夢の国へ

お風呂上がりの遊びタイム。今日は何をしようと二人で相談するものの、色々なことに飽きてしまい、さすがに困惑してしまいました。一日の最後に、飛び抜けた発想力がある方がすごい。そんなことを思いつつも何かを絞り出そうと閃いたのが、ブロックを使った“夢の国”。「ねえねえ、お母さんと夢の国を作らない?」「え~、何それ~。意味わかんない。」そりゃそうだ。「だからね、空飛ぶ車とか。」・・・。平成25年生まれの息子にバックトゥザフューチャーの話を本気でしたところで分かるまい。そんなことを思っていると、こんなかなあと言いながらも本当に空飛ぶ車を作ってくれました。対抗しようと私も作り始めたものの思い浮かばない。「それ、もしかしたら空飛ぶ本棚?」と息子に聞かれ、感激してしまいました。私の代名詞は本だと思ってくれているのか、こちらが思っているよりも想像力は無限大。「ママはお勉強を教えるのが得意だけど、ボクは工作が得意なんだよ。」それはそれは、結構なことで。

姉とよくやっていたスーパーマリオのファミコン。いつも私はルイージだったので、姉の失敗を画面で見て、こうしたら敵にやっつけられない、ここではこの技を使おうと学習していました。高校に上がり、日本史と世界史選択でクラスが分かれるという時、姉に相談。「日本史も世界史も学びたいと思っていて迷っているんだ。」「私は世界史を選択したけど、カタカナばっかり出てきて、やっぱり日本人は漢字だよねって、そう思ったらなおさら覚えられなかったんだよ。あんたは、誰がどう見ても日本史向きでしょ。」姉の適当な解釈に笑ってしまったのですが、自分の失敗を妹にはさせないように、いつもどこかで先手を打ってくれていたことを感じていました。総合大学を選んだことを、本気で喜んでくれた姉。「4年間、どれだけのものを吸収してくれるだろうね。異性から、学年の違う人から、学部の違う人達から学ぶこと、とても多いよ。狭い世界で頑張ったんだから、一気に視野が広がるよ。」第一希望を逃した彼女の言葉にはいつも重みがありました。“妥協”という言葉をとても嫌っていた姉が届けてくれる思いは、どこかで本人がやれなかったことを託してくれている、そんな気持ちまで含まれているようで。こういう時に、懐の大きさを感じるんだなとも。

仕事を辞め、カナダに留学した姉。母を連れて現地まで行った時、私が抱えているどうしようもない重さにびっくりする程気づいてくれました。姉の心が軽くなった時、今まで見ないふりをしていたものが鮮明に見えてしまったのだと思います。「お母さんが、Sにどっぷり浸かっている。それでは息苦しいよ。大丈夫?」まっすぐ届けてくれた気持ちに、涙が一滴。「大丈夫。家では色々あるけど、大学生活はとっても充実しているよ。心理学科の男子学生さんがね、毎週一回ある英語の授業の度に、頭の色が変わっているの。それを見た欧米人の先生が“oh, new color!”と言って笑ってしまってね。この間なんて、三色たわしみたいな色だったんだよ。心理学科だからその時の心理状態でも頭の色で表してくれているのかも。」そんな話を面白おかしくすると、やや困惑しながらも一緒に笑ってくれました。辛くても、大切な時期を逃さない、それはもう戻れない時間だから。異国の地で妹が見せたそんな姿を姉は、どんな思いで聞いてくれていただろうと思います。

姉に弱さも強さも見せたことで、一度溢れ出した涙が止まらず、目の腫れた状態で翌日を迎えました。これでは母に気づかれてしまう。慌ててサングラスをかけ、カルガリー市内を観光。カルガリータワーに上った時、この景色を忘れないでいようと思い、そっとサングラスを外しました。ここから、またここから頑張ろう。一周をぐるっと周り、そんなことを思っていると、何やら賑やかな声が。「うわ~、マジ綺麗なんだけど。なんかヤバくない?」という日本の女子大生と思われる方達の声が聞こえ、姉と大爆笑。「めっちゃ、日本語やし。」とぼそっと突っ込む彼女にも笑えてきて。急に現実に連れ戻してくれるこんな時間も、幸せ。

最終日、吸収したものが多すぎて、朝から泣いていると、同居している韓国人の女の学生さんが大声で叫んでくれて。「Sが泣いている。大変だ!」それを聞いたホストママが私に近づき冷静に伝えてくれました。「フライトは長い、飛行機で寝なさい。そして、今度はあなたがここに来なさい。いつでもウェルカムよ!」何人もの学生さんを受け入れてきたホストママの器は大きく、温かく、とてつもないお土産をもらったような気がしました。
夢の国は、カナダからオーストラリアへ。心の旅に終わりは見えない。