素敵な待ち合わせ

私の天敵、治療薬の副作用により、すっかり眠れなくなってしまったここ最近。入院中にお世話になった母にお礼も兼ねて、夫と息子と4人で遊園地へ行くことに。とりあえず朝一で起きたものの、ほとんど眠れていない私と行ってもつまらないだろうと思い、後から電車とバスで追いかけると言って、3人で車に乗って行ってもらいました。1人になり、ようやく仮眠が取れたので、のんびりと家事をこなし、久しぶりの電車へ。読みかけの本もあったので、ハードカバーでもしっかり持参。最寄り駅に着き、遊園地行きのバスを待っていると、女友達と行く二人組や、家族連ればかりで、1人の自分が随分寂しそうな人だと思われていないかと心配になりながらも、開き直って目的地まで楽しむことにしました。

その後、ようやく遊園地に到着。こんなコンディションで乗り物に乗ったら酔うだけだと思い、入園券だけを購入し、スタバを見つけたので喜んで入り、ランチを楽しんだ後に本を読んでいました。何をやっているんだか。その後、母から連絡が入ったのでスタバに来てもらい、二人で軽く雑談。ここ遊園地だよね?と思いつつ、すっかりカフェを楽しみ、ようやく男子二人と合流しました。せっかくなので観覧車だけに乗り、絶叫系を本気で楽しむ息子を見て、とんでもない成長を感じ、ちびっこ達とゴーカートを楽しんでいたのはもう随分前なのだと、あっという間に月日って過ぎていくのだと感慨深い気持ちに。気づいた時には、タキシード姿の結婚式だったりして。

夜になっても、イルミネーションが綺麗な中、まだ3人が弾けていたので、風邪を引いてもいけないと思い、再度スタバに避難していました。すると、夜の景色の中でセンチメンタルな気持ちになり、蘇ってきたのはいくつもの断片的な記憶でした。

まだ、息子が小さかった時、自転車の後ろに乗せて、綺麗な景色の見えるお気に入りの公園へ2人で出向きました。仲良く歩いていると、目の前を歩いてきたのは、すらっとした顔立ちのいい若い青年でした。「こんにちは。」挨拶をされたので慌てたのですが、同じように返すと話しかけてくれました。「ちょっとお話してもいいですか?初対面で驚かせてしまったらごめんなさい。僕、ずっと引きこもっていて、でもこのままではいけないと思い、こうやって外に出るようにしているんです。それで、素敵な親子がいたので、勇気を出して話しかけてみようと思って。」「あら、素敵ではないけど、それは嬉しい。私で良かったらいいですよ。うちの子も話し相手がいた方が喜ぶから。」そんなことを言うと、ほっとしたのか一緒にお散歩をしながら、自分の話をぽつりぽつりとしてくれました。「初めて会った方に、こんな話を聞いてもらうのもってためらうのですが、僕小さい時に親から嫌な思いをして、それから人間不信になってしまったんです。」「何を聞いても驚かないから大丈夫。あなたが苦しくない程度に、あなたのスピードで、話したいことを話してくれたらいいよ。」そう微笑むと安心して、続きを語ってくれました。「妹は大丈夫だったんです。だから僕だけ。その理不尽さがきっと余計に辛かったんだと思います。家庭内でそんな状態だったから、学校でも上手く馴染めなくて。でも、もう高校だし通信制で頑張ろうと思って。だからこうして人との交流も避けてばかりじゃいけないって感じて。今日、公園に行ったら、いい人に出会えるような気がして、だからお会いできて本当に嬉しかったです。」

「それは良かった。私もあなたに会えて、こんな風に話してくれて嬉しいよ。人それぞれ、抱えてるものってあるよね。話してもなかなか分かってもらえなかったり、話すんじゃなかったって後悔したり、自分の弱さを再認識したり。でも、あなたが今日自宅から出て、私に話してくれたことって、すごいことだって思うし、そんな相手に選んでくれてありがとうって思うんだ。子供の頃に受けた傷って、そんなに簡単に消えないと思う。でもね、あなたからとても誠実なものを感じるよ。本人しか分からない辛さ、沢山あると思うけど、今日踏み出した自分を褒めてあげてほしい。」そう話すと、何とも言えない嬉しさと切なさが入り混じった表情を見せてくれました。その後、集中豪雨のような雨が降り、室内に入り、そこで息子と鬼ごっこをしてくれて。ぱっと雨が止み、外に出ると自転車のサドルはべたべた。それを見た彼は、自分の長袖のシャツで拭いてくれて慌てました。「服濡れちゃうからいいよ~。」「いいんです。僕からのほんのお礼です。今日は話せて良かった。ありがとうございました。」そう言って、手を振り気持ちよくお別れしました。その晩、湯船に浸かり、彼の袖から見えた手首の古傷を思い出し、泣けてきました。どうか、自分を大切にしてほしい、今日という日が分岐点になってくれていたらいいなと願いながら。

ふと我に返ると、遊園地のスタバ。幸せそうな家族やカップルがいて、でも見た目以上に、中では沢山のものを抱えていたりするのかな、出会った彼は真っ直ぐに生きられているだろうか、そんなことを思いました。「ママ~。」ああ、お迎えに来てくれたのね。夜のスタバで心の旅、終了。
誰かを信じることが怖かった、でも今日あなたと話せて、少しだけ人を信じてみようと思いました。だから、ありがとうございました。そんな彼の言葉が蘇ってきました。
自分を信じること、そして人を信じること。簡単じゃないけど、味方でいたいんだ。