正解を見つける

息子が毎日学校へ持っていく検温表。朝、記入をしようとするとないことに気づき、仕方がないので少年野球の時と同様に、黒のマジックで左手首に書き、学校で書いてくるようにお願いをして見送りました。そして、帰宅した後用紙を見てみると、そこに書かれていたのは『363℃』。これは大変だ!と一人で盛り上がっている場合ではない。「ねえ、点が1個足りないよ。36.3℃でしょ。」「え~もういいよ、それで。」よかね~よと誰もが突っ込みたくなる返事に帰宅早々笑ってしまいました。

姉に何度も言われた私の気質。「Sに足りないのは鈍感力。それがもう少し身に付いたら、もっと楽になるのに。」一体どれだけ言われたことか。それでも、心理学を学びだした姉がふと電話で伝えてくれたことがありました。「あんたにずっと鈍感力が足りないって言い続けてきたけど、それが間違いだったことに気づいた。敏感なSが身に付くはずがないわ。できないことをやれというのは本人にとって酷な話。そして、お母さんからの攻撃をかわしなさいって言っても、それがなかなかできないことも理解した。放っておけないんだよ、性格上。だから、せめてメールがきても、最初と最後の一文だけ読めばいい。途中のどろどろした部分は全く意味がないから読む必要ないよ。結論だけ読んだら、まだ少しはダメージが抑えられるかも。」一歩引いたところで、母と私の関係性を感じた姉は、妹の守り方の角度を変えてくれたようで、そんな気持ちがとても嬉しかったことを覚えています。

そんな彼女は、大阪で働いた頃、一人の男性に出会い、その人の写真を持って名古屋に帰省をしてくれたことがありました。「最近ね、この人と付き合い始めたの。ねえどう思う?あんたの勘って見事に当たるから。」姉が絶対的な信頼を寄せてくれているのは妹の勘、通称“いもかん”。いもようかんみたいだと笑ったことがあったのですが、彼女が名付けたいもかんを私も何気に気に入っていました。姉妹だからなおさら見えてくるものがあるのか、姉が心を開いてくれているから分かることがあるのか。
そして、写真を見せてもらうと、格好いいのだろうけど何かが違うと直感で思ってしまい、それをそのまま伝えたら、何か姉を傷つけてしまいそうで、適当にごまかしてしまいました。「うん、優しそうな人だね。いいんじゃない?」本当は少し軽薄そうに見えてしまったとはとてもじゃないけど言えず、困惑していると、その彼から姉の携帯に電話が入り驚きました。「せっかくだからSと話したいって。」「ええ!!」と慌てている間もなく、電話に出ることに。「お姉ちゃんから色々と妹さんのことは聞いているよ。妹の勘は凄いって。僕の印象悪くないといいなあ。」ははっ。もうここは笑っておこう。とりあえずなんとなく世間話をして、通話終了。うーん、お姉ちゃん、申し訳ないけどちょっと違うんだよ、と心の中で思いつつ、心配しながらも姉の幸せを願うことにしました。慣れない土地で心の拠り所ができたなら、そのことを応援するのも家族だよね、そんなことを自分に言い聞かせながら。

その後、アルバイト先の日本料理店の皆で忘年会があり、瓶ビールを片手に調理長にお酌をしていると、テーブル下のバッグの携帯がブルブル震えていることに気づきました。着信を見ると姉だったことが分かり、場の様子を見てトイレに立ち、廊下でコールバックをすると、声が聞こえたのですが、こちらがざわざわしていたことにすぐ気づいた彼女は、後でいいからと気を使って電話を切ろとしてくれました。「ごめんね、今忘年会なんだ。終わったら改めてかけ直すね。」そう言ったものの、何か元気のなかった姉の様子が気になりだし、涙声だったのは気のせいだろうかと、忘年会どころではなくなり、一次会が終わったタイミングで皆にご挨拶をし、二次会を断って慌てて静かな道路に出て、電話をしました。「遅くなってごめんね。お姉ちゃん、何かあった?」「急がせてしまってごめんね。彼の所にプレゼントを渡しに行こうと思って、約束もなく家に行ったら、女の人を連れ込んでしまっていることが分かってね。」そう言って泣き出してしまいました。最悪だ、本当に最悪。もっと早くに姉に自分の直感を伝えていたら、こんなに傷つくこともなかったのではないか、でも幸せそうにしていた姿を見て水を差すようなことは言えなかったよ。だけど、今のお姉ちゃん、とっても辛そうだ。色んな気持ちがぐるぐるしてしまい、それでもほんの少しでも元気になってもらいたくて、栄の繁華街の道路で、目一杯伝えました。「写真を見て格好いいとか言ったけど、今思えばそんなでもないし、話も面白くなかったし、もっとお姉ちゃんにふさわしい人いるよ。付き合って間もない間に気づいて良かったよ。ダメージは小さい方がいい。」もう何言っているんだか。「S、もしかして最初から違和感あった?」バレた!「・・・うん。あまりいい印象は持っていなかった。」白状するしかない。「そう言われて、少し楽になった。ありがとうね。」
ビルの間から見える星空を眺めてみる。お姉ちゃんも大阪からこの空が見えるだろうか。大切な姉だから、心から笑ってほしいから、本音を隠す時もある。彼女が私に対してそうであるように、私もそうなのだと、だから最初に伝えなかったことを、姉は全部分かった上で笑ってくれたようでした。

何が正解だった?ただ一つ言えるのは、あなたが私の姉であるということ。だから、あなたが嬉しい時は私も嬉しい。その逆もしかり。「留守番電話に謝罪のメッセージが入っていた。でも二度と電話を取らなかったよ。」と話してくれた姉。それがきっと正解。