今だから言えること

今日は、母に誘われ、シェアオフィスからすぐそばにあるカフェでランチをしてきました。「あら、あなたストッキングを履いて偉いわね。」と思いっきり女性目線で褒めてくれて、笑ってしまいました。何気に人の持ち物や服を見ている母も、ネックレスをしていい表情。わだかまりが薄い皮一枚ぐらいになった?!

そして、最近の父の様子を教えてくれました。片道1時間半かかる電車通勤も、往復座っていけるらしく、デスクワークなのでお腹もあまり空かなくて、夕飯も思ったより食べないのと残念そう。久しぶりの遠距離通勤で私も心配していたのですが、文庫片手に電車に乗っていると教えてくれて、年をとっても仕事となるとどこかで背筋が伸びる父を思い出しました。私が以前渡した『永遠の0』(百田尚樹著、講談社文庫)の本を通勤のお供にしてくれる日は来るだろうか。そんなことをぼんやり思っていると、母が思いがけないことを話してくれました。「あなたに昔言われたことがどうしても忘れられないでいたの。お父さんが若い彼女と付き合っていた時、お母さんと別れてまで再婚はしないだろうって断言してくれてね。お母さんとしては、もし子供でもできてお父さんから別れを切り出したら、その時は素直に判子でも押そうと思っていたの。でもSは、お父さんは面倒くさがりだから、女性から結婚を迫られたら別れたくなるタイプだって。この子、客観的に人のことをものすごく見ているなって驚いたの。」そうであってほしいと思う願望ではなく、率直に父の考えていることは手に取るように分かっていたので、母を慰める為に言った訳でも何でもなく、そのまま思ったことを伝えた内容を、どうやら大切にしてくれていたよう。「なんで分かったの?」と改めて聞かれたので、さらに率直に伝えました。「お父さん、何気に寂しがり屋ではあるんだよ。それで誰かにはいてほしいと思うんだけど、ぐいぐいこられると引いちゃうんだよ。だから、つかず離れずいてくれる人じゃないと滅入るよ。その証拠に、作った彼女、一人や二人じゃなかったから。」それを聞いた母が大爆笑。「あなたとこんな風にランチしながら、お父さんの悪口を言えると思わなかったわ。でも、見事に当たっていたわね。どうしてそこまでわかるか不思議なぐらい。」と。

母が、祖父の介護で疲弊しきっていた頃、どこかに希望を持ってもらいたくて踏み込んだ提案をしたことがありました。「お母さん、金銭的にどこまで余裕があるかは分からないんだけど、うちの近くでいい中古のマンションがあったら購入する気ない?買って住まなくても賃貸に出せばいいんだよ。とっても信頼できる不動産屋さんの方がいて、もしよかったら相談してみようと思って。」それが、母の小さな光になってくれたらという願いを込めて伝えました。大きな賭け。それでも、チャンスは自分で狙いに行かないと。受け身の人生を終わらせようよ、そうしたらきっといい風が吹くよ、色々なことを思いながら母に提案しました。すると、いい物件があったら相談してと少し迷いながらも言われ、その後すぐに話が進んでいきました。そんなもの。上手くいかない時はどん詰まりになるのに、決まる時はトントン進んでいく。その物件は、2SLDKでした。母が一括キャッシュで買い、賃貸に出し、間もなくして祖父が他界。そして、借りてくれたご夫婦が転勤で離れることに。母は、何かにいつも守られている人なのだと思いました。そして引っ越し、こちらの生活を始め、数年経ち父を迎えに行った時、ふふっと笑えてきて。2LDKでもなく3LDKでもないこの間取りを選んだのは、母に選択肢を用意する為でした。一人で住んでも、二人で住んでも、どちらにも転がれるように。でも、後者になることをイメージして策略した娘の勝ち。

「お母さんが2SLDKの物件を買った時から、お父さんと一緒になることはどこかで決まっていたのかもしれないね。」といたずらっぽく話したランチタイム。「最近、娘よりも孫よりも私を大切にしてくれるの。こんな日が来るとは思わなかったよ。おじいちゃんも、Sの話はどんな時でも聞いてくれた。私だと喧嘩になるのに、あなただとちゃんと聞いてくれた。今の生活があるのは、Sのおかげ。ありがとうね。」それは違うよ、お母さん。夫を陰で支え、両親の介護をし、長い期間戦っていた中で得られたもの。物件を見に行った時、不動産屋さんがこっそり話してくれました。何組か見学に来られたお客さんがいたんです。でも売り主さんが是非お母さんにと。とても感じのいい方だったからもしよかったらお母さんに買ってもらいたいとおっしゃっていましたと。それを聞いて、母が自分で掴んだものなのだと思いました。それなら、大切にしなくては。引いたくじは、引くようにできていたなら、人の心が乗っていたならなおさらのこと。

その奥さん、ライターのお仕事をされていた、とても素敵な方でした。その時、いいものが自分の中にも流れ込んだような気がして。それが、もしかしたら今こうして手に運ばれているのかも。書斎だった旦那さんの部屋を、今度は父の部屋にしよう。娘の意地は、今でも内緒。賭けではなく、流れに乗っただけ。