相手を尊重する

先月の日曜日は、散々迷い、久しぶりに母と二人でデートをすることにしました。娘だから話せること、きっと沢山あるだろうなと思って、電車の旅へ。目的地は、私が気に入っているカフェの街、自分のホームグラウンドに母を呼ぶということは、それだけ信頼できている証。退院後も助けられたから、母が苦しい時の逃げ道になってくれたらいいなという願いを込めて誘いました。

「こんないい場所ならもっと早く教えてくれたら良かったのに。」負のオーラの母がそこにはいて、私も頭痛と戦っていたので、イラッとしてしまう始末。教えてくれてありがとうと言ってくれたら、お母さんの人柄がふわっと相手に届くよ、そんなことを思いながら店内へ。そこは、紅茶専門店で、サンドイッチとケーキの美味しい大好きなお店でした。とっても気に入ってくれたので、早めに突っ込んで聞いた方がいいと思い、何かあった?と話を振ってみると案の定、父と一悶着あったことが分かりました。母の心のホールを娘が広げているのに、狭めるってどうよと父に爆弾を落としに行きたい衝動に駆られたものの、省エネモードに切り替わっていたのであっさり止めることに。前日に体調を崩し、私との約束を楽しみにしていた母は頑張って治したものの、出かけ前に体の心配をされるどころか、夕飯の心配をされたそう。「自分のことだけなのかって情けなくなる時があってね。」分かるよ、お父さんのそういう所は本当に変わらないからガクッとくるよねと、慰めていると母がいつもの笑顔を見せてくれてほっとしました。

その後、せっかくなのでもう一か所電車移動で、お気に入りの上島珈琲を案内した帰り道、思いがけない話をしてくれて。「お父さんが一人暮らしをしていた時、バスで通勤していたでしょ。その車内で岐阜の社宅にいた時の○○さんとよくタイミングが同じで、話しかけられたんだって。」「ええ!元上司とバスで相乗りって朝から気を使うね。しかも、お父さんその方に一回書類を投げちゃっているよね。」「そうなのよ~。本当に苦手意識があったから、まさかの遭遇でちょっと笑っちゃったわ。」と一緒に笑ってしまいました。娘を泣かせたからそんなしっぺ返しが来るんじゃ!とちょっとすっきりもして。大きなことではなく、父にとって日常の中の小さなマイナスが余計に笑える。腹が立ったら、そらみたことかと言ってやろう。
その元上司が、父のことをよく書いて上に報告してくれたから、栄転することができるんだと、その奥様に言われたらしく、母もあまりいい気がしなかったと話してくれました。社宅生活、本当に大変だったんだな。名古屋に帰ったらまた仲良くしましょと言われたらしいのですが、年賀状だけに留まったそう。その母の判断は、きっと正解。

そして、名古屋の話になったので、小料理屋のママのことを伝えました。お店を出した当初に、母も誘って二人で行ったことがあったので、顔馴染みでもあった訳で。その当時、カウンター席に座った母にさりげなくママが言ってくれました。「私ね、男の子が二人だったから、こんな風に娘さんと二人で出かけられて羨ましいな。」ママの優しさが伝わり、胸がいっぱいに。あなたのご苦労も分かります、でもね、目の前にある幸せはあなたのもの、それをどうか忘れないで。そんなママから母へのメッセージなのだと思いました。いつも隣の芝生を青く感じてしまう母。私も昔はそうだったから分かりますよ、そんな想いを乗せてくれたことが分かり泣きたくなりました。
ママが、まだ若かりし頃、旦那さんの浮気で離婚を決意。現実は厳しく、両手で男の子二人の手を握り、車に飛び出しそうな衝動に駆られたんだとか。それでも、ぎりぎりのところで踏みとどまったのは、この子達の母親だったのだと、何をやっているのだろうと我に返ったからだと話してくれました。本当の苦悩を知り、そこから這い上がった人。だから、見えるものがあるし、感じるものもあるのだとママを見て思いました。彼女の美しさは強さであり、その中に人を思いやる気持ちが溢れかえっていて、だからその優しさに触れた方はまた会いに行きたくなるのだと。そんなことを思い出していると、母が伝えてくれました。「Sがこっちに来てから、私ね、○○さんのお店にたまにだけど通っていたの。一人でも入りやすくて、一品一品頼むより、お任せコースにしてもらったりしていてね。お互いにとっていいでしょ。ママもお客さんが来てくれて嬉しく思ってくれるし、私も一人で寂しくなかったから。」思いがけない話の展開に、驚くしかなくて。ああ!ママと電話で久しぶりに話した時、言っていたことが蘇ってきました。「Sちゃんの手術の時、お母さんが引っ越してくれたから近くで良かったわね!年賀状をもらっていたの。」母の筆マメを知っていたので、そこまでびっくりはしなかったのですが、仲良しだったのね!なんだか堪らないな、私の知らない所でお互いを大切にするパイプができていた。

「ねえお母さん、私、この治療がもし一年後に終わったら、体も軽くなるし、名古屋に新幹線で帰省したいの。小料理屋のママの所にも行きたいし会いたい人が沢山いるから、Rを春休みぐらいに見てもらえる?」「いいわよ。私もお父さんと帰省した時、お店に行こうかしら?お父さんね、同期の方と飲みに行っちゃうから、顔を出せるお店があって良かった!」さあ、私が行くのが先?母が先?「そういえば、常連さんのあの方、まだいらっしゃるのかな。」しっとり日本酒を飲む聞き上手な方ね。きっとお店を、ママを、支えてくれている。
心のお母さんに20本の花束じゃ足りないな。一人ぼっちだった母の友達になってくれてありがとう。母の拠り所でいてくれてありがとう。そんなママが、とびっきり笑ってくれるものを考えよう。常連さん達を巻き込もうか。みんなで、彼女の20周年をお祝いしたい。1滴のお酒に想いを込めた人だから。