第二章の始まり

段ボールの山をあっという間に片付け、事務的なことを一気にこなし、ようやく辿り着いたシェアオフィス。新居から少し遠くなってしまったものの、いつもとは違う道からのサイクリングに嬉しくなりました。そして、変わらない安らぎの空間に身を置くとほっとして。ただいま、挫けそうな時自分を支えてくれたこの空間、大きな山を越えてきたよ。そんな気持ちを抱きながらランチに行き、ふらっと戻ってエレベーターを待とうとすると後ろから声をかけてくれたのは、不動産関係のお仕事をされていたHさんでした。「○○さん!!」名前を呼ばれただけなのに、彼が本当に嬉しそうにしてくれているのを感じて、二人でご挨拶。「引っ越ししてから一週間だったので、連絡しようかとも思ったんですけど、邪魔になるかなとも思って、今日会えてめちゃくちゃ嬉しいです。」「気を使ってくれてありがとう!脱出成功しました~。」そう言うと、これまた一緒に笑ってくれました。二章が始まっても、変わらずそばにいてくれる人がいる。心がそっと満たされていく。

引っ越し前、姉に会った時、伝えてくれました。「弁護士費用は私が出すよ。お母さんと距離を取ったことでまたSちんに迷惑かけちゃったから。」「それはお互い様だよ。費用は本当に大丈夫。」「Mちゃん(義兄)も、俺が出すって言っているの。お母さんからもLINEがあって、弁護士費用をかき集めていたら、深夜の2時になってしまったって。S、こっちは家族総出だ!お父さんも金融業界にいたから弁護士さんとの繋がりがあるかもしれない、一度聞いてみて。それでもダメなら私の知り合いを当たってみるから。」ずっと長い間、一人で戦ってきたんでしょ。それが分かるから、もう何も心配しなくていい。そんな姉の気持ちが届き、言葉よりも先に涙が溢れそうになりました。その後、父に電話をしたものの、金融から離れているから付き合いはないとのこと。それでも、最後の力を振り絞ろうとしている娘を思い、聞いてくれました。「S、大丈夫か?」役に立てなくてごめんな、でもいざとなったらスタンバイしているから。そんな父の気持ちを感じ、いつもの自分が顔を出しました。「前に相談した弁護士さんが猛烈に忙しくてなかなか連絡がつかないの。でも、何とかするから。ありがとう!」お父さん、あなたの存在が、そこにいてくれることが大きいんだよ。そう思いながら、優しく切った電話。その内容を姉に送ると、すぐに行動を起こし電話をかけてきてくれました。「私が不妊カウンセラーをやっていた時、離婚カウンセラーの方と仲良くなって、その人にSちんの状況を伝えたの。そうしたら、離婚に特化した女性の弁護士さんがいるって。ご自身が大学生の時にご両親の離婚で大変な思いをされている方だから、妹さんの話を親身になって聞いてくれるんじゃないかって。さっぱりしたデキる人みたい。相性もあるから、何か違うと思ったら気にせず断っていいから。」そう言われ、姉の気持ちを有難く受け止め、紹介された先生に連絡を入れてみました。すると、留守電になっていたので、折り返しの連絡が。順を追って説明すると、深く理解し伝えてくれました。「○○さんが穏便に別れようとしているので、足元を見られてしまったのかもしれませんね。」と。その言葉を聞き、女性としてのプライドに火が点きました。最後の最後まで舐められるのはやだなって。法的に正しい額を子どもの為に受け取りたいだけ、その気持ちを十分感じた先生に救われた気がして、依頼することにしました。すると、最後に心を届けてくれて。「○○さん、一緒に頑張りましょう。」と。あなたが頑張ってくださいでもなく、私が頑張りますでもなく、一緒に頑張りましょうという言葉を聞き、泣きそうになりました。「ありがとうございます。先生、本当に心強いです。」半泣きしながら伝えると、「そんな風に言ってもらえて嬉しいです。」とトーンの変わった声で喜んでくれました。手と手が繋がった瞬間、それは心と心が繋がった瞬間でもありました。

その後、離婚協議に入ったので、この話は置いておいて、学区外申請を出すために教育委員会へ行ってきました。すると、女性の職員の方が大きな地図を持って確認をする中で、思いがけない展開が。「今までも学区外のようだったのですが、学区のきわだったので、一筆書いてもらうだけで良かったんです。ただ、今回は学区境から2ブロック先なので面談が必要になってきます。」そう言われ、完全に読みが甘かったと反省しました。それでも諦めない。後日、上の方と改めて面談をさせて頂く中で、正直に伝えることに。「今回、夫の言動で私だけでなく息子も傷ついてきたということもあり、離婚に至りそうです。そんな中で住環境が変わるだけでなく、学校も変わるとなると子供にかかる心理的負担が心配になりました。息子はHSC(人一倍敏感な子ども)の特性を持っているので、できるだけ同じ学校に行かせてあげたいと思っています。前回、送り迎えが原則だとも言われたので、それは私がやります。」そう話すと、優しい眼差しで深く理解してくれました。「よく分かりました。学区外は、1ブロック位であればということなのですが、今回はお子さんの特性もありますし、送迎もして頂けるということで認めようと思います。他にも何かありましたら、学校に相談してくださいね。」子供ファーストでいてくれた教育委員会の判断に拝みたくなりました。この経験をどこにバトンしようか。

それから、朝は慌ただしく準備をし、自転車を引っ張りながら学校の校門までお見送り。ハイタッチをしてお別れし、山のような雑用をこなし、またお迎えに行きました。すると、同じ方向のクラスの子達が集まってきてくれて6人でワイワイ帰ることに。「引っ越したの?」そんな質問に俯きがちな息子。「そうなの、引っ越したの~。」そう明るく言うと、一人の男の子が言ってくれました。「だったらR、明日一緒に帰ろっ!」変な噂にならなければいい、そんな不安を吹き飛ばしてくれた男の子の優しさに、こちらの方が励まされたようでした。ありがとう。そんな嬉しい気持ちを抱え、帰宅すると、連携を取っていた担任の先生が連絡帳に書いてくれていました。『温かいお言葉ありがとうございます。Rさんの優しさや笑顔や、素直さに私も教わることが多いです。きっとおうちでもRさんの存在が力になっているのだろうなと思います。色々と大変なことも多いと思いますが、これからも、学校としては変わらずRさんの成長を支えていきたいと思います。』人はこんなにも柔らかく温かいんだな、そんなことを担任の先生が改めて教えてくれたようで、連絡帳を見ながら溢れそうでした。息子との冒険は、沢山の人達に囲まれていて。彼の心は守られている、そう思えた優しい日々がこれからも続いていく。