想いを馳せる

今年度、最初の旗振り当番がやってきました。いつものように慌ただしく息子と準備し、少し早めに学校へ。途中でお別れをして、自転車で急ぎました。そして、腕章を付け旗振り当番開始。すると、一番最初に信号へやってきたのは、仲良しのKちゃんのお子さん達でほっこりしました。姉妹と三番目の弟君はもう一年生かと時の早さを感じて。すると、三人がこちらに気づき手を振りながら笑顔でご挨拶。いい一日の始まりをありがとう。その後、息子がやってきて、旗を持った私とハイタッチ。あたたかい世界へ今日も行っておいで、そんな気持ちでお別れ。その後、パトカーが目の前を通過し、助手席にいた警察官の方がこちらに向かって会釈をしてくれました。その時、小さい時の息子を思い出して。「あ!おまわりさんだ!」とパトカーを見つけた息子がわーわー言っていると、助手席にいた警察官の方が少し照れながら手を振ってくれました。サイレンが鳴っていなかったから、ご迷惑じゃなかったかなと思いつつ、こちらも嬉しくて。そんな息子がもうこんなに大きくなりました。パトカーの後ろを見ながら、心の中で呟いた時間。そして、相方来ないなと思いながら子供達を誘導していると、背後から挨拶をしてくれたのは、女性の校長先生でした。気持ちよく言葉を交わし、先生が信号を渡り切った後、近くを通りかかったのは3年生ぐらいのヒスパニック系と思われる女の子とそのお母さんでした。転校してきたのか、ランドセルを背負いやや不安そうな子を見送るお母さん。すると、その子が、「Mom!Hug!」と言って駆け寄り、ママとハグをするその光景に校長先生と一緒に微笑むなんともいい時間が流れました。まるで映画のワンシーンのようだなと。その時、ホストママと別れるまさにその瞬間が一気に蘇りました。ココナッツの匂い、それは大好きな彼女の香りでした。

短期留学をしたオーストラリア、直前でホストファミリーが変わるという珍事態もあまり気にすることなく、ブリスベン空港へ着きました。その後、ホストパパがとってもウェルカムで迎えてくれて、期間限定の家族の一員に。とても陽気なパパ、いつも穏やかに話すママ、優しい長男、大人っぽい大学生の長女、気遣いのある高校生の次女、そんな中にいられて幸せでした。別れの日、ママと長い時間二人でいることができ、ゴールドコースト行きの高速バス乗り場まで送ってくれることに。最後のデートでした。フィリピンからの移民だと伝えてくれたママ、厳しい環境の中で現実を受け入れ、歩んできた人の強さとしなやかさを感じていました。Sに見せたい場所があるのと向かった先は、同じような移民の方達が集うショッピングモールでした。二人で歩いていると、何人ものママの仲間が声をかけてくれました。そして、彼女が伝えてくれて。「私達はこうやって助け合い、ここまで来た。」のだと。余裕のない者同士が支え合った、だから越えられた、その力がその場所に集まっているようで、彼女達の歴史と強さを感じました。その後、国立大学のキャンパスへ。両手を広げて広大な敷地内にいる私を、ママが写真でカシャリ。みんなで夕飯を食べていた時、彼らがあまりにも優しく、それが堪えられない涙となり溢れ出した夜がありました。みんなが心配して私に寄り添い、大騒動。そんな気持ちで余計に泣けてきて、なかなか言葉になりませんでした。その時、ママは何かを感じ取り、今日という日を迎えてくれたのかもしれないなと。最後は、駅に着き、日本食が恋しいでしょと笑いながら親子丼をご馳走してくれました。すると、なんで“親子丼”という名前なのかと質問が待っていて。鶏とその卵だから親子なの、ちなみに牛肉と鶏の卵のどんぶりは“他人丼”と言うんだと話すと、日本人って面白いわねと笑ってくれました。今なら分かる、牛と卵は他人だったけど同じどんぶりに入っていた、それはママと私だったんだね。出自が全く違う、でも同じ器で融合できたんだ。S、いつでも連絡してきてね。そう言ってメールアドレスも電話番号も渡してくれました。その時食べた親子丼のしょっぱさと、ママの気持ちは忘れないだろう。そして、別れの時。沢山の感謝を伝えたいのだけど、涙が溢れてしまい、あまり言葉にならなくてママとハグ。その時、ココナッツの匂いがしました。それは、リビングにいつも置かれていた南国のフルーツの匂いでもあり、彼女の甘い優しさの匂いでした。S、いつでもいらっしゃい。目に浮かべた涙と共にママが伝えてくれた言葉は、私のお守りです。実際には行けなくても、時空を超えてその愛に触れられるから。

ハグをして信号を渡った女の子に挨拶し、目の前の現実に戻ってきました。すると、車でパトロールをされていた男性二人が助手席の窓を開けて、こちらに笑顔でご挨拶。先程のパトカーも再度巡回する中で会釈をして頂き、息子の友達みんなもフレンドリーに言葉を交わしてくれました。門をくぐろうとする先生達は、そこでギアを入れようとそんな姿を感じ胸が熱くもなって。時はこんな風に流れていくんだな、旗振り当番ももう片手で数えられる程。幼稚園バスを見かけた時は懐かしくなり、離婚調停の朝は旗を持ちながら裁判所へ向かう自分に力を込めました。いろんな人がいろんな場面が、絵になるように、私もこの場所でみんなの風景になっているのかな、ふとそんなことも思って。南半球にいるホストママは、秋を楽しんでいるだろうか。「Good girl!」いいこを演じているだけの母の前の私ではなく、彼女が何度も伝えてくれたその言葉を大切にしようと思いました。そして、どれだけ時間が経っても、あなたの深い思いやりを忘れない。他人丼、沢山の方達とここで実現できるだろうか。