途中で見えた風景

だめなモードに入っていた去年の秋、今日は特にきついのだけど、息子の前では何でもないふりをしようと思い、リビングのドアを開けると、何やらYouTubeを観ている様子。「これ何?」「ヤクルトの入団会見だよ~。」本気のヤクルトファンだなと改めて思っていると、画面に現れたのは高津監督や若い選手達とつば九郎。よく見ると、いつものスケッチブックをマイバックに入れて登場するので、笑ってしまいました。まさか、このタイミングでつば九郎に助けられるなんてね。その後も、ドラフト会議で指名された選手達の一番端につば九郎が座り、その貫禄と癒しに存在感の大きさを感じて。息子のスワローズクルーユニの一着目を『2896』にして良かったな。ありがとうね、そっと助けられた日。

ここまできたら、とことん深く掘り下げた方がいいと思い、緩やかに思考を巡らせてみました。去年の1月中旬、1年間の調停がようやく終わり、ほっとしながら事務的なことを一気に終わらせ、息子の戸籍を私の新戸籍に移せた日の夕方、マブダチK君のお母さんが亡くなったことを知りました。息子といる時は母親に徹しているので、慌ただしく時間は流れ、一人で湯船に浸かった時、一気に実感としてこみ上げ、泣いた夜。この世界におばさんはもういないのだと思うと、自分の翼の半分が萎れてしまいそうで悲しみが押し寄せました。学生時代、何度も励まし助けてくれた人。数年前にK君から、おかんが末期のがんだと分かったと連絡があり、その数か月後、改めて彼に様子を聞くと返事はありませんでした。他界されたのだと、漠然とした寂しさとそれでもどこか実感の湧かない日が過ぎ、10年ぶりぐらいに名古屋での再会が待っていて。そこで、改めて聞いてみると、抗がん剤が効いていてかつらを被ってテニスや自営のお仕事を手伝っているとのこと。は?と思い、なかなか頭がついていけなかったものの、返信してよ~と伝えると、謝られ、「でもSはそんなちゃらんぽらんな俺も知っているだろ。」と言われたので、それはそうだと妙に納得してしまい、そしてほっとしました。その後、おばさんにメッセージを送ると優しい返事があって。K君がおばさんの具体的な姿を伝えてくれた時、きっと私は乳がんで闘病していた祖母の姿と重ねていたんだなと。どれだけ髪が抜けても、かつらを被ってご近所さんの畑を手伝ったりしていました。仮退院で休んでいたらいいのにと思うような場面でも、おばあちゃんは残された時間を誰かの為にと全うしているようでした。母のことで辛い思いをする度、心の中で語りかけていた祖母の存在。思いがけずおばさんと連絡が取れたことで、二人の愛に触れたようで、だからこその喪失感が自分の中で膨らんでしまったのではないかと。それでも、立ち上がらなければ。

何年も前、姉に言われたことがありました。「Sちんは、前世でお母さんによっぽど弱みでも握られたのか、ずっと守ろうとしてしまうんだよ。その問題を生きている間に解決しないと、来世でも同じことが繰り返されるって思うんだ。Sの中に残ってしまっている苦しさは、簡単に捨てられるものじゃないって思う。長年のものだから、それだけの時間がかかるんじゃないかなって。子供の時から見てきたから分かるんだ。Sちん、勇気を出してもっと開けて心の中にあるがんの治療しちゃいなよ。絆創膏貼って、なんとかごまかそうとしてもその痛みは消えないから。辛くなったらその度に閉じればいい。でも、取り切ろうよ。」卵巣腫瘍を取ったら、ホルモン治療で大きくぐらついて、勝手に開いたわ!!ちょっと閉じたりもしたいのだけど、なんせコントロールが利かないものだから空いた状態なのがなかなか辛い。ははっ。と空元気も混ぜてみる。それでも、時間をかけて越えてみせるよ。
自分の状態がふと視覚的に頭を過って。それは、遊園地。きっと私は観覧車に乗りたいのに、ジェットコースターに気持ちが引っ張られるからどうしても乱高下してしまうんだろうなと。そんな中でイベントがあったりする。園内でショーがあるからと息子が待っているイベント会場まで行くと、仲良しのKちゃんがいて救われた気持ちになった。またある日は、涙を堪えて歩いていると、風船を持った不動産関係のお仕事をされていたHさんに偶然会った。ちょっと笑えた。アップダウンするジェットコースターには誰も乗せるものか、そんな気持ちでいつもいるのかもしれないなと。息子とよく自宅でやっている『桃太郎電鉄ワールド』のゲーム。彼が銀河鉄道カードを引き、宇宙の世界を見せてくれました。そこで走らせる電車を見ていたら、漢方内科の主治医のような世界観だなと思えて。先生は、子供の頃から生きづらさのようなものを自覚し、とことん自分と向き合ってきた人なのではないかと。その時間は長く深く、どの経験も今の先生の肥やしになっているような気がして、それがもう超越しているから、宇宙のような広さを感じるのかも。目標は遠いけど、そこを目指したいです。言葉数は少ないけど、ポロッと苦悩を時々話してくれる主治医。汗の一滴だと思いました。さあ、私は宿題に取り掛かろうか。この世に生を受けた意味が見つかるまで。