誰かが見ているもの

なんでもない日常の中で、ふと大学1年の時のことが思い出されました。その年はまだ、日本史と西洋史と東洋史は必須科目で、2年になって分かれるから自分の専門を考えておくようにと言われていて。「Sはどうする?」と友達に聞かれ、「日本史と東洋史で迷っているの。」と伝えると、ええっ!!と本気で驚かれました。「東洋史選ぶの、珍しくない?」いやいや、歴史を学びたいと思う時点で十分珍しいよと笑えてきて。「高校の時にね、世界史の先生が、東洋史の歴史書にはまり過ぎて浪人した!って授業中に話してくれてね。そんなに面白いんだってずっと気になっていたの。」「へえ。意外な選択をするのも、Sらしいっちゃらしいけど。」そう言って、笑ってくれて。でも、最後には祖父の戦争体験が頭を掠め、やっぱり日本史に決めました。ダークな部分というよりかは、文化について、もっと掘り下げたいなと。その後、ゼミの授業でレジュメを書き、それぞれが途中経過を発表する中で、いよいよ卒業論文の時がやってきました。これまでの資料だけでは全然足りないなとあれこれ思案。そして、大学図書館の司書の方にも相談すると、私がほしい資料は奈良県にあることが分かりました。現物貸借をしてもらったところで、開いてみないと内容がずれている可能性がある、手に取るなら直接行ってしまった方がいいな。名古屋からだと近鉄で行ける、でも時間とお金と労力を使って空振りだった時のダメージはそれなりに大きいとぐるぐる。そんな壁にぶつかった私に、また友達がどうするかを聞いてくれました。「結局奈良に行くことにしたの?」「愛知にある文献を信じてる!」そう伝えると大爆笑。それから、自転車や車でいろんな図書館を回り、そんな時間も一緒に綴じられた卒論。日本古代史の衣服の研究は、東洋史とも繋がっていて、最後の最後で世界史の先生と交われたようで嬉しかった時間でした。川と川が繋がり海に出たんだな。

今日は、父が佐賀へ一人で行く日だったので、今頃上空にいるねと一緒に旅をしているようでした。色々と言いたいことは山程あって、逆にもう何もないような気もしていて。まだ幼かった時、姉と二人で佐賀へ遊びに行くと祖父母はあたたかく迎えてくれました。せっかく来た遠い孫だからと、祖父の運転でどこか遊園地へ連れて行ってくれて。祖父母は下で見守り、姉とバイキングを選び、端の方が怖いなんてことを全く知らなかった私達は顔面蒼白で乗車。早くこの時間終わってくれないかなと願いながら、ちらっと下を見ると祖母は半笑いでした。楽しめるどころか罰ゲームでしかなかった私達に、降車後二人は笑っていて。お父さんは、こんな優しい時間の中で育ったんだね、そんなことを思いました。姉と私は、孫達を喜ばせようと二人で計画し、楽しい場所へと連れて行ってくれたその気持ちが嬉しかったんだ。わがままを言った、いたずらもした、怒られた、でも笑ってくれた。そんな時間が堪らなく嬉しくて、心地良くて、最後の夜は寂しくて。祖父母にこっそり手紙を書き、おじいちゃんの手帳に入れて、最終日は軽トラで佐賀駅まで送ってもらいました。どんどん父の実家は離れ、一分一秒の大切さを知りました。姉や私にとって、大切なものが佐賀にはあったような気がしています。そう、心から笑えた場所。実家の周りは見事な田園風景が広がっていました。何もなかった、でもぬくもりは確実にあってその景色が好きでした。それから十数年後、父が家を出て、私も卒論を書き終え、もう最後になるだろうと祖父母に会いに行くことに。そこで散々祖母に責められ、祖父が心配し、一緒に新幹線に乗ってくれました。こんな形で共に乗ってくれるとは思わず、両親のことでおじいちゃんとおばあちゃんまで不仲になるのは違うと思いながら、慰められ、父に名古屋駅まで迎えに来てもらい、一人暮らしのマンションへ。父を説得しようとする、その二人の親子の時間にあたたかい気持ちになりました。この想いが注がれている限り、父が大きく崩れることはないだろうと。その後、確かカナダからすでに帰国していた姉に車で迎えに来てもらい、祖父とお別れ。おじいちゃん、一緒に来てくれてありがとう。私は最後まで毅然といられただろうか。そのさらに数年後、関東に住み始めた頃、父の真ん中の弟である叔父さんと渋谷のハチ公前で再会。久しぶりに会えたことが嬉しく、気持ちのいいお酒が待っていました。ほろ酔いになり、気持ちが緩んだのかその時のことを少し聞いてもらって。「あのね、実は大学卒業前に佐賀までおじいちゃん達に会いに行ってきたの。お父さん達離婚まで秒読みだろうと思って、最後かもしれないって。そうしたら、おばあちゃんにSちゃんがお母さんの味方をするからお父さんは孤独だったとか色々言われちゃってね。すごいショックだったんだけど、心配したおじいちゃんが一緒に新幹線に乗ってくれたの。佐賀であったこと、両親は知らなくて内緒にしておいてね。」「S、おふくろのことで嫌な思いをさせて悪かったな。いい大人がみんなでSを苦しめて何をやっているんだろうな。あのな、兄貴って長男で昔から特別可愛がられてきたんだよ。俺や下の弟は雲泥の差がある。だから、言いやすいSに言っちゃったんだろうな。おふくろ、そういう口調の人なんだよ。俺にも結構言ってくる。だから気にするな。言った本人が覚えていないから。」お酒の席だから話せたことがあった、それを受け止めてくれる人がいた、気にするなという言葉が救いになった、私にもこういう血縁関係がいてくれるんだなと嬉しかった夜。その時飲んだ楽しいお酒を忘れないだろう。

父に無事着いたかメッセージを送ると、今佐賀空港から佐賀駅に向かうバスに乗っているとのこと。羽田空港行きの高速バスは、渋滞にはまり到着がぎりぎりだったよう。初めて使うバスで、夜は緊張して寝れなかったらしい。って小学生か!こっちはどれだけ眠れない夜を過ごしてきたか分かるかー!!佐賀でも渋谷でも、いい時間を過ごしたよ。田んぼの匂いも、お酒の匂いも思い出せる。結果だけでは見えない人の想いがある、その途中を大切にしようよ。Sちゃんは心配せんでよか、佐賀駅でそう言ってくれたおじいちゃんの気持ちを忘れない、この先も絶対に。