辿りつく場所

分散登校が終わり、やれやれと思って息子と買い物に行くと、そこで偶然会ったのはうちの母。「あら~、最近どうしているのかと思っていたのよ~。」と、とても再会を喜んでくれてこちらまで嬉しくなりました。お化粧をしていないのに、晴れやかな顔をしている、その表情を見て母が越えたものの大きさを知りました。

姉と電話でやりとりをしていた頃、母の話題になることが多く、実家にいた頃の話でなぜか大盛り上がり。「お母さんがすっぴんでいる時って、負のオーラがとにかくすごくて、子供ながらにそれが嫌でお化粧をしてくれている日はほっとしたよ。だから、私もメイクしないとなんだか落ち着かなくてね。」そう話すと思いっきり納得してくれました。「分かるよ~。お母さんの落差、すごかったもんね。私達は、毅然とした親になろう。あんたと話すと結局首都高に乗ってぐるぐる回って、気持ちが分かるだけに疲れちゃうんだけど、お互い言葉にしなくても同じことを考えていたんだなと思うと、やっぱり嬉しくなる時もあるよ。」そう言って笑って通話終了。首都高に乗っても、それぞれの出口に降りてまた頑張れるんだよ。また同じ景色かあって思っても、微笑みたくなるのは、姉との数えきれない思い出があるから。理不尽な思いをして、一緒に泣いてくれたことが何度あったことか。

そんなことがふと頭を過り、母との和やかな会話を楽しんでいると、お菓子コーナーを物色し始めた7歳児。おばあちゃんに甘えるのは今がチャンスだと、タイミングを分かっているその抜け目ない姿に笑ってしまいました。そしてちゃっかりポケモンウエハースを買ってもらい、せっかくなので母宅に寄ると、相変わらずソファで寝転んでいた父。「お父さん、来週から仕事でしょ。忙しくなると思って、今日寄らせてもらったよ。」「おうっ。」最低限の挨拶しかしない、それでも短い言葉に何とも言えない温もりを感じました。つかず離れずいる父との距離感は、もしかしたら昔から何も変わっていないのかも。そんなことをぼんやり思いながら、新しい職場の話を聞くと、通勤は1時間半、半分は満員電車に揺られ、週4日出勤遅めで勤務することが分かりました。ITの会社で病院に関係している仕事内容だと分かり、概要のパンフレットを受け取った時、説明のつかない不思議なものを感じました。父の最後の仕事は、病院に関わること。何だろうな、この人らしい。「総務の仕事をするんだよ。給与に関することもあるけど、基本的には留守番だ。」またまたそんなことを言って~、と茶化したい衝動に駆られたのですが、何気に人当たりのいい父がそこにいたら、職場の皆さんも和むだろうと思いました。テレワークをやっている人とか凄いと思うんだよ、わしは銀行のシステムしか分からん!そんなことを言って笑わせてくれました。

父が、銀行で一番のピークを迎えていた頃、女性行員の方達から山のような義理チョコをもらって帰ったことがありました。その中に一つ手書きのメッセージカードが添えられているのを発見。『いつもミスばかりしてしまってごめんなさい。』それを読んだ父が、「毎回フォローするの、大変なんだよ。」と。その言葉に部下を思う気持ちが感じられ、いい上司なんだろうなと思いました。そんな嬉しい気持ちに包まれていると姉がやってきて、GODIVAのチョコを勝手にゲット。「お父さん、これもらってもいい?私まだチョコを渡せていない人がいるんだよ。一日遅れで渡そうかと思って。」え~!!お姉ちゃん、まさか本命じゃないよね?と聞くのも怖くなってしまった訳で。ずる賢い姉に苦笑しながらあげた父。そんな一幕をなぜか思い出し、いいエピローグの会社人生を送ってほしいと思いました。

「最近ポケモンばっかりやって、ずっとゴロゴロしているの。でも、お母さんのことは大切にしてくれるようになって。」とこっそり話してくれた母。子供も孫もいずれ離れていくもの、だったら最後ぐらい夫婦で楽しもうよ。名古屋で私が二人に説教をした後、翌日ぎくしゃくした中で行った銀行が提携しているレストラン。この人達はどこに辿り着くのだろう、そんなことをぼんやり思いました。自分の父親が銀行員。色んな姿を見せてもらった。誇らしくもあり、悔しさも味わった。そんな父が、またシャンとして一会社員となる。今度は、医療従事者の方へ、そして共に働く仲間へ父のエネルギーを使ってくれたらと願っています。

ゴルフコンペの案内を、ワープロで打ってほしいんだよ。父に頼まれ、実家の一太郎で作った一枚の案内状。「便利な世の中になったな。」と感心していた一人の銀行員が、今度はITの世界へ。その便利な世の中を、私も図書館の世界で見てきたよ。それでも人を大切にすることに変わりはない。息子が通常登校に戻る日が、初出勤日。病院の方達を間接的に助ける父が、今度は何を語ってくれるだろう。