小さな喜びを集めよう

年末、息子と一緒に『SASUKE』(TBS系)を観ていたら、元阪神の糸井選手が登場し、感激してしまいました。引退されても“超人”であることに変わりないなと胸が高鳴った夜。息子も、すっかりSASUKEにはまり、後日広い公園に行った時は、雲梯で必死に練習するので笑ってしまって。「もう少しで最後まで行けたんだよ~。ママの応援が足りなかった!」とぶつくさ。気合いが足りないんじゃ!とこちらも心の中で反撃しながら、その後も遊具を使ってSASUKEごっこを楽しみ、へとへとになって帰ってきました。大晦日は『逃走中』(フジテレビ系)を観て、ヤクルトの選手も出ていたので大盛り上がり。そして、カウントダウンは『あつまれどうぶつの森』で。息子の世界観にほっこりしながら、嬉しい年の幕開けでした。いい年にしよう。

元旦は、二人でのんびり河川敷の公園まで凧揚げをしに行きました。気持ちのいい風が吹き、高く飛んでくれた時、自分も少しだけふわっと飛べたような気がして。そんな感覚を忘れないでいようと嬉しくなっていると、すっかりボロボロになったボールを取り出し、サッカーがしたいと言い出した息子。ワールドカップ、クロアチア戦でPKを見た彼は、すっかりキーパーの権田選手のファンになっていました。「ボクが止めるからママが蹴って。」と意気込んで言われたので、本気のPK戦が待っていて。右へ左へ揺さぶると、息子が思いっきりボールを後ろにそらし、リフティングのめちゃくちゃうまいお父さんが半笑いしてこちらに蹴ってくれました。新年早々面白い親子がいるなという表情をされたので、なんだか恥ずかしくなってしまって。それでも彼のテンションは変わらないので、開き直って付き合うことに。ジャンピングキャッチしてそのまま芝生に倒れるので、すっかり草だらけ。周りも服もお構いなしの息子を見て、一緒に笑い転げ清々しい一年の始まりでした。笑ってくれた息子に感謝。自分達の世界を大切にできて良かったね。
そして翌日、両親がうちに来たものの、何やら不穏な空気で敏感な息子がすぐにキャッチしました。それでも、何事もなく用意した串揚げパーティをして、父が先に帰り、母と三人で少し遊んだ後、急に慌て出した様子。「どうしよう!お財布がない!!」「え~。お母さん、先程コンビニに行かなかった?」と私。「そうだ!自動精算機でお会計した時置いてきちゃった!」とオロオロ。「うちの近くのお店だよね。あそこの店員さん達とっても感じがいいの。きっと預かってくれているよ。」とできるだけ冷静に伝えると、少し落ち着いてくれたようでそのまま見送ることにしました。すると、時間が経ってまたピンポン。「お財布、やっぱり店員さんが取っておいてくれたの~。心配かけてごめんね。」と安堵の表情をしてくれたので、こちらもほっとしました。去年、私も息子も色々な方のお財布を拾い、店員さんに渡したことが、回り回って母に返ってきたのねとなんだか嬉しくなって。そして、母が帰ると息子がぽつり。「おばあちゃん、忘れ物が多いから気を付けないとだね。そう言えば、おじいちゃんも機嫌が悪かったね。困った人達だね。」と冷静に伝えてくれるものだから、玄関先で笑ってしまって。9歳児の孫の方が一枚うわてだな。

さらに翌日、両親宅で箱根駅伝を観ながら、機嫌の直った両親とわいわい過ごし、夕飯準備も片付けも全部してきた私を息子が労ってくれて、お正月は無事に終了。そして、冬休み終盤、夜のスケートは雰囲気が変わるからその時間に行きたいと言われたので、最後のお楽しみに出向くと、綺麗にライトアップされ、感動しました。夜が好きだという息子、なんだか分かるな。静けさの中にある光に落ち着いたりするんだよね。とても長かった冬休み、息子の頭痛も酷く、泣き叫んだ日がどれだけあったことか。相当参ったと言えば、そうなのかもしれない。でも、それ以上の喜びもあってどの日を取ってもいい時間でした。そう、1日の中でひとついいことがあれば十分。

ようやく3学期が始まり、隣街の漢方内科の主治医の元へ行くと、いつもより混んでいて気長に待っていました。すると、番号が呼ばれ診察室へ。「待たせちゃってごめんね。」「いえいえ、とんでもないです。」「お腹の痛みはどう?」「ホルモン剤を飲んでいても、痛みの強い時があってこれはもう仕方がないですね。」そう言って笑うと、先生が思いがけず伝えてくれました。「なんだか、全然役に立てていなくてごめんね。もっと力になれたらいいのに。」「そんなことないですよ。先生が出してくれた漢方でメンタルがかなり楽になって本当に助かっているんです。先生にしか出せない特殊な種類のものでもあるので。」「そう言ってもらえると救われるよ。あのね、実は3月末でこの病院を辞めることになったんだ。色々あってね。」その言葉が意味するものがすぐに分かったような気がしました。患者さんファーストでいる先生、でも病院は経営をしていかなければならない、そこで何かあったのだろうと。自分を必要としている患者さんに最後に何ができるだろうと、先生が沢山悩んでくれているのが分かり、胸が痛くなりました。こちらが絶句していると、さらに伝えてくれて。「新宿の病院でも診察しているんだ。遠いから難しいかもしれないけど、そちらまで来てもらえるなら、通う?」と意外な選択肢を用意してくれて驚きました。「通います!!」なんの迷いもなくそう伝えると、ほっとしてくれて。財政的な負担をかけてしまうこと、そして体調のすぐれない私を遠距離通院させるのは、先生の中で抵抗があったんだろうなと。すべて先生の優しさ。見つけてくれた卵巣腫瘍、目の前の医師がいなければ大変なことになっていた。そして、術後のホルモン治療で数々の副作用に悩まされ、支え続けてくれている主治医。この先生から離れたらだめだと心が全力で伝えてくれていました。何を話しても、絶対に否定しない医師。こちらの目線に立ち、辛さに寄り添い、痛みを自分のことのように感じてくれました。私もそこまでいつか辿り着きたいなといつも思わせてくれる、あまりにも大きな存在です。だから、迷わず新宿へ。
「先生、本当に大変ですね。これまでどれだけ助けられたか分からないので、新宿に行きます。今年もよろしくお願いします。」最後にそう伝えると、何とも言えない穏和な表情で微笑んでくれました。もう神の領域だな。どれだけ理不尽な思いをしても、絶対に信念を曲げず優しさを向けてくれる人がいる。その気持ちをまた自分のそばにいる方達に届けよう。小さなさくらの花びらはどこまで舞ってくれるだろうか。