大学在学中、教職課程の講義が始まると、教授が慌てて他の棟にある講義室を案内してくれました。え?なんで?と思いながらも皆でぞろぞろ向かうと、そこにはすでに大勢の学生さんが座っていて、後から行った私達は立ち見状態。マイクを持ち穏和に話してくれていたのは、とても有名な心理学者の先生でした。教授も慌てたのか、誰がお越しになっているのかまともに教えてくれず、とにかく行けという案内だったので、立ち見の学生さん達から伝言ゲームのように情報が入ってきた訳で。その先生の心理学の本は読んだことがあり、まさかお目にかかれるとは思わず、感激の時間でした。心を学ぶこと、教職課程の先生達が大切にしてくれていたその当時の気持ちが蘇り嬉しくなって。立ち見で聴講した内容はというと、感極まって覚えていないんだな。
そんな教職課程の中で、5時限目4時半から6時という時間帯だったので、なんとなく皆だらけてしまいそうなご年配のゆっくり話す男性の教授の講義がありました。それでも、参加型だったので、学生さん達が講義などで何を思ったかの感想を毎時間紙に書いて、先生がピックアップし、発表してくれました。「中にはこんな意見もありました。『試験結果を点数だけでなく、何がどう間違っていたのか分かる為にも答案を返してほしいです。』なるほどね。」それ、私の意見なんです~と思いながらも、先生が興味を持ちみんなの前で伝えてくれたことだけでも、なんだか喜んでしまって。学生の一意見を取り上げてくれるんだなと。他にも、『先生の話し方がゆっくり過ぎて眠たくなります。』など、無記名なので誰かが正直に書くものだから、その度に笑いが起き、先生も一緒に笑ってくれました。やっぱり思い出すのは内容よりも、笑い合った時間のよう。携帯の着信は音を出さないようにと言われても、大体一人は音を鳴らしてしまい、それが『ドラえもん』の曲だった時には皆の集中力が切れ、大爆笑。真剣さの中にあった和み、仲間から沢山の気持ちを分けてもらっていたのかも。
最近パソコンの前に座ると、ずっと付けていたイヤホン。テレワークの方が多くなり、イヤホンの影響などで外耳炎になる方が増えたとテレビでやっていたので、骨伝導で耳に入れないタイプのイヤホンに自宅では切り替えました。すると、音が体の中に染み入っていくようで。自分がどれだけ敏感なのかを自覚したので、雑音になることをできるだけ避け、心にいい音を取り込むように意識したら少しだけ楽になったような気もしています。シェアオフィスの不動産関係Hさんに自分の特性を正直に話すとあっさり理解してくれて。「僕も、大きな音とか苦手だったりするから分かりますよ。」と。いつもにこやかな彼、そっと人の気持ちに寄り添い、正直に話したこちらの思いをそっと上げてくれる。彼の周りにいつも人がいるのは納得、マシュマロの中にチョコがあるからだ。「今日、デスクで俯いている時間が長かったようなんですけど、大丈夫ですか?」と帰りにさりげなく聞いてくれた時は驚きました。しっかり見られていたのね。「急に気分が悪くなっちゃって。ありがとう、今日は早めに帰ります。」頭痛薬よりも胃薬よりも効く、安心感をもらったよ。
どんな時に人は深い優しさを向けられるのか。それは、もしかしたら挫折を味わった後の時もあるのかな。どうしようもなく自分が嫌になった時、そんな自分のそばにいて温かい言葉をかけてくれる人を大切にしたいと思う。息子が持ち帰った漢字のテスト。ランドセルから出そうとしなかったので、さりげなく見てみると、出てきたのは58点の答案用紙でした。それを見て、息子が頑張って堪えていた涙をポロポロと流し、それでもぐっとまだ自分の気持ちを我慢しているようだったのでハグをして伝えることに。「この間ね、お母さんさ、自分のマイナスの気持ちを人に話すことも大切って言ったよね。今感じている気持ちを、正直に伝えられる?」・・・ずずっ(洟をすする音)。「お母さん、Rが漢字テストに向けて頑張って練習している姿沢山見てきたよ。だから、思うように点数に繋がらなくて、悔しかったんだよね。それはね、頑張った証拠なんだよ。いい加減な気持ちでやっていたら、こんなに悔しくなかったと思うんだ。今感じているその気持ち、大事にしなよ。お母さんもね、最近失敗しちゃってとっても情けなかったし悔しかった。でもね、その失敗から今度は絶対に間違えないでおこうって思えたの。Rのテスト、惜しい間違いが沢山あるよ。『酒』という漢字、“さんずい”が一つ足りなくて“にすい”になっていたりね。よく頑張ったね。」ハグをしながらそう言って頭をなでると、余計に色んな気持ちが溢れたようで、また泣かせてしまいました。大人になればなるほど、人前で泣けなくなる、今のうちに思いっきり泣いておきなよ。社会人になって大きなミスをして自分の不甲斐なさを感じた時、きっと一人で泣くと思うから。一体私の前で、どれだけの人達が泣いてくれただろうと思うと、なんだか堪らない気持ちになりました。みんな温かい涙だったな、その後ほっとし、ふと笑ってくれた時どれだけ嬉しかったことか。人と深く繋がるのは、こんな時。
泣き止み、こちらの気持ちを十分感じてくれた息子は、テスト直しを丁寧にやってくれました。そして落ち着き、笑顔を見せてくれたお風呂上がり、一緒に地図帳を見てワイワイ。「アイスランドって国があるの?!」彼の頭の中では、アイスクリームでいっぱいの夢の国なんだろうな。絵本から地図帳へ。息子と過ごした沢山の歴史が、今日も刻まれていく。