悔しさから伝わるもの

日本シリーズ第2戦、夕飯前に二人ともお風呂を済ませ、6時の試合開始と共にファンタオレンジで乾杯。ゆっくりとご飯を食べ、気持ちは神宮球場の中へ入っていきました。その日の昼に、ヤクルトのファンクラブキッズ会員に入会。届けられる会員のユニフォームにオプションで払えば、選手の背番号と名前が入れられるよと息子に伝えると真剣に悩んでしまいました。「うーん、本気で迷うよ。」「ちなみにつば九郎でも大丈夫だよ!」「え~、余計に悩む・・・。」「お母さんなら、青木選手だな。」と聞かれてもいないのに自分の推し選手を伝えてみる。だはっと笑われ、流されたので違う角度から話してみることに。「じゃあさ、球場に行って誰がいなかったら一番寂しい?」「村上~。」と返事が早かったので、なんだか面白くなってしまい、余計に困ってしまうであろうと思われる内容を伝えてみました。「村上選手は今後も大活躍するから、将来的には大谷選手みたいにメジャーに行くかも。でも、つば九郎は移籍しないからずっとヤクルトだよね。」ダーッと言いながら9歳児の頭は大混乱。つば九郎が移籍したらそれはそれでちょっと面白いな。一日だけ中日のドアラとトレードとか、エイプリールフールの日にでもやってくれたら笑えるかもなんて、勝手に一人で大盛り上がり。そして、「ボク決めた!」と威勢よく伝えてくれました。「つば九郎にする!!」「『2896』の背番号ね!子供らしくて可愛いと思うよ~。」と密かにほくそ笑む43歳。小学男子がつば九郎のユニフォーム着ているのいいよね~と嬉しくなってしまいました。村上選手のユニは2着目のお楽しみにしよう。

そんな記念すべき入会の第2戦の先発はサイスニード投手。今年、息子と初めて観戦に行った時のピッチャーで、内野席から見る投球にプロ野球のすごさを改めて感じました。その後、1塁へ走るDeNAの選手にぶつかりそうになった時、さりげなく謝るサイスニード投手の振る舞いに、私と息子はフォールインラブ。その姿が、日本人のようで、外国人選手が日本の野球に敬意を払ってくれているような、その一瞬に彼の人柄を感じ、息子と大好きになりました。そんなサイスニード投手が先発の日本シリーズを見逃したくないと二人で応援していると、2点を取られ、4回裏のヤクルトの攻撃へ。すると、代打の川端選手が準備を始め、サイスニード投手が交代になることが分かりました。その時、ベンチにいるサイスニード投手が映し出され、そこにはヘルメットを被ってスタンバイしている彼の姿が。実況の方の説明で、まだ投げさせてほしいという高津監督へのアピールなのではないかということが分かり、サイスニード投手の気持ちが画面を通して流れ込んできました。日本シリーズにかける思い、チームに対する思い、そして自分の力を信じる強い気持ち。解説の松坂大輔さんも伝えてくれました。「僕も同じような状況なら、同じことをしていたかもしれませんね。」と。その言葉を聞き、ヘルメットを被って待っている彼の姿を覚えておこうと思いました。いい時ばかりじゃない、思い通りにいかない時の方がきっと多い、そんな中でぶれないでいること、自分や仲間を信じること、その時に見えたものを大切に持って進みたいなと。サイスニード投手のヘルメット姿、これから先、私の大きな力になりそうです。

まだ20代の頃、姉が神奈川県大会甲子園予選決勝の高校野球を電話で誘ってくれました。その日は平日、大学図書館の仕事があったので断ると、残念そうに電話を切る彼女の様子が伝わってきて。最近になり、あの試合は結局行けたのか聞いてみると教えてくれました。「一人でも行こうと思って、横浜スタジアムまで行ったら、満席で当日券買えなかったんだよ~。」電話で確か、中日のメガホンを持って行くとか言っていたような。仕事をしながら、姉が青いメガホンで「かっ飛ばせ~!」とか言っていたら笑えるなと想像していただけに、とぼとぼと帰宅した姿を思うと、やっぱり付き合えば良かったと思いました。その時ネネちゃんは、不妊治療の真っ最中。短期の仕事をこなし、高額の医療費をそこにあて、なかなかうまくいかない状況を野球で紛らわそうとしていたのだと、改めて思い出して。有給を取って、横浜スタジアムで待ち合わせをして、満席だと分かって二人で悔しがりながら近くのカフェでガールズトークしたら、彼女の気持ちは晴れてくれただろうなと。「なんで私達はあの両親の子供として生まれたんだろうね。きっとそこには意味があるんだろうな。考えなくてもいいこと、沢山考えたよね小さい時から。もう何なの?って思うこといっぱいあって、でも自分のことは自分でなんとかしようって思える力もついて、あの両親だったから身に着いたものもきっとあったと思う。打たれ強くなったというかなんというか。自己肯定感、多分私はめっちゃ低いけど、妹がいてくれるって思うと、いろんな気持ちを分かってくれるSちんがいると思うと、頑張れた。ありがとうね。」何度も伝えてくれたこの言葉、こちらの方こそありがとう。姉も私も、大して悪いことをした訳ではないのに、何かの罰で狭くて暗い押し入れの中に入れられた幼少の頃。訳の分からないことのオンパレード。姉が盾になってくれた分、守られていたことも沢山あって、その分彼女は傷を負った。そんなネネちゃんは、自分の傷を放置しながら、時に向き合いながら、妹の心配をしてくれて。最近になり、息子が押し入れを気に入り、自分の好きなぬいぐるみやポケモン図鑑やお菓子、懐中電灯を持って暗くて狭い中に入るので、怒りよりも笑いがこみ上げ、注意しながら一緒に笑ってしまいました。姉の傷は深い、“今”が大事だと分かっていても、過去に引きずられてしまう時もあるだろう。そんな時、先取点を取られてピッチャーを交代させられてしまいそうな場面で、私もヘルメットを被ってベンチで待機しようと思いました。目の前のことをあっさり受け入れるのではなく、諦めない姿勢を彼女の前で見せたいなと。前を向く力がネネちゃんに届くと信じて。

横浜家庭裁判所へ向かう途中にある横浜スタジアム。その横を通る度に聞こえてくる想像の中の大歓声。ナゴヤ球場へ行く度に切っていた広告の紙吹雪。小学生の私がいつも近くにいる気がして。さくらの花びらと共に、紙吹雪が気持ちの中で舞っているのかもしれない。悔しさを越えた後の景色を、どんな時も忘れないでいよう。