肩を並べて飲んだ夜

最近ふと思う。
もう一度父ときちんと二人で向き合って、話した方がいいのだろうかと。
でも、それがお互いにとって、とても辛いことのようにも感じ、なかなか行動に移せないと思っていて、一緒に飲んでしまえばいいのか~と気楽に考えたら、ちょっとだけ軽くなりました。

まだ実家にいた大学時代、我が家がどん底だった時、父が私にもほとんど口を利いてくれなかった時期が半年ぐらい続いた頃、なんとかしなければと思い、父の職場に電話をかけて、強行突破。
これなら、嫌でも話すでしょ!と思い、電話で強引に飲みに誘いました。

母には友達と飲んでくると嘘をつき、大学が終わった後、夜まで待って栄の三越ライオンの前で父と待ち合わせ。
私と顔を合わせるのが気まずかったのか、板前さんのいる横並びで座るカウンターのお店に連れて行ってくれました。常連だったようで、店長さんに「なんとなく似ているね~。」なんて笑われて。
父が一緒に笑っていたのが、ちょっとだけ切なかった。

まだその頃飲めていた私は、一緒にお酒を楽しんで、いい感じで回ってきたので本音を聞いてみました。「おじいちゃんがいるから、やっぱり居心地悪い?お母さんと噛み合わないから辛い?」そうすると、意外な返事。
「二人のことは関係ないよ。ただ、一人になりたいんだ。」そう言われたので、本心を話しました。これは、誰の為でもなく、自分の為に。
「私ね、お父さんと一緒にバージンロードを歩くのが、子供の頃からの夢だった。」と精一杯伝えると、涙を溜めてそっと微笑み、ビール瓶を見つめている父がいました。

近くにいた店長さんは、さりげなくその場を離れてくれていた。父と私が初めて本音で話し、初めて心を通わせた優しい時間と空間でした。

仕事が忙しかった父は、祖父や母のことで、いら立ちを私にぶつけ、何にも関係ない私にまであたって、嫌われて家を出ようとしていた。でも、そんなことは全部お見通しでした。嫌われてから出てしまったら、ずっと引きずるよ、お互いにね。
綺麗にさようならなんて、本当はもっと辛いのかもしれない。でも、せめて心を通わせてからお別れがしたかった。無理なら無理でいい、でもなかなか会えなくなっても通じ合えた瞬間が、きっと励みになる時がくる、一人じゃないって思わせてくれる時がくる、そう信じて話せて良かった。

翌日、母に「お父さんは、おじいちゃんのこともお母さんのことも、何も悪く思っていないよ。ただそっとしておいてあげて。」とオブラートに包み、安心したのか、母は泣いていました。
私の気持ちよりも、母の気持ち。こうやって、数えきれない程のメッセンジャーをやっていた。でも、あの日の夜は、父と私にとってとても大切な一日でした。あまりにも優しい一日。

名古屋の夜のテレビ塔を見る度に、あの日のことを思い出して、涙が溢れそうになります。
もう一度父と、あの場所、三越ライオンの前で待ち合わせをしようか。
肩を並べて一緒に飲もう。