大切な準備期間

検査結果を開き直って受け止めた翌日から、少しずつ入院の準備を始めました。それでも、目の前には家事や育児、この期に及んでパソコンに向かっている自分がいて、さあ優先順位をどうしようかと考えながら、タイピングをしています。姉の海外旅行は、いつも当日の準備。だって、朝まで使うものがあるでしょというのが彼女の言い分。そして、母は一週間も前からワクワク準備を始めてしまうので、下着が全然ない!と騒ぎ出すタイプ。ここはね、間を取って使わないものを中心にパッキングを始めないと。こんな時、性格が出るから面白い。

「この痛み、今までよく我慢していたね。」と産婦人科のセンター長に言われ、なんだか泣きそうになったことを思い出しました。いつもとはちょっと違う痛みに不安感を覚えながらも日常をこなしてしまっていたので、その原因を専門医が分かった上で伝えてくれた言葉に、ようやくほっとできた気がしました。ホルモンバランスもガタガタなことは自覚していて、こんな時に自分を支えてくれるのは、音楽と、自分らしくいられることなのかなと、だからこうして書いているのかな。あまり無理をすると、ドクターストップではなく、プログラマーストップがかかるので、程々にしておきます。そんなビジネスパートナーのMさんが、結果が出る前に伝えてくれていました。「家族のように思っているから。本当に何でも言ってきて。僕にできることは全部やらせてもらう。」お兄ちゃん、どうもありがとう。「Sちゃんってさ、妹感があるんだよ。人懐こいから周りに人がいるんだよね。そして、いい感じで人を巻き込むんだよ。巻き込まれた方も嬉しいから不思議だよ。」
そういったことを何度言われたことか。そんな絶対的な信頼を寄せている彼が改まって伝えてくれました。「このサイトを守ることは、Sちゃんの心を守ることだと思っている。だから、安心して医療関係者の方に委ねてきてね。」心の奥底がじわっと熱くなる、そんな喜びを何度実感させてくれただろうか。

そして、祖父母の介護に専念してきた母に、入院中のことについて聞きたかったので具体的に尋ねた中で、思いがけない話を聞き出すことができました。祖父が入退院を繰り返していた頃、自宅にいた時に容体が悪化したので慌てて夜の病院に連れて行ったそう。そこで、病床が全く空いていないので今夜は連れて帰ってきてまた明日来てくださいと言われ、不安を抱えた母は個室について聞いたようです。「費用が高くてもいいから個室も聞いたんだけど、そこもいっぱいで。どこでもいいんです。何とかなりませんかと懇願したら、特別室だけ空いていますと最後に言われ、費用を聞いてびっくりしたんだけど、それでもおじいちゃんに何かあったらいけないと思い、一泊だし思い切ってお願いしたの。そうしたら、最上階で夜景も綺麗で、シャワーもキッチンもあって、来客スペースもあって、本当にホテルみたいだったから、シャワーをずっと浴びていたわ。なんかね、映画の『プリティ・ウーマン』を思い出しちゃって。1フロアに1部屋だけだったの!」なんだか、可愛らしい人だなと一緒に笑ってしまいました。介護を頑張っている母に神様からのプレゼントだったような気がして、たった一泊でも心や体を休めることができたなら良かったなと嬉しくなって。表から見える苦悩と、裏側に隠れている苦悩。本人じゃないから裏側は分かりにくいのだけど、それでも、苦しんでいるサインを逃さないことが周りにできることなのかなと、分からないなら、大丈夫?と直球で聞いてみる、そうすることで話せる弱さもあるのかなとそんなことを思いました。

「おばあちゃんが亡くなった病院は、あなたが生まれた場所だったの。なんかお母さん本当に複雑でね。」この話を何度してくれたことか。生と死。混乱すると、訳の分からない状態になる母の根源にあるものは、とっても繊細な温かい部分で、母なりに色んなことを抱えてここまで来たのだろうと思いました。「あなたはとにかく育てやすかったの。あまり泣かないし、大人しくてね。」いいんだか、悪いんだか。赤ちゃんの時にもっと弾けておけば良かったかな。その話を、お菓子を食べながら聞いていた息子がぼそり。「ボクは?」「生まれてから、抱っこしないと寝てくれないし、明かりが消えると泣いてしまうし、お母さんも一緒に泣きたかった。」そう話すとゲラゲラ笑われてしまいました。「ママ、大変だったね!」他人事か!!

個室に費用なしで入れてくれた産科。婦人科は、差額ベッド代を払うことで入れてくれる。どうしても、息子との思い出に浸りに行きたくなったら、一泊だけプリティ・ウーマンごっこをしに行こうか。出産後、分娩台から降り車いすで運ばれ、難産だったので看護士さん達がかなり心配して伝えてくれました。「何かあったらすぐにナースコールを呼んでくださいね。」はい大丈夫ですと素直に答え、個室のトイレに入ると、あまりの辛さで立てなくなってしまい、ナースコール。だから言ったじゃないですか~という顔を笑いながらされ、至近距離なのに車いすに乗せられ、ベッドに寝かせてもらいました。あまりの痛みに一睡もできず、朝になると、助産師さんが小さなベッドごと息子を連れてきてくれました。ああ、ママになったんだ。その時の感動を忘れたことはありません。

センター長から手術の話を聞いていた時、たまたま後ろを、出産に立ち会って私達親子を助けてくれた産科の先生が通り過ぎました。優しい雰囲気が全然変わっていなくて、もうそれだけで沢山の勇気をもらったようで、今度は自分一人の戦いになるけど、先生頑張りますと心の中で呟き、人とのご縁は不思議なものだなと改めて思いました。ほんの一瞬だったんだよ。それが、なんでこんなに尊いのだろうと。巡り合わせ、そんな奇跡に感謝して、乗り切れそうな気がしています。
書き終わったら、大人しく入院準備するよ。息子から一匹だけぬいぐるみを借りていく。そうしたら、彼の心もそばにいる。