プロ野球のオールスターゲームを二戦連続息子と観ていた日、ヤクルトの村上選手が二試合連続ホームランを打ってくれて、大ファンの彼は大興奮。そして、伝えてきました。「神宮でもホームランを打ってくれたよ!ボク、観戦に行きたい!」「明後日のチケット取ってあるよ。」「あっ、そっか!!」とテンションMaxに。夏休みに入り、日にちの感覚が薄れていたよう。思いがけず早く行けることが分かり、嬉しそうに眠りについてくれました。息子にとって神宮球場は、夢の場所。リュックに沢山詰め込んで、仲間達に会いに行くんだ。
当日の朝、起きると目がぐるぐると回ってしまい、今日はだめな日だとこっそり凹んでしまいました。それでも、睡眠が取れたことに感謝し、効きそうな薬に願いを込めて飲んでみることに。うーん、怪しい。気持ちまでもが沈んでしまわないように、口ずさみながら家事をしてみようか。「戦え我らのスワローズ♪」すると、意識が神宮へ飛んでいき、歓声が聴こえ、ちょっと泣きそうになりました。こうやって何度も助けられてきたんだな。息子はというと、頑張って宿題の絵を描き始め、無事に終えると、喜んで準備を始めました。いい日にしようね、そんな気持ちを心の中で届け、いざ出発。すると、電車を待っている中で見かけたのは広島ファンの方。今日の対戦チームのファンに、まさか最寄り駅で会えるとは思っていなかったので、二人で嬉しくなって。そして、乗り換えのタイミングでも背番号『20』を付けた栗林投手のファンを見かけ、ずっと同じ電車に揺られ、目的地に向かうのかと思うと不思議な気持ちになりました。みんなそれぞれの人生があって、自分達の道を歩いている中で、ひとつの球場に集まり同じ時を過ごす、その中でまた沢山のものを受け取り、別の道を歩き始めるんだよな。その重なった時間を、心の中に落とし込んでいきたいなとふとそんなことを思いました。息子は、暑いだの疲れただの、隣で感情を丸ごと渡してきて。もうちょっとしっかりして等々、こちらも暑いのでプチ親子バトルが待っていました。そんなことまでもが、綴じられていく。その日はクルーデイ、特別感のある球場周辺の雰囲気も好きで、へとへとになりながらもグッズを受け取り、階段を上がって野球場の景色を吸い込みました。何よりの薬だな。そんな感慨に浸りながら、ライトスタンドに荷物を置き、息子とお店を探索。会員証をピッとやることも忘れず、来ましたよの印を残していく。そして、ほしかったクルーのスーベニアカップをゲットし、二人で歓喜。二回並ぶエネルギーもなかったので、ついでにかき氷も買ってようやく席に着きました。ファミマで買った夕飯を食べ、スタメン発表の時は、息子のボルテージは最高潮。試合が始まる前から席を立ち、みんなで応援歌を歌う彼は、思いっきり馴染んでいて、この日を待ちわびていたのが分かりました。なんだか、いい光景だな。そして、プレイボール。1回裏ヤクルトのチャンスで盛り上がっていると、背中をトントンと叩かれ、後ろを振り返った途端、わーっという歓声が聴こえ、何が起きたかも分からないままわーっと思わず叫ぶと、声をかけてくれた40代のご夫婦がくすっと笑いながら伝えてくれました。「斜め後ろの方がジュースをこぼされたみたいで、段々流れてくるので気を付けてくださいね!」ああ、ご丁寧にありがとうございますと会釈をすると、息子が隣で叫んでいて。「村上のホームラン!村上サイコー!!」え?この歓声はホームランだったの?!ともう嬉しい混乱の中、とりあえず傘を持って二人で東京音頭を歌い、ようやく落ち着いて座るとまたトントン。「今流れてきましたよ!」あ~!息子のつば九郎の敷物を守らねば!と大慌て。その様子にご夫婦が笑ってくれました。この人は、ジュースも心配だけど、お子さんと本気で歓喜するそのひとときを逃したくないんだろうなと、そんな表情で見守ってくれていて、嬉しいやら恥ずかしいやら。私に声をかけてくれたことで、村上選手の18号の瞬間を見逃してしまっただろうな、なんだか申し訳なかったなと冷静になって1人反省会。それでも、どこにホームランが飛んで行ったか息子に聞いてみると、まだ興奮状態にあったので、珍回答が待っていました。「たこ焼き屋さん!」は?ホームランボールはたこ焼き屋さんに入っていかないでしょ。「バックスクリーンの裏側辺りのたこ焼き屋さんの近くに入っていったんだよ~。」なるほどなるほど。小6男子がそう見えたのなら、そういうことにしておこう。その後、先発の山野投手が打たれてしまい、劣勢に。2対9というビハインドの中、村上選手が二打席連続のツーランホームランを打ってくれて、感動で震えました。後ろのご夫婦も私も今度こそしっかり見えて、みんなの夢を乗せてスタンドまで運んでくれました。「やっぱり村上だって!!」感激のあまり息子はもう何言っているのか分からない。言葉にできない感情が一気に押し寄せたんだろうなと。沸き返った球場、一気に開いた傘の花は何度見ても綺麗で、息子と開きそのキラキラの中にいられることが今年も幸せでした。5回終了時には、神宮の夜空に大きな花火が。その時、去年の夏に仙台モバイルパークで見た花火も過り、アルバムの中いっぱいだよと感極まりそうになって。写真ではなく、動画を残しておこうかとも思い、ラッキーセブンの東京音頭の時は、息子が傘を振って歌う姿をスマホで撮りました。画面越しから見る彼の姿を見て、10年後20年後にその動画を再生した時にこみ上げる自分が想像できてしまい、手が震えて。両親が離婚したことは“負け”ではない、チームが変わったんだ。試合は続いていく、その中でいい戦いができるか、負けた試合でも何を得られるか、仲間と共に成長できるか、そういった気持ちを持ってくれたなら。それが母親として自分ができることでもあるのかな、試合を観てそんなことも思いました。進んで勉強はしないのに、チャンステーマはしっかり予習してきていて、その姿に隣で笑ってしまった夜。売り子のお姉さんから買ったバニラアイスを渡すと、ちょうど攻撃の時でした。アイスも食べたいけど、本気で応援したいと言って席を立ちました。チェンジになる頃にはバニラシェイクになっているのではと思いながらも、息子が大切にしているものは明確で微笑ましくなって。攻撃が終わり、少し溶けたアイスを満足気に頬張る表情を心の中でパシャリ。すると、雨がぽつりと降ってきました。それでも、最後まで見届けるのは分かっていたので、応援タオルを首に巻かせ、ゲームセットになるまでそこにいました。6対9で負けたのに、なんだか清々しくて。その日は金曜日、スーツを着たお客さんもちらほらいて、傘を差しヘロヘロになりながら駅に着き、座って帰る為に電車を遅らせ、最寄り駅に着いた時には12時を超えていました。息子をようやく寝かせ、一人になると、神宮で歌った応援歌が耳に流れてきて。円になっているから、反響する歌声が胸に響きました。力が集まる場所、私の、そして息子が大好きな場所。
翌朝、すっかり寝坊して起きた息子が伝えてくれました。「山野投手が打たれちゃって、ピッチャーが変わってベンチに戻る時、拍手が聴こえたね。」その音を拾っていたのかと泣きたくなって。「山野投手がピンチの時、応援団の方達も、がんばれがんばれ山野~♪って短く流すと、みんなも同じようにエールを送っていたね。その時間、お母さんね、優しさを感じたよ。ピッチャーだから打たれることもある。その選手を労う拍手が、本人にも届いていたらいいなって思うよ。」「うん。昨日の試合負けちゃったけど、面白かったよ!ボク、感動した!」ヤクルトクルーの一員になれて良かったね。いい時もそうじゃない時もそばに。どれだけのストーリーが、この先も待っているのだろう。