息子がプログラマーのMさんと野球観戦に行きたいと言い出し、喜んで彼がチケットの手配をしてくれて、いよいよ翌日に迫ってきたヤクルト対阪神戦。天気予報を見てみると夕方から雨の確率が高かった為、息子が張り切って5個のてるてるぼうずを作り、当日は見事に晴れました。いつものように応援グッズをリュックに詰め、早めに駅へ。混んでいた在来線から地下鉄に乗り換えても、やはり混んでいたので、「すぐに出入りがあるから。」と小さく伝えると、目の前に座っていた20代の男性がすっと席を譲ってくれました。お礼を伝え、息子を座らせほっとすると、それを見ていた隣のインド人の男性も私に譲ってくれて驚きました。立ち上がり、手で椅子を勧めてくれて、微笑みながら去って行く姿が本当に優しくて。言葉がなくても温度ってこんなにも伝わるものなんだな、そんなことを思っているとあっさり表参道の駅へ到着。最初に席を譲ってくれた男性も降りることが分かったので、「ありがとうございました。」と改めて伝えると、「いえ、そんな・・・全然ですよ。」と恐縮されながら気持ちよく行ってしまいました。そこだけ温度が上がったかのようなぬくもり、人の流れの中にあった一瞬の交わりに嬉しくなった昼下がり。
その気持ちを持って改札へ行くと、Mさんが待っていてくれました。息子と彼がハイタッチをして、表参道を散策。遠くに見えた六本木ヒルズや東京タワーを9歳児に説明しながら、エイベックスビル1階にある大きなドトールへ。そこで、ヤクルトの予告先発が前回の観戦と同じサイスニード投手だと分かり、息子と二人で盛り上がりました。阪神ファンのMさんは、投手戦になるかもと冷静にワクワクしていて。息子が私のスマホにイヤホンを付けてYouTubeを見だしたので、久しぶりに彼とミーティングをさせてもらうことにしました。前日に起きた安倍元総理の襲撃事件。自分の中の一部が止まってしまったかのような衝撃があり、祖父のことも頭を過り、複雑な気持ちの中にいたので、大きな窓から光の射し込むカフェで彼と話し、少し落ち着けたようでした。その後、スマホを手にしたMさんが急に慌て出し、説明してくれて。「今日のヤクルト対阪神戦、中止だって。」「え~!!なんで??」「ヤクルトの監督や選手、スタッフからコロナの陽性者が多数出たみたい。」「・・・そうか。Rがかなりショックを受けるかもしれないから、どこかに連れて行った方がいいかも。まさかここまで来て知ることになるとは思わなかったけど、誰が悪い訳でもないからね。」サイスニード投手が好投してくれて、青木選手の登場曲『SOUL LOVE』を聴きながら、素振りをする背番号『23』をイメージしていたので、こっそり落ち込みながらも、息子を凹ませないように頭をフル回転。「ママ、そろそろ行こ~。」とイヤホンを外し、行く気満々の小4男子に伝えました。「今日の試合、ヤクルトの選手達がコロナにかかってしまい、中止になったの。」「え~!!!試合観られないの?」「うん。本当に仕方がないことなんだ。また振替の試合があるかもしれないし、今日はヤクルトのグッズを買って、ボウリングにでも行こうか?」「うん。ヤクルトのグッズは買いたい。」と意外とあっさり理解してくれたので、安堵しながらお店を出ました。ヤクルトの応援傘を阪神ファンのMさんに、表参道を歩きながら持ってもらうのはちょっと面白いなと思いつつ、まさか一度も開くことなく帰るとはと、本気で残念がっているのは私かもしれないなと笑えてきて。それから、ヤクルトショップに寄り、リラックマがヤクルトのユニフォームを着ているマスコットを見つけ、息子もご満悦で購入決定。せっかくなので、神宮球場の前まで行くことになり、歩道で阪神の黄色いはちまきをした男性とすれ違い、ふふっと笑えてきました。試合がないことが分かっても外さないんだ~と思いながら、Mさんに報告。「今すれ違った男性、真ん中にトラのマークが付いたはちまきしていたよ。」「僕も、試合観に行く時はそんなやで。」と言われ大爆笑。阪神ファン濃い~な。そういえば、中学時代、家族で甲子園を観に行き、球場外で売られていた阪神の亀山努選手の下敷きを買い、テニス部の友達にプレゼントしたらめちゃくちゃ喜んでくれたことを思い出しました。「亀山さん、すごい好きなんだよ~!Sちゃんありがとう!!本当にいいの?」「この選手が好きだって知っていたから。私は中日ファンだからいいのいいの。」そう言って二人でわいわい。その当時は、ネットで買える時代ではなく現地に行かないと手に入りませんでした。高校野球を観に行った私がまさか阪神のグッズを買ってくるとは思わず、彼女は一日中歓喜。亀山選手の下敷きで大盛り上がりだった中学時代を思い出し、なんだか嬉しくなりました。試合が無くても、野球の思い出はきっと山のようにあるんだろうな。
その後、私と息子がよく行くボウリング場までMさんが来てくれて、みんなで2ゲームを楽しみました。空白になってしまったはずの時間が、喜びで埋まっていく、そして溢れ出した。その瞬間はもしかしたら三人同時だったのかも。誰かがストライクを取る度、スペアを取る度、ハイタッチして賑やかな時間は終わり、メダルゲームを楽しみ、UFOキャッチャーをやってマックへ。息子がおばかなことをやる度笑いが起き、お別れの時がやってきました。電車の時間があったので、慌ててお礼を言い、Mさんと息子はハイタッチ。楽しいひとときをありがとう。その気持ちを胸に、急いで電車に乗ると、息子が伝えてくれました。「ボク、Mさんとボウリングをやりたいと思っていたから今日はすごく嬉しかった。」その言葉を聞いて、泣きそうに。楽しみが急に無くなっても、それを思いっきり好転させてくれる人がいて、今日という日を彼は忘れることはないだろうと思いました。大人になって、ヤクルト戦をテレビで観ていたら、ふとした拍子に思い出して、ビール片手に目が潤む時がくるんじゃないかなって。そういうのを幸せと呼ぶのだと、心に残っている宝物を大事に取っておいてほしいと思っています。ヤクルト関係者の方達の健康を祈り、Mさんに感謝しつつ、野球を愛するすべてのみなさんと乾杯。注がれたコップから溢れ出したビールは、きっと歓喜の味。一人で注いでも、同じ球団を応援する仲間がテレビの向こう側にいるよ。
安倍元総理のご冥福を心よりお祈りいたします。