歳をひとつ重ねて見えたもの

誕生日の朝、目が覚めると息子が「お誕生日おめでとう!」と言ってくれました。私としてはあまり実感がなかったものの、その気持ちに「ありがとう!」と返事をしていて。そして、休みの中で慌ただしく朝練の準備をして見送りました。テレビを点けると世界陸上がやっていて、なんてハッピーな誕生日なのだろうと。スポーツ観戦が自分を押し上げ、どれだけ豊かな毎日にしてくれたか分からないな、そう思いました。そして、午後過ぎには帰ってくると思い、ワンピースを着て待つことに。その後、息子はバタバタと帰宅し、軽く食べてすぐに友達と遊びに行くと言い出し、また玄関まで見送りました。すると、ワンピースを着ていた私にあれ?という表情をしたことを見逃さなくて。もしかしてボクと出かける予定だった?でも、ママは一人でも楽しめるタイプだからまあいいかとそんな心の声が聞こえてきて、ふふっと笑いながらバイバイ。一緒にね、ファミレスにでもお茶しに行こうと思っていたんだよ、でも友達を優先してねと常に伝えてきた、だからあなたの判断は正解!と思いながら、本を持って一人で出かけることにしました。そんな一日もいいね。

その後、ファミレスに行くと、ボックス席が空いていたので座らせてもらいました。すると、いろんな気持ちが巡って。自分が中学に入学してから、テニス部と陸上部で汗をかき、夏休みに入った頃、テニスの練習中に異変を感じ夜に吐いてしまいました。翌日になっても不調は続き、近くの内科で診てもらうことに。それでも帰った後、原因不明の吐き気は止まらずさらに自宅で吐き、どうしようもない状態は変わらなくて。さすがにこれはおかしいと思った母は、私が生まれた総合病院へ車で運んでくれて、そこで入院が決まりました。その言葉を聞き、ようやく安堵することができて。夜通し、不安の中で吐かなくていいんだなと。それから、自力で立てない程の状況に気づいた先生は、車いすを用意してくれて、看護士さんに小児科病棟まで運んでもらいました。入ると、2歳や3歳の子達と同じ病室で、なんだか癒されて。そして、いろんな検査が待っていました。夜になり、また吐き気に襲われナースコール。4人部屋だったので、付き添いで簡易ベッドに横になる小さい子のお母さんの睡眠を妨げてしまってごめんなさいと思いながら、苦しさと戦いました。嘔吐はしないものの、ずっともがいていて。翌日、点滴が効いてきたのかようやく少しずつ楽になり、研修医の若い男の先生が何度も様子を見に来てくれて、その気持ちに救われたようでした。担当医と二人で来ても、最後は先生だけ残ってくれて。「Sちゃん、大丈夫?今日は顔色がいいね。また見に来るね!」その爽やかな笑顔を見て、立派な医師になってねと願っていました。この時の経験があったからこそ、医療事務の資格を取った時、小児科が頭を掠めたのかもしれないな。いつもどこかで何かが繋がっている。その時、暇すぎる病室のベッドから観ていたのは世界陸上でした。よく分からない原因不明の病で、自分の体がおかしなことになった。ネガティブな感情も沸き上がりそうな時、ただ自分がやってきたことを信じて前だけを見て走る選手達の姿に心が奪われました。アスリートとして磨いたものは、技術だけじゃないんだな。コーチを信じ、関係を築き、時に極限状態まで自分を追い込み、心を鍛え上げ、この舞台にいるのだと。怖くないのだろうか、そういったものも通り越して今があるのかもしれないな、流れ落ちる選手達の汗からいろんなものを感じ、ベッドの上で自分も元気になったらまた頑張ろうと思いました。スポーツから得られたものは、子供の頃から計り知れないな。最終日に受けた診断名は、なんとかかんとか症候群。あまりにも長かったので、症候群しか思い出せなくて。今思えば、息子が学校から資料としてもらってきた起立性調節障害も関係があったのではないかと思っていて。得体の知れない辛さの中にいた、でも病室のベッドでいろんな世界を知った、そこから見えたものもずっと大切にしてきたのかもしれないなと。自分の体が思うように動かない時も諦めないでいられたのは、そのひとときがあったからこそ。

ふとスマホを見ると、マブダチK君からメッセージが入っていました。『誕生日おめでとう。もうアラフィフだね。日々は充実してるかな?こちらは平凡な幸せな日々を過ごしてるよ!Sがおばあちゃんになっても誕生日が祝えることを願ってるよ~。まだまだ暑い日が続いてるので体調には気を付けてね。46歳のSが幸せでありますように・・・』46歳でもうアラフィフの仲間入りかい!と思いつつ、K君に出会ったのは30年前かとその長さと濃さを噛み締めました。初めて会ったのは高校の同じ教室、お互いのことを変わったヤツだなと思い、すっかり友達に。そして、16歳になる誕生日におめでとうと何度も伝えてくれました。「俺は早生まれだから、Sの方がおばさんだ!」と。毎年同じセリフが待っていて、ある時言われて。「この先もいろんなことがあると思うけど、俺達の友情は変わらないでいような。」30年間、本当に何も変わらなかった、それって奇跡だなと。そして、ファミレスで本を読んでいる私自身も何も変わっていなくて、おばあちゃんになっても、こんな日常が待っているんだなと少し笑ってしまいました。一息ついて、息子の為にプロ野球チップスを買って帰宅。すると、帰ってきた息子は喜び、お風呂から上がると、プレゼントを渡してくれました。「Mさんと選んだの。」と。中身を見てみると、埼玉旅行のムーミンバレーパークで買ってくれたガラスのコップとムーミンとスナフキンの箸置きセットでした。割れないように、旅行の帰りもこっそり運んでくれていたMさんにも感謝だなと。「ありがとう!ムーミンのグッズが増えて嬉しい!」と大盛り上がり。
こうして46歳の1日目が穏やかに終わりました。皺がまた少し増え、どうやって年齢に逆らっていこうかと思うと同時に、これが自分の年輪なんだなとも。人を育てるって難しいなと最近改めて感じた、だからこそ毎日が反省と驚きと輝きの連続で。そんな生を大切にしたいと思う。