一日一日を

とても気持ちのいい晴れた空の中で、寒暖差にやられながらも隣町の主治医のいる病院まで運転し、行ってきました。さあ、どこまでさらけ出せるかな、そんなことを思いながら。

そして、いつものようにドアをノックしご挨拶。手術後の状態を改めて聞いてくれた先生に、素直に話しました。「左の卵巣を丸ごと摘出しているのに、たまにうずくんです。」「取り出したことによって左側のがんの心配は無くなった。でもそれで終わりではなく、あれだけ癒着が酷かったということは他の臓器にも影響していたことを考慮して、様子を見ていくことも大切なんだよ。僕の患者さんでね、卵巣が破裂した方がいて、手術の後も痛みで相当苦しんだんだよ。最終的に僕の所に来てくれて、漢方治療で落ち着いてくれたんだ。もう10年の付き合いになるよ。だから、あなたにも同じような痛みを感じてほしくなくて、先手を打って今の漢方を飲んでもらっている。手術した後のフォローって大事でね、あなたの場合、あれだけ酷くなっていたから別の病気にならないように予防していくよ。」・・・。なんだか、色んな気持ちが駆け巡り、動揺が隠し切れませんでした。

婦人科の執刀医の先生が、退院問診の時に見せてくれた卵巣破裂の絵。よく破れなかったね、本当にギリギリだったんだよとしみじみ言われました。そして、いろんな患者さんがいるのだと。そのいろんな患者さんの中に、私よりも症状が酷かった方が、主治医に助けられ、その人の苦悩を知っているからこそ予め先回りをして届けてくれている先生の気持ちに、泣きたくなりました。色々な質問をする中で、さらに答えてくれて。「右側の卵巣も一度取り出し、腫瘍の所を削り、女性ホルモンを出すためにもう一度中に入れたのだと思う。今の薬をやめたら、生理が始まり、また卵巣に血が溜まることはどうしても可能性としてあるんだよ。」「先生、今の薬、低気圧で天気が悪い日など、なんにも考えていないのに、ぼーっとしているだけで涙がポロポロこぼれる時があって、どうしちゃったんだろう私って、情緒不安定になる時があるんです。」「そうか~、泣いちゃうか~。」とひとり言のように穏和に言ってくれるので、思わず吹き出してしまいました。「とりあえず、1年でやめたいって思っています。」いじけながら話すと、伝えてくれました。「やめるかやめないか、1年後のことを考えるのは止めておこう。その時考えればいいから。まずは今を乗り切っていこう。」先手を打つのは僕の役目だけど、あなたは1日1日を大切にしてほしい。目先のことだけ考えていればいいんだよ、不安や痛みを取り除くのが僕の仕事だから。そう伝えてくれているようでした。

その後、ベッドで横になり、術後初めてのお腹の触診。「傷口大きいな。がんだという前提で切っているね。この大きさでも十分酷かったのがわかるよ。」よく頑張ったね、そんな言葉が透けて見えるようでぐっときていると、左の下腹部を触り伝えてくれました。「本当に腫れ上がった卵巣が無くなっているね!」あったらびっくりですよと内心思いつつ、「え?そんなに分かるものですか?」と言うと、「あれだけぼこっとしていたからわかるよ。すっきりしたね。」という先生の率直な感想に笑ってしまいました。「8cmにもなっていたんだから、その痛みが無くなって良かったよ。」もう、先生電子カルテ暗記し過ぎ。そして、右側の卵巣が再発したら、また見つけてくれるのはこの先生なのかもしれないなと思いました。バックアップ態勢は十分。「気持ちが沈む対策は、次考えよう。とりあえず1か月様子を見るよ。」もうね、なんだか大丈夫。根拠のない大丈夫だけど、先生がいてくれるから弱っても笑えそうな気がするよ。

今年度、息子の小学校の役員は、広報委員。女性7人というメンバーで、初めての顔合わせがありました。1人の方は欠席だったので、6人でPTA会議室を利用させてもらいご挨拶。その中で、一人のお母さんが、「うちの○○が、R君のことをたまに話してくれるんです。」と伝えてくれて驚きました。苗字しか名乗らなかったのに、ご存じでいてくれたなんて。以前、まだ息子が0歳の時に、公共施設で働く先輩ママが、教えてくれたことがありました。「頑張ってママのお友達を作ろうとしなくていいんです。そんなことしていたら疲れてしまうだけだから。R君が仲良くなったお友達のお母さんと仲良くなればいいんだと思います。自然に連れてきてくれますよ。」と。なんだか、その気持ちにとても救われました。頑張らなくていいんだ、息子が縁を作ってくれるんだなと。会議室でふとその時のことが蘇り、そのお母さんの温もりがふわっと届き、大雨のどうしようもなく沈んでいた気持ちに、光が差し込んでくれたようでした。

そして、委員長になってくれた一人のほんわかとしたお母さんが伝えてくれました。「実は私、1度目のコロナの予防接種を受けてきたんです。LINEで連絡することも深夜になってしまったらごめんなさい。」と。ん?これはもしかして看護士さん?!本当にそうだったらいいな、人とのご縁が意外なところに転がっていて、こんな風に繋がり、届くものがあって、本人じゃなくてもまた別の誰かにバトンが渡され、握ってくれる人がいる。私、どれだけ入院中看護士さん達に助けられたか分からないんです、もし委員長がそうなら、何かのタイミングで感謝を伝えたい。そんなことを思っていると、すっかり皆さんと仲良しになり、解散。土砂降りの雨の中、自転車できたのは私と彼女だけでした。慌てて帰ろうとすると、サドルはベタベタ。困惑していると、委員長が後ろから声をかけてくれてタオルを渡してくれました。「私も使ってしまったものだから、すでに濡れたタオルなんだけど良かったら使ってください!」「もう、めちゃくちゃ優しい!!ありがとうございます!」そう言ってすっかり甘え、これから仕事だと教えてくれたので、「頑張ってくださいね!」と手を振りお別れ。
こんな1日が、こんな出会いが、人を少しだけ豊かにしてくれるんだ。1年後は、1年後考えることにする。