誰に話す?

朝から慌ただしくシェアオフィスに来ると、久しぶりにお会いしたのは、広報のMさん。私の顔を見ると、毎回弱音を吐いてくれて、なんだか嬉しくなりました。「今まで報道関係者の方などとお仕事をしてきたので、受付業務に慣れなくて。」と。誰か一人、本当に一人聞いてくれる人がいるだけで、弱さを見せられるだけでふわっと軽くなる、目の前に迫っていることをこなすのは自分なのだけど、受け皿になってもらえることで助けられる気持ちが分かるので、共感しながら聞いていました。すると、ほっとして笑ってくれて。身分関係なく支え合うということ、沢山の人達から学んできたよ。

この間は、久しぶりに美容院へ行ってきました。下腹部の痛みが強い時期だったので、3時間も同じ態勢で座っていられるのか自信が無かったのですが、心地よいBGMと空間、いい感じでそっとしておいてくれる初めての男性スタッフさんの心遣いで、安らいでいくようでした。自律神経を整えるって大事だな。そんなことを思っていると、なぜか浮かび上がってきた高校時代の帰り道。英語の女の先生が厳しく、予習は当たり前で、やっていたのにも関わらず、当てられた箇所はうまく答えられませんでした。黙っていると、「○○さんともあろう人が。」と嫌味たっぷりにみんなの前で言われ、凹んでしまった訳で。その先生は前の時間に他のクラスで怒ったりすると、次の授業でもその雰囲気を持ち込んでしまうところがあり、たまたまそれを私が受けてしまったよう。予習をして周りの席の子達を助け、いざ自分が当てられた時に答えられず、先生に睨みつけられてその日はなんだか悲しくなってしまい、そのまま不穏な空気の自宅に帰る気にはなれず、遠回りをして図書館へ。静けさの中に身を置き、本に囲まれ、誰かがページをめくる音や、ブックトラックのカタンカタンという音を聞いていると、自分の心は凪いでいきました。来て良かった。教科書を開くわけでもなく、本を読むわけでもなく、ただじっと座り、誰にも気づかれないようにそっと涙を拭ってみる。感情を外に出したことで、ちょっとだけ楽になったようでした。さあ、気合いを入れて帰るか。

そんな私の秘密基地を知らないマブダチK君は、ある時本気で心配してくれたことがありました。「学校でも家でも優等生なSは、どこでガス抜きしているんだよ。ずっとそんなで自分に疲れるだろ。みんながお前を頼るんだよ。じゃあ、Sは誰を頼るんだよ。めちゃくちゃバランス悪くないか。貧乏くじばっかり引いているような気がするんだよ。お前はそれでいいとか言いそうだけど、もうちょっと自分の幸せに貪欲になれよって思う時がある。変なところですげー強いし、でも脆い部分もあって、コイツ一体どうやって自分を保っているんだって思うことがあるんだよ。」「K君を頼っているよ。」「めちゃくちゃ辛い時は、一人でいたがるだろ。この先、なんらかの形でSが、悪気がなくてもとんでもなく誰かを傷つけたとする。もしかしたら、犯罪者になるかもしれない。世の中のみんながSを非難しても、どれだけ悪くても、俺はお前の味方でいる。」「そうしたら、K君まで非難されるかもしれないよ。」「うるせいな。そう決めたんだよ。ガタガタ言うな。」彼の心の中にも、安心できる場所を作ってくれていたのかもしれないな。

「Sは友達を作ることに苦労しない。それが一番羨ましいところかも。友達じゃなくて、親友ができるんだよ。どうして?」と姉に聞かれたことがありました。「人数じゃないんだよ、深さ。それを教えてくれたのはK君だったのかも。」「ああ、タカツね。」「お姉ちゃんが、私がオーストラリアに行った時、もう帰ってこなくていいって言ってくれたでしょ。日本はあんたを必要としていないかもしれないとか言われちゃってさ。でも、K君は必要としてくれていたよ。」「アイツは私と同じ気持ち、Sがどこにいても心から笑ってくれていたらハッピーなんだよ。そんな友情がやっぱり羨ましいわ。」そう言って笑ってくれました。「できるだけ沢山の人と触れ合えよ。お前という一人の人間を知ってもらえ、大切なものをもらっていることに相手は気づくぞ。そして同時にSが不器用な人だって分かるだろうな。そういうの全部ひっくるめて、お前のことを人として好きになる。だから、Sは孤独になれないんだよ、分かったか。」
綺麗なシャンデリアの美容院で、自分が崩れなかった理由が分かりました。崩れようがなかったが、正しい言葉なのかな。絶対的な支えが私にはあったから。

まだ名古屋にいた頃、ゲームセンターでK君と遊んでいると、別居中の父と遭遇。礼儀正しく挨拶をした彼が、二人になった時に伝えてくれました。「今まで話を聞いていたから、もっとろくでもない人だと勝手に想像していたんだけど、そうじゃなくて俺の頭が混乱してる。お父さん、根はいい人だと思う。ちょっと俺、今日帰ってもいい?」その動揺ぶりに笑ってしまいました。本質を見抜く彼、何か感じるものがあったんだろうなと。そんな父は、二人きりになった時だけこちらの体調を気遣ってくれて。「体、大丈夫か?」トーンで、本音か建て前か分かってしまう。父が伝えてくれる気持ちが前者であることに、じわっと胸が熱くなります。「お母さんを大切にしてくれたら、お父さんが一人になっても介護は私がする。でも、そうじゃなかったからもう知らないからね。」この二人を看取る。大きな覚悟、都合のいい娘ではなく、もらった愛情の分だけ返すよ、それを思ったら沢山のものをもらっていたことに気づきました。どこが、旅の終点なのだろう。