小学生の時、県外に引越し、学校ではなんとなく物静かになってしまい、片道一時間程かかる帰り道に、遠回りをしたらたまたま公共図書館を見つけたのが、最初のきっかけでした。
入ってみると、カウンターにいたお姉さんがとても優しく挨拶してくれて、ランドセルを背負っているのに誰にも怒られなくて、落ち着いた優しい雰囲気にほっとしました。
自分の居場所を初めて見つけたような、心が穏やかになる空間。今でもはっきり覚えています。
地元に戻り、中学生になった時、『素顔のままで』(1992年4月~6月、脚本:北川悦吏子、フジテレビ系)というドラマに出てきた安田成美さんが演じる優美子という主人公に心が奪われました。
清楚な雰囲気の図書館司書の役で、中森明菜さんが演じるカンナという友達に出会ってから、自分の意志をしっかり持って、過去の自分に目を伏せることなく生き抜く姿がとても美しかった。
私もあのような姿で図書館で働きたいと思ったもう一つの理由でした。
司書のイメージはずっとあの時の安田成美さんのままです。
大学図書館で勤務するようになり、常連の学生さん達が時々聞いてくれました。
「どうして司書になったんですか?」という質問に、「きっかけは~、フジテレビ!」と答えると、「絶対それネタでしょ!」とカウンターで散々笑われたのですが、間違いではないですよね。
ドラマの話をしても、知らな~いと言われそうだったので、「本も図書館の雰囲気も、そこに集う人達もみんな好きだから。」と答えていました。
でも本当に大きな理由は、3歳の時。
本好きだった父が、何気なく姉と私を名古屋市立図書館に連れて行ってくれました。
私は、字がまだ読めなかったこともあるけど、父に甘えたくて、わざと『三びきのこぶた』の紙芝居を借りました。
家に帰ると、父が私に優しくゆっくり読んでくれて。
上のお兄ちゃんこぶた達の失敗を笑うことなく、コツコツ努力して作った家に三番目のこぶたは、オオカミから守るために二匹を迎え入れました。
私もそんな人間になれるのかな、なりたいな。
父が読んでくれたたった一度きりの紙芝居を、どんな時もずっと大切にしていた。
司書の勉強をする中で、それが子供の私にとってどれだけ大きなことだったかよく分かった時、泣けてきました。
“お父さんは、私の為に心を込めて読んでくれた”そんな何でもない出来事が宝物でした。
息子も、この話が大好きです。
「パパとママの家が壊れちゃったら、ボクのおうちに逃げてきてね。」
お父さん、あの時の想い、孫にもちゃんと伝わっているよ。
司書になっても母親になっても、ずっと心にある、あまりにも大きなかけがえのないきっかけ。