気持ちを上げる

遠足から帰った息子が、まだその余韻を楽しみたいのか、夜一緒に遊びながらふと伝えてくれました。「一緒にお弁当を食べた時にね、先生がフェイスシールドを付けていたことを忘れて、そのままポテトサラダを食べたら付いちゃったの!でね、先生、醤油を入れるお魚の小さいケースみたいな水筒を持ってきていたんだよ!」とゲラゲラ笑うので、一緒になって盛り上がってしまいました。青空の下で、さぞかし楽しかったんだね。お母さんも行きたかったな。「○○君なんてね、でっかいおにぎり三個も持ってきていたの!!」この話は徹夜で続くのかい?「くみちゃんはね、ボクが遠足に行っている間、江ノ島水族館に行っていたんだって。」「え~!お母さんが帰ってくる頃には戻っていたよ。」先に帰ってきたんだよと、終わりの見えない会話を何とか終了させ寝かしつけ。ハグをし、ハイタッチ。なぜかくみちゃんもメンバー入り。今夜もいい夢を見てね。

思い切って変えた漢方が合わず、このままではよくないと思い、予約の日にちを前倒しして、主治医に会いに行ってきました。「あれ?随分早いね。どうしたの?」「先生に変えてもらった漢方が今回は合わなかったようで。すみません、早く来てしまいました。」そう話すと、いつもの診察通り、私の両手の温度を確かめながら、「すみません。」とぼそり呟いてくれて、主治医の謙虚さと温かさに恐縮してしまいました。変化を求めて変えてほしいとお願いしたのは私の方なのに、その判断を応援し、処方してくれた先生に謝られるとは思わず、患者さんファーストな主治医らしい振る舞いに嬉しくなって。結局、初診の時から出されていたものに逆戻り。その漢方は特別なものでした。

初めて、医師の元を訪ねた時、当たり前のように襲ってくる日常の頭痛を何とかしたいという話をさせてもらいました。色々な角度から話を聞き、3枚にもなる問診票や私の表情を見て、あまり多くを語らない先生が最後に伝えてくれました。「今日出す漢方はね、中国古代の王妃が酷い頭痛に悩まされていた時、周りの役人達が何とかして助けたくて作られたものなんだよ。」とてもまじめな先生という第一印象があっただけに、穏和に話してくださるその表情を見て、そんな話をされるとは思わず、心の奥底からじわっと熱いものがこみ上げ、泣きたくなりました。原因が分からず、ここまでとっても辛かったね。本当に苦しい時は周りに助けを求めてもいいんだよ。そんな先生のメッセージも込められていたような気がして、回り回ってようやく出会えた医師のような気もして、堪らない気持ちに。最初の診察で、何が見えてくれたのだろう。今でも不思議に思うことです。
そして、去年の年末年始は調子が崩れたので、いつでも先生に泣きつけるように、予定を教えてほしいと伝えると、ちょっと待っていてねと言い残し、わざわざ通路にいた看護士さん達に聞きに行き、いなくなってしまいました。「ごめんね~。僕も今知ったよ。年末年始はスケジュール的にあまり来られないから、前に一時期通っていた方の病院に来て。遠いんだけど、土曜日はまだそこで非常勤でいるから。イルミネーションが綺麗だよ。そっちに来たら、気持ちも上がるかもしれないよ。」そう言って微笑んでくれた先生の言葉があまりにも優しくて。ちょっと沈みがちだったこちらの雰囲気を感じ取ってくれていたのだと思い、参りました。丸ごと、いつも見事に包んでくれるこの先生にこれからも助けられていくのだと。元気がなくなったら、イルミネーションと先生に会いに行きます。

そんなやや凹み気味だったここ最近だったので、なおさら思い出した一つの記憶。私が高校3年の時、姉がどうしてあそこまで大阪の大学を受験するように勧めてくれたのか、改めて気づいたことがありました。「とりあえず受験しなさい。受からないかもしれない。結局愛知の大学に進むかもしれない。それは、運に任せればいいんだよ。でも、最初から地元に残ることを決めてしまったら、お父さんもお母さんもおじいちゃんも皆安心するだけ。それではSが苦しくなる。出ようと思ったら出られるよという気持ちを見せておかないと、お母さんはしがみついてしまうから。形だけでも見せておこうよ。」そこまで言ってくれたのに、最初から地元の大学に決めてしまった私を姉はどれだけ歯がゆい思いで見てくれていただろうと切なくなりました。そんなもどかしさをぐっと隠し、妹が選ぶ道ならと応援してくれた彼女。今度会うことができたら、お礼を伝えることがいっぱい。

大学図書館で働き始めた頃、入館のところでもたもたやっている一人の女性を発見。「お姉ちゃん!」「おお!S、しれっと入ろうとしたら、学生証が必要なんだね。」「今セキュリティが厳しいんだよ。っていうか、なんでここにいるの?」「出張で来て、時間があったから驚かせようと思って。」「本気で驚いたよ。学生さんの後ろについて、どさくさに紛れて入ってこようとする怪しい人がいると思ったらお姉ちゃんだし。」そんな会話を先輩が聞きつけ、お姉さんがせっかく来ているなら短時間だけ出てきていいよと言われ、有難く姉とキャンパス内のベンチに座りました。「いい大学だね。先輩も優しそうだし。」その言葉を聞いて、色々な想いがこみ上げました。Sが自分の手で掴んだもの、遠回りしたけど辿り着いた場所にいる姿を見てみたかった、来られて良かった。そんな気持ちが含まれていて、仕事中に涙を堪えるのが大変でした。
「お姉ちゃん、来てくれてありがとう。」「いい環境で良かった。お仕事頑張って。」司書の資格を取り、大学図書館を選んだ私を心から喜んでくれた姉。その後ろ姿は、安心に満ち溢れていて。どんな気持ちでキャンパスを歩いてくれたのだろう。妹の幸せは私の幸せ、そんな言葉が聞こえてくる。