希望を乗せる

先月下旬、母が息子の為に取ってくれた神宮球場のチケット。ヤクルトファンの彼は、本拠地の試合に大喜び。そして、対戦相手は中日。中日がリーグ優勝しそうだという時に、いつ?いつ優勝するの?セールに行かなくちゃ!と名古屋でうるさかった母が、息子とヤクルト対中日戦を楽しみにしている姿が微笑ましくなりました。が、三度目の緊急事態宣言で無観客か?ということになり、大慌て。25日だったので、ぎりぎり観客を入れての開催になりほっとしました。前日に、ヤクルトのキャラクター“つばみ”の存在を話し、動画を一緒に観てみると、キレッキレのダンスに二人で大笑い。「スカート履いていて、とってもかわいいね!つば九郎と同じサイズのぬいぐるみいるんじゃない?」「うん。ボク探してくる!」と前日はテンションMaxで眠りの中へ。

翌日は学校だから、あまり遅くならないように7回が終わったら帰宅するはずが、1点差で勝っていたので、帰りたがらなかったらしく結局最終回まで。勝った瞬間、電車が混むからと引っ張って連れて帰ってきたそう。母が、ヤクルトの応援ならではのミニ傘を買ってくれたので、ホームランの度に一塁側で傘を振り、めちゃくちゃ楽しかった~とレポートをしてくれました。「ママ、つばみいたよ~。つば九郎と同じサイズ~。」と買ってきたぬいぐるみで喜び、お風呂に入る気配なし。10時前に何やっているんだかと思いつつ、あまりの可愛さに一緒に盛り上がってしまいました。その日は、くみちゃんとつば九郎とつばみと就寝。夢の中では、どんな試合が行われているのだろう。
次の日、慌てて学校から帰ってきたので、理由を聞いてみると、「つばみに早く会いたかった。」と言う8歳児。ヤクルトの広報担当の方が聞いたら喜んでくれるだろうな。さらに夜会は、ホワイトボードを引っ張り出し、つば九郎が試合前に出した問題が出されました。「青木+山田はな~んだ?」「え?青木山田??」とこれまた訳の分からない答えを言うと、ブッブーと言われる始末。「背番号だよ~。」「ああそうか。どちらかが1番だったような。山田だ!青木は何番か分からない。」「23番だよ~。だから答えは24!」めちゃくちゃヤクルトに染まっているじゃないか!そして、つば九郎の背番号は2896で、つばみは283なんだよと、かなりレアな情報まで教えてくれて笑ってしまいました。「二人が好きな食べ物はな~んだ!」まだ続くの?!「ええ、なんだろう?分かった!ヤクルト!!」「正解~。」子供の心、わしづかみやな。

まだ姉との横浜中華街での再会が果たせていない理由を、あれこれ考えてみました。この際なので横浜スタジアムで行われる試合とのダブルヘッダーもありなのではないかと思えてきて。とりあえず一緒に野球観戦をしてアイスブレイク。テンションが上がった後に、なんとなくあったわだかまりが解けていくのではないかとも思ったりして。私が中学生の時、父が三人を乗せて連れて行ってくれた春のセンバツ。深夜に出て朝甲子園に着いたものの、運転に疲れた父は1試合目の途中からホテルに戻り、ずっと寝ていました。三人は最初から最後までバックネット裏で応援。そもそもこんなに野球漬けにしたのはお父さんだよねなんて、改めて思いました。会話が無くても、野球はいつもBGMのように流れ、誰かがヒットを打つ度目線は画面に注がれ、よし!という声を誰からともなくかけていたそんな日常が好きでした。高校3年の時、母校が愛知の予選で上位に行き、ついにローカルテレビで中継された時は、銀行内のお客様が見るテレビでずっと気にしてくれていた父。野球場へ応援に行った後、録画した試合を一緒に観てくれた母。「勉強にとにかく厳しい学校だから、他の高校にすれば良かったって何度思ったか分からないけど、野球でこんなに感動させてもらえるとは思わなかったよ。」そんな話をほっとした表情で聞いてくれた姉。「Sちゃんの高校、負けちゃったな~。」と一緒に残念がってくれた祖父。うちの家族は、決してバラバラじゃなかった。その象徴の一つが、大好きな野球だったような気がしています。父から娘へ、娘から息子へ。孫がヤクルトファンになるとはさすがに想定外だったろうな。この間は、息子がふざけてひと言。「とりあえずビールで!」お酒は20歳になってから!!っていうかほしいのはヤクルトでしょ!おじいちゃんのセリフ覚えてこないで~。

漢方内科の主治医に、何気なく母の物忘れについて相談してみました。本人に自覚があり、私も気になるレベルだと話すと、あなたに強く当たらなくなったのもそういったことが多少なりとも関係しているのかもしれないなとぼそっと呟かれた訳で。もう少し様子を見てみますと伝え、母が少しずつ遠くに行く不安感を覚えました。気のせいであってほしい、それでも小さな違和感を逃さないでいようと思います。
卵巣腫瘍摘出手術で、前にも後にもそばにいてくれた母。彼女の声が大きいことにいつも困惑していました。それでも、その日だけは違っていて。混沌とした眠りから覚め、執刀医の先生が良性を告げてくれた後、「こちらでいいんですか?」というオロオロとした母の声が遠くから聞こえ、微笑みたくなりました。麻酔が覚める吐き気よりも前に感じた、母の愛。「S、本当にお疲れさまでした。」今にも泣きそうな声で労いの言葉をかけてくれた人。手術が何時間になっても目が覚める時にはそばにいる、そんな母を全力で見守るよ。

野球チームの練習を休み、神宮球場へ向かうことになった二人。「おばあちゃんね、最近よく色んなことを忘れちゃうから、Rがしっかりしていてね。」「うん、分かった。」小さなボディガード、頼んだよ。大切な人を守れる人になれ。