頼もしい人

ある平日の朝、起きた瞬間ものすごい吐き気に襲われ、なんとか適当な朝ご飯を準備したものの、起き上がってはいられない状態になり、息子に言いました。「お母さんね、かなり気分が悪くて、今日は送っていけそうにもなくてごめんね。帰りは良くなったらお迎えに行くから、気を付けて行ってきてね。」そう言って、ベッドの上でノックダウン。あっさり状況を理解してくれた息子は、身支度を済ませいつもの時間に出てくれました。ほっとして休み、再度起き上がると、気圧の影響でやられてしまった気分の悪さも和らぎ、玄関を見るとカギがかかっていて驚きました。なぜ?と思いながら、時間を巻き戻してみる。どうやら無意識の間に体を起こし、不安がらせないように玄関で見送っていたよう。ちゃっかりゴミ出しもお願いしていたらしく、ごみ袋は無くなり、ハイタッチしてバイバイした後カギを締めたことを思い出しました。その後、ぼーっとしながらキッチンへ向かうと、食べたイチゴのお皿はシンクに置かれ、練乳は冷蔵庫に入れられ、プリンの容器はゴミ箱に捨ててあるのを発見。何でもないことなのだけど、甘ったれの息子がこんな時は助けてくれることを知っていました。引っ越し前からずっと気を張っていたせいか、こんな気遣いが嬉しくて。その後、回復したので買い物を済ませ、いつもの公園で待っていると、角を曲がって私の姿を見た途端、満面の笑みで駆け寄ってきてくれました。「ママ、良くなった?」「うん、ありがとう。今日は一人で行ってくれてとっても助かったよ。」優しさをもらい、そして返すひととき。お互いのタンクが、こうして満たされていく。体が辛くてもそばにいるよ。

そういった日常の中で、ざわついてしまう連絡が入りました。それは、夫がビジネスパートナーのMさんに連絡をし、会って話せないかということ。いつか連絡が行くかもしれないと思っていたものの、あまりの早さに驚きました。人のいい彼は、忙しい仕事の合間を縫って、夫と会うことに。そして、夫が行き詰まり、このサイトを訪れていたことが分かりました。「否定された気持ちになった。」と。収入が見合わないことで、この仕事を辞めてほしいと言われた数週間後、本人に伝えました。あなたが提示した金額を出すから、記事はもう読まないでほしいと。それは、もう二度と私の心には触れないでほしいと伝えているのと同じことでした。どれだけの想いの中で言葉を紡ぎ、読んでくださる方達が大切に受け取ってくれているのか、それが夫には届かなかったのなら仕方がないこと。そして、彼のことを決して否定しているのではなく、色んな現実を受け止めた上で、感謝と未来と出会えたことを何一つ後悔していない大きくて意味のある価値ある時間だったことを届けました。真意が伝わっていたら、こんなことにはなっていなかったのかもしれません。それでも、夫がどんなに辛くても自身と向き合い、“自分が”ではなく“相手が”という寄り添う気持ちを大切にしてくれたらと願っています。恋愛中、両親の間に入り、翻弄される私を見て、狭いアパートの中で夫が言ってくれました。「Sには幸せになってほしい。」そう言って、背中をさすってくれた彼の温もりは、紛れもなくあたたかかった。どこかで何かを見落としたなら、今取り戻してほしい、確かにそこにあったものだから。自分が辛いからと刃を人に向けるのは違う、その痛みに手を当て、その原因ととことん向き合えた時、次の一歩が変わってくると信じています。

随分前、母のことで姉に言われたことがありました。「Sはいつも性善説なの。どれだけ辛い思いをしても、絶対に人を嫌いになったりしない。どうして?」と。どうしてだろうともう一度考えてみました。せっかく出会えた人だから。いいことも悪いことも混在しているけど、最後に残るのはいいことなんだろうな。そして、本人の弱さを隠そうと嫌な人になってしまいそうなことに、どこかで気づいているからかも。弱さを認めて肯定できた時、少しだけ強くなれるのかな。私自身大したことないけど、人を上下で見ない、みんなそれぞれが尊重される存在だから。
どうしようもなく傷つけ合った母と姉。二人の間に入り、笑ってしまうぐらい傷ついてきた過去。姉の言葉にオブラートをし、あたため、ものすごく大切に母に渡しても、とげとげのボールをぶつけられたことが何度あったことか。そんな歴史を辿り、母がメッセージをくれました。『お姉ちゃんがお誕生日ランチに誘ってくれました。Sが沢山伝えてくれたから。これまで本当にありがとう。』蓋を開けるのが怖いと言っていたネネちゃん。こちらがバックアップ体制でいることを感じ、勇気を出してくれたよう。匂い付きのキャラクターティッシュが流行っていた姉の小学校時代。みんな持っているのに、いつも気が立っている母に言うことはできず、自分で絵を描いて持って行ったりしていたと話してくれました。そういった話はごまんとあって、いつも孤独を抱えていた姉。母との再会で、ランドセルを背負ったネネちゃんを抱きしめてくれたらいいなと思いました。ごめんなさいとありがとうと、あなたを産めて幸せという母の気持ちが姉の心の傷を癒してくれますように。そんな二人を見て、名脇役の父とお茶でもすすり合うことにする。って、お父さんも癒しに行け!とお尻を叩くのが私の役目だった!気圧でやられている場合ではない。一番頼もしいのはもしかしたら、息子なのかもしれない。