肯定してみる?

『自己肯定感』という言葉。この言葉に関連する本を、そう言えば何冊か読んできたなとぼんやり思いました。内容を全部理解しているかと言えばきっとそうじゃないのだろうけど、“こうありたい自分”は、なんとなくから少しずつ明確になっていってくれたような気がしています。
まだ子供だった頃、何回か、校内でクレペリン検査という心理テストを行ったことがありました。一桁の数字をひたすら足していくその検査で何が分かるのだろうと不思議で仕方がなかったのですが、何度受けても似たような結果が待っていた訳で。とにかく網の目が細かいだとか、感受性が強いとか。もう少しないんかい!と思いながら、時にわざと遅く計算してみたこともあったのですが、結局は似たような内容でした。なぜ?人の心理って面白い。

プログラマーのMさんと久しぶりにミーティングができた時、「今一番何がしたいって、大学に行きたい。」と素直に話すと笑いながら伝えてくれました。「心理学を学ぶ学生さんからしてみたら、Sちゃんそのものがいい勉強材料になるだろうね。どうやってその人格になったのか、興味深いと思うよ。」と。ああ、それならいくらでも学食で話しますよと嬉しくなりました。もしかしたら息子よりも先に、どこかのキャンパスを歩くことになるのかも。

母のことで、極限状態までいっていた頃、専門家を訪ね、私にカウンセリングは必要ないと笑われた後、少し考えてみました。なんでも経験なんじゃないかと。活字でも、講義でもなく、せっかくの機会、実体験で得られるものがあるのではないか。そして、なんとなく予約を入れ、凹んだ時点で止めてしまえばいいと逃げ道も勝手に用意してカウンセリングルームへ行くと、ふかふかのソファがあり、それだけで癒されてしまいました。この単純さを褒めてあげたい、そんなことを思っていると入ってきたのは30歳ぐらいの男性のカウンセラーの方でした。あれ?女性の方じゃないんだというのが率直な感想。柔らかくもなく硬くもなく、客観的に物事を捉えてくださる方だなという印象を持ちました。いい感じでこれまでのことを誘導してくれたので、順を追って説明すると、ほとんどがメモを取りながらの相づち。実際はアンパンマンの絵でも描いていたら面白いなとくだらないことを思いながら、話を進めると、ラスト5分程で伝えてくれました。「まずは○○さんの話を聞いた僕の理解です。とても冷静で、怒りの感情があまり表に出ない。もっと両親に対して怒ってもいいと思うんですよ。お父さんは銀行で大変な思いをした、それはそうかもしれないけど、それで浮気をしてもいいということにはならない。それによってお母さんは心のバランスを崩してあなたがさらに大変になった。ここでは、僕と二人です。次回はさらに感情を出してくださいね。」なんか、やられたなと思いました。これまで押し込めていた負の気持ちを出し切れということなんだろうなと。お風呂の中で湯船に浸かり、セッション中に出なかった涙が溢れ出す。これでいい。

そして、どんどん打ち解けていった7回目のセッションで伝えてくれました。「これまでの話で、あなたが誰に対して一番怒っているだろうと考えたのですが、それはお姉さんじゃないかと。」そう言われて、思いっきり笑ってしまいました。そう、拍子抜けするぐらいに。そりゃダメだ。ダメなんじゃなくて、このカウンセリングは成功だと思いました。だってね、姉には姉の考え方がある。両親との向き合い方がある。それを姉に押し付けるのは間違っている。私はこう思うからお姉ちゃんも同じようにしてほしいというのは違う。それを私が勝手に姉に怒っていたのなら、そのエネルギーを別の所で使いたいなと思いました。彼女をがんじがらめにしたらいけない。「お姉さんの話をしてくれた時が、一番人間らしかったですよ。僕の前ではっきりと感情を出してくれました。それでいいんですよ。でね、今後どうします?最初から思っていたことなんですけど、一人で歩けるクライアントさんにカウンセリングはいらないと思うんです。誰に対してもこんなことを言っている訳ではなく、あなたの場合、自分で解決することが一番のカウンセリングじゃないかと感じました。僕はただのきっかけに過ぎないです。」こんなあっさり突き放してくれるんですねと思いながら、今日のセッションで最後にしようと決めてくれていたんだなと思いました。選択肢はただ一つ。「なんだか、もやっとしていたものが晴れた気がしています。思い出したくないこともあったし、でもやっぱり少しずつ整理ができた気もして、いい時間でした。」そう話すと、微笑みながら聞いてくれました。「僕の印象どうでした?」あはっ。まとめに入っちゃうんですね。というかカウンセリングちゃうし。「異性の方だったし、かなり落ち着いていたので、どこまで話せばいいのだろうと手探りだったんですけど、私が怒りの感情を出した時、いいですね~と笑ってくれて、それで先生との壁がなくなりました。」素直に話すと、優しく頷き、腕時計を見てセッション終了。ドアを開け、一緒に廊下に出て、これまでありがとうございましたと挨拶と共にその場を去り、エレベーターホールの前まで行った後、振り向くともうそこにはいませんでした。毎回見送ってくれたのに、やってくれるな。一人で歩けるのに、僕は必要ないでしょ、振り向かなくていい、それが最後のメッセージなのだと思いました。

「いいんじゃないですか、それで。」なんだ、このままでいいんだ。ただ、感情を出すことを恐れるな。僕はいいと思いますよ、あなたのままで。もう、自分を否定しない。そのままで行く。「もしもう一度先生とセッションをしたくなったら、予約を入れてもいいですか?」「僕、結構忙しいんですよ。ははっ。」ヒントは出したんだから、あとは自分で考えろ!いいカウンセラーの方だったことは言うまでもない。