行機を選ばなかったんだ?その方が早く着いただろ。」おじいちゃんとの思い出を辿っていたんだよ、博多駅にも途中下車した、それは私にとってとても大切な時間だった。この気持ちを、父に分かってもらうのも何か違う気がして、いつか時が来たら、本当に話したいと思う時が来たら、23年前のことからゆっくり話そうと思います。お墓まで持って行く話が多すぎるんだよな、きっと私の中で。でもね、お父さんが能天気でも聞いてくれる人達がいるんだ。長い歴史、そして今、近未来。全部が繋がり、ひとつの束になる。
博多駅で、貴重な時間を小刻みに使いながら、最後にトイレへ入りました。フィッティングボードのあるスペースに入り、喪服を脱いで持ってきていた膝丈のワンピースに早着替え。脱皮だ脱皮、へび年だけに、ふふっと勝手に盛り上がり、いつもの自分に少し戻れたような気がしました。ありがとう福岡、そんな気持ちで動き出した始発の新幹線。すると、急に頭の中でひとつの映像がくっきり見えました。それは、私の心の中。立体的なハートは、一個一個が小さなキューブになっていて、ピンクや濃いピンクでできたくっきりとした形でした。それを私はきっと両親の為に、一番は母の為に、トンカチで何度も何度も叩き割り、落ちたキューブを彼らに渡し続けていたのだろうと。痛いとか、辛いとか、そういった気持ちを麻痺させ、そうすることが当たり前であり日常だからと機械のようにトンカチを振り続けました。削れたハートは、自力で再生することもあったし、これまで出会った沢山の方達が埋めてくれました。でもそれをまた私は、トンカチで叩き渡し続けた、こんな苦しい思いをしていたんだな、それを近くで見ていた人達はどれだけ心配してくれただろうと。盾も矛も持たずに、ただひたすら自分の心を削ってきたのかもしれないな、佐賀に行かなければ気づけなかったよと思ったら、いろんな気持ちが駆け巡りました。母方の祖母との別れは、小学校2年生の春、実家にあった桜の木の下で、葬儀が終わった後一人で泣きました。でも、その年にたった一輪だけ咲いてくれた桜をここで咲かせたいと思っています。そして、何十年も経ち、息子が生まれたのを待っていたかのように祖父が他界。その後、佐賀の祖父が亡くなりました。今年のお正月、私が勝手に祖母の妹だと勘違いをしていた義理の妹だったおばさんから電話が入り、その翌日は小料理屋のママがメッセージを送ってくれて、その少し後に佐賀の祖母は他界。なんだか不思議な年明けだなと思っていたら、そういうことだったのかと。私が寂しくないように、何か物事が動いてくれたんだろうな。4人の祖父母が亡くなった、それは本当に大きなことで。私がいたら丸く収まる、自分さえ我慢すればきっとうまくいく、みんなが安心する、祖父母の気持ちも感じ、動いていた自分とも卒業しようと思いました。孫としてやれるだけやったよね。私の幸せは私のものだ。
いつもの日常に戻り、息子の中学校入学説明会がやってきました。すると、現地で待っていてくれたのは、広報委員で一緒だった友達で、彼女の変わらない優しさにほっこりしました。「子供の病気に気づくのが遅れて、悪かったなって思ったらちょっとメンタルやられた!」といつもの調子で話してくれるので、心配になりつつも少し笑ってしまって。分かるよ~でもそのタイミングで気づけて良かったと話を聞き、一緒に外の空気を吸えた気がしました。こうやって、沢山励まし合ってきたね。出会ったのは4年前、中学校は3年間、あっという間だ。時は金なりだね。
そして翌日、バタバタと喪服をクリーニングへ出しに行くと、店員さんが気づいてくれて。内側にあったタグの所に、前回出したクリーニングのタグがそのままになっていて、さりげなく外してくれました。相当慌てていたことが後になって分かり、人目につく箇所じゃなくて良かったと笑えてきて。本当にいい時間だったな何もかも、そんな余韻の中でいつもの景色にまた溶け込んでいきました。
さてさて、父が届けてくれた香典返しを息子と開けると、告別式で流れたスライドの画像も再生できるようになっていて、二人で見ることに。「ひいばあちゃんだよ。たった一度だけ会ったことがあるの。名古屋のひいじいちゃんのお葬式で、佐賀のひいばあちゃんとひいじいちゃんがRのことを抱っこしてくれたの。まだ赤ちゃんの時。血が繋がっているよ。佐賀にもルーツがあるんだ。」「そうなんだ!」となんだか不思議そうに聞いてくれました。そして、箱を開けると、うれしの茶と有明の佐賀海苔が入っていて。これは泣けるな、おじいちゃんとおばあちゃんと食卓を囲んだ匂いがする。トンカチは新幹線の中に置いてきた。もう、心は砕かないでおこうと思う。傷んだ箇所にうれしの茶が沁み込んでくれたら、有明海苔が糊となりハートのキューブを繋いでくれたらきっと寂しくない。