流れに身を任せて

部活が終わり、慌ただしく帰宅した息子に夕飯を食べさせ、学習ボランティアの先生が待ってくれている日だったので玄関まで送り出しました。そして数時間後、またバタバタと帰ってきて。「今日も頑張ったね。」そう言ってお風呂へ促すことに。出てきた後、「明日は朝練があるから早く寝ようね。」と伝えると、ゆっくりする時間が1時間しかないことと、寒暖差などの影響で不機嫌をぶつけてきました。これはどうしたものかと思いながらも、お腹が空いているのは分かっていたので、本人に聞きうどんを用意してダイニングテーブルに置くと、頭痛が強くなったのかさらに荒れてしまって。うつ伏せになり、熱々のうどんをひっくり返しそうになって困惑。訳が分からなくなると、なりふり構わなくなるので、こちらも構え、危ないので一旦うどんを下げることに。落ち着いたら食べようと声をかけても、一度入ってしまった負のスイッチはなかなか元に戻らず、寝転がって手に負えない状態になってしまいました。母や祖父に浴びせられた罵声が耳の奥の方で届き、チクリ。その感情を息子にそのまま伝えないように、うまいこと変換できるかなとゆっくり息を吐きながらひと言。「足を温めたら冷えからも来ている頭痛が和らぐと思うから、今日は歯磨きをして寝よう。」怒りも悲しみもある、それは本人にも伝わっているはず、でもなんとかリセットしたくて自室に促しました。翌朝もなんだか微妙な空気感で。「いってらっしゃい。一人になって考えてみてね。」目も合わさず行ってきますと言って出て行ったので、何かしら伝わってはいるのだろうと。あなたが今感じている痛みはお母さんの痛みだよ、その言葉の意味が分かってくれたなら。反抗期、成長過程で大事なことなのだと頭では分かっているのだけど、お母さんも人間じゃ!とだけ心の中で叫んでおくことにする。

その後、シェアオフィスで随分前に出会った不動産関係のお仕事をされていたHさんから連絡をもらっていたので、久しぶりにマックで会うことにしました。すると、いつものように再会を喜び、面白い話をしてくれて。「僕、実は社員旅行で伊勢へ行ってきたんです。名古屋まで新幹線でそこからレンタカーだったんで、名古屋で何か美味しいお店はないか○○さんに聞こうと思ったんですけど、スケジュールがいっぱいで寄れませんでした。で、新幹線を降りてからスマホを座席の網の所に忘れたことに気づいて、僕のスマホ福岡まで行っちゃったんですよ。その後連絡したら見つかって送ってもらったんですけど、コテージでは暇でテレビ見てました!」その話を聞き大爆笑。「見つかって良かったですね!日本だったからかも。デジタルデトックスできましたね~。」そう話すと一緒に笑ってくれました。「○○さんは体調どうですか?」ひとつ間を置き、この質問をしてくれる彼は何も変わっていない。その空気感に胸がいっぱいでした。手術後すぐにホルモン治療に入り、痩せていく私を数年前も心配しランチに誘ってくれて。色々あって、離婚を考えているけど今は難しいと話すと質問が待っていました。「僕、宝くじを毎年買っているんですよ。もし○○さんが宝くじ当たったらどうしますか?」「別れます。」何も考えずに即答した私に、Hさんは笑ってくれました。「もう答えは出ていますね。」と。彼は結論を急がせたかったわけじゃない、もやがかかっている私に道を見せてくれようとしたのではないか。勇気を出して歩いた先にも僕はいますよ。お子さんのことで悩む気持ちも分かります、でもなんとかなりますって。そう言って励まし続けてもらった時間を思い出し、マックでまた元気をもらえたようでした。「ありがとう。異常気象で体がついていかない時もあるけど、術後の辛さに比べたら大丈夫です。」そう伝えると安心してくれました。「ランニングを急に始めたら膝を痛めて、ウォーキングに変えたのだけど寒くなってきたからお休みして、結局運動不足です。」と話すと笑ってくれました。体は弱いのかもしれないけど、どこかいつもアクティブで、そんな“らしさ”は変わっていませんよ、そういった表情で何を話してもポジティブに受け取ってくれる彼に助けられました。話すっていいね。そして再会を楽しみにそれぞれの世界へ溶け込んでいって。心理カウンセリングの基礎を学んだ中で、リフレーミングという言葉を知りました。物事の捉え方を変えて考えてみると、少し楽になれることもあって、知らず知らずの間に誰かに助けられ、自分も自然と身に着けてここまで来られたのかもしれないなと思いました。まだまだ経験も、学ぶこともたくさん。息子が旧姓に戻すことを頑なに嫌がった時期があった、それはもしかしたら祖父と母から受けた苦しみの渦にママを戻したくないという彼の無意識の叫びでもあったのかもしれないな。戻すことが最善とも限らない、いろんな視点を息子からも教わった。

さてさて、どんな表情で迎えようかと思いながら、気分転換にブロックブラストをやっていると、思いがけず自己新記録が出てしまい、そのままやり続けていたら息子が帰ってきました。「おかえりなさい!今お母さん終わりそうにもなくて。」と話すと、いつものママでほっとしている彼がいました。その空気に心が解れたのが分かって。「昨日はごめんなさい。」「自分のマイナスの感情と上手に付き合ってあげてね。昨晩のうどん、どうしたと思う?今日焼うどんにして食べたの。」そう話すと笑ってくれました。戦地で捕虜になっても雨水で生きていた祖父が繋げてくれた命がある、食べ物を無駄にはしたくないんだ。これはきっと私の信念。
息子が渡してくれた卓球部のプリントに、何気なく顧問の先生の言葉が書いてありました。『なかなか達成できない目標に挑み続け、葛藤に打ち勝とうとする日々の精神力が、常時の力となり、障壁を乗り越えた時に得られる自信は、一生のものとなる』と。先生も越えてきた方なんだなと思うと胸が熱くなりました。いい恩師に出会えて良かったね。自分を磨き、時に削られ、大切なものを残し、すり減った足で空を見上げ光を感じ、己を知る、人はそんな旅人なのかもしれない。