誰かの視点

怒涛の夏休みが始まり、早めに宿題を終わらせようと二人で目標を立て、自由研究のサポートもすることになりました。すると、お気に入りの動物の本を二冊、気に入った箇所をアレンジして製本をすることに決定。様子を見ていると、一冊の本に対して、かなりのページ数をポストイットで貼っていたので伝えました。「著作権と言ってね、著作物に対していろんなルールがあるの。そのひとつに一冊の本で半分以上複写してはいけないことが決められているんだ。だから、もう少しコピーする枚数を減らそう。お母さん、前に少しだけ話したけど、図書館で働いたことがあってこういうことにはちょっとうるさいの。大事なことだから、頭の片隅に入れておいてね。」そう話すとあっさり分かってくれて、本当に必要な所をじっくり選び始めてくれました。すると、ILL(図書館相互貸借)の業務が懐かしくなって。白黒かカラーにするかは金額にかなりの差があり、複写依頼を受け、指定がない時は資料を見て悩んだことが何度かありました。学生さんがアルバイトで稼いだお金で依頼して来たのではないか、それを全部カラーにしたらそれなりの金額になってしまうよね、本当に必要なページだけカラーにしようか。それをもう一度先方に問い合わせると、司書の方が学生さんに返事を聞いてこちらに返ってくるまでさらに時間がかかるよな、何が親切だ?と自席で頭をフル回転。とりあえず、ILLの業務をやっていた先輩に資料を見てもらい相談すると、あっさり答えてくれて。「グラフや表や写真などがあると、カラーだった方が見やすいと思うけど、基本的に文字だけのページは白黒でいいように思う。それでも判断に迷うようなら問い合わせるのが間違いないんじゃないかな。」なるほどなるほど。元々理系だった先輩の言葉には説得力があり、日本古代史専攻で文字ばかり追っていた自分の視点は一旦外した方がいいかもしれないなと、本当に勉強になりました。さてさて、うちの息子はカラーページも印を付けてくれたので、なぜそこにこだわったのかを聞いてみることに。「チーターの絵を白黒にすると、点々を塗るのがめんどくさいから。」・・・って、そこかい!!オリジナルの本にするんだから、もうちょっと手作り感出しましょうよと思いながら、わいわい。聞くんじゃなかった!

その後、家事をこなしてから出ようと思っていると、息子がヤクルト応援歌の歌詞カードを眺めていたので、彼のiPadから動画を探してみました。すると、10分程にまとめられた球場の応援歌を見つけ、息子が大喜び。歌詞カードを見ながら一生懸命に歌う姿を見て、なんだか胸がいっぱいになりました。宿題にあるリコーダーの練習は?家のお道具箱の整理は?と聞いても明日にする~と連発していたのに、ヤクルトの歌詞を覚えることは息子にとって最も重要なことなんだろうなと。サンタナ選手が打席に立つと応援団の方達は出身国であるドミニカ共和国の国旗を、オスナ選手の時はベネズエラの国旗を大きく振ってくれました。それをスタンドで見ていた息子は、家に帰り彼らの旗を調べていました。異国の地で、そのチームに馴染み、打席に立った時に自国の旗を掲げてくれる応援団がいる、それは本当に心強く、それは10歳の息子の心にも届き、このチームがとても好きなのだと胸が熱くなって。自分が子供の頃に持つことができた大きな感動を、息子も同じ熱量でもう抱えているようです。
そんな時間も過ぎ、コピーを取りに行った後、両親宅に用事があったので出向きました。すると、相変わらず母から質問攻めが待っていたので、息子に聞かせる内容ではないと思い、いつも持っているイヤホンをスマホに繋ぎ、YouTubeを見てもらうことに。親だから心配してもらえるのは有難いけど、やっぱり境界線ってあるよなと思いながらも、言葉を濁すと永遠にこの会話は終わらないと思ったので、開き直って伝えました。なんだろうな、年を重ねて良かったことは経験を積んだ分、緩い変化球も随分覚えたこと。母が悪い訳ではなく、息子や私は自分の世界観をとても大切にしていて、そっとしておいてほしい時が結構あるのだとやんわり伝えると、なんとなく分かってくれました。実際にはよく分かっていないのかもしれないけど、とりあえず球は投げた、それをどう解釈するかは母自身でそれ以上こちらが気を揉むのはもうやめようと。あまりにも長い歴史があった、ネネちゃんの言葉を借りるなら我が家には黒い歴史が盛りだくさん。それが気にならなくなるぐらい大きく跳ねよう、そう思いました。
それから、三人で買い物へ行き、仕事から帰宅した父を迎え、久しぶりに4人での夕飯が待っていて。この人達、私が第三次反抗期に入っていて、今日は休戦していることをまるで分かっていないよね、でも息子は知っていることを思い出すと笑えてきました。「お父さん、中日で楽天から来てくれたエース番号の『20』を付けたピッチャーって誰だっけ?」「え~っと、誰だっけな~。顔は思い出せるんだけど、名前が出てこない。」「そうなんだよ。私も顔は思い出せるんだよ~。」そう言うと、食事の手を止めて本気で思考を巡らせた父。そして急に顔を上げ、「涌井!!!」と伝えてくれるものだから、私もようやくすっきりして大盛り上がり。その様子を母と息子がぽか~んと見ていて、余計に笑ってしまいました。それからも、最近仕入れた中日の情報を父に話すと、全部知っていて。息子は気づいたはず。これが黒くなかった、ママのもう一つの歴史なのだと。ドラゴンズのブルー、それはきっと父と歩いてきた道。

散々盛り上がり、仏壇の前で手を合わせ、おじいちゃんとおばあちゃんの遺影を見て伝えました。「お父さんとお母さんのこと、よろしくね。また来るよ。」それから慌ただしく自宅に帰り、テンション高めの息子を寝かし、色々な気持ちが渦巻く中で一番最後に残ったのは、彼の鼻歌でした。母と三人で買い物に出て、タピオカミルクティを二人で探していた時、息子が覚えたての応援歌をとても自然に鼻歌で歌っていたので、なんだかぐっときて。歌詞はまだ覚えられない、でももうヤクルトと共にいるんだなと。挫折しそうな選手がいたら、キッズクルーのこんな姿を届けたいなと思いました。勝敗も大切、でもこんな風にどんなヤクルトも応援しているファンがいるのだと、その一員にさせてくれてありがとうと心から思っているチームスワローズの一人の男の子を、挫けそうになった時思い出してほしいなと思いました。そんな選手達に私達もきっと励まされるから。息子から聴こえてきたのは、チャンステーマの曲でした。なんだかこちらの方が元気をもらった一日、いい戦いはこれからもずっと続いていく。