裁判所からの電車の中で、姉にものすごくざっくりとした内容を送ると返信が入っていました。『成立したんだね。本当にお疲れ様でした。長い道のりだったね!今日の冷たい雨は今までのSちんの泥を流してくれる為だったんだね。よく頑張った~』雨をそんな風に表現してくれたネネちゃん、いつも明るい方へ導いてくれるのは彼女の存在も大きいのだと改めて思いました。ホルモン治療の影響で、ざーっとした雨音を聞く度、どんどん気持ちが沈んでいったのは過去の話。雨が好きになれそうな気がしました。自宅の最寄り駅に着くと、すっかり止んでいたのは辛かった日々を流し終えてくれたからだったのね。
そして、少し時間が経ち、4年半ぶりの再会で自分の苦しさを姉に打ち明けた時の会話が蘇ってきました。「きっと土が合わなかったんだろうね。」彼とのことをこのような言葉で伝えてくれた所に、なんとも言えない優しさを感じました。犠牲バントじゃだめなんだよ、三冠王を狙え!と別の日に言ってくれたネネちゃんの力強い言葉も思い出して。それでは、セーフティバントなら姉は納得してくれるだろうか。仲間を進塁させ、自分も塁に出て盗塁する。そうすると、ダブルスチールを決めないといけないか?!阿吽の呼吸で、同じタイミングで、息子となら走れる気がしました。もしフルスイングしたら、ホームランになるかもしれない。でも、全くイメージが湧かないんだな。長打よりも機動力を使って前に進む、これがやっぱり自分のスタイルなのだと思いました。ホームに帰ってこられるのは息子だけだったとしても、一緒に喜びを分かち合いたい。息子の幸せをどんな時も願い、自分も思いっきり走りながら、“その時”を楽しもうと思います。ヘッドスライディングでホームに帰ってこられた時、彼とダブルハイタッチができたら素敵。そんな試合を沢山の人達が見守ってくれているんだ。
たまたまテレビを見ていた時、サッカー日本代表の森保監督と野球日本代表の栗山監督が対談をされていて、くぎ付けになりました。これからWBCを戦う栗山監督が森保監督に質問を投げかけると、「この仕事はハッピージョブ。」だと返事があり、その言葉を聞いて栗山監督の目がぱっと輝いたのが分かりました。沢山のプレッシャーがある中で、このひと言は本当に嬉しかっただろうなと。そんな栗山監督が率いる侍JAPANを、息子と共に応援できる日が楽しみです。
スタバに行き、カフェラテを飲みながらパソコンを開くと、受験生の学生さん達でごった返していました。ふと顔を上げると、その中に大学生の自分がいるようで不思議な気分に。大学4年、色々なことがようやく落ち着き、ひとりになりたくて様々な場所に行きました。その時マブダチK君は車の旅をしている最中で、伊豆まで送ってもらうことに。その車内で、沢山のことを話しました。大学を中退した彼が見たもの感じたもの、そして私が大学4年間で得られたもの。それはもちろん天秤にかけられるものではなくて、どちらもの経験が自分達の中に蓄積されていました。そして、お互いが相手の世界を知り、その中で自分も同じ景色を見せてもらえているような優しい気持ちになり、どれだけ年を重ねても今の想いを忘れないでいたいと思いました。そのさらに前、K君から一本の電話が。「俺の女友達の一人が、もうすぐ病気で死ぬんだ。俺、どんな言葉をかけたらいいか分からなくてさ。もし、Sが彼女の立場なら何を思う?」「本当にその時になってみないと分からないけど、もし自分がそうなったら、死を受け入れると思う。残りの時間、何ができるだろうってきっと考える。周りの人達にはいつも通りにしていてほしい。そのいつもの時間がもう宝物だから。」「・・・S、やっぱり強いな。俺、お前にはぜってい敵わない。俺だったらきっとパニクってる。なんかSって出会った頃から、スケールが違うんだよ。コイツ、いつもどんな思いをして生きているんだろうとか、色々考えさせられる。ちっせいな俺っていつも思うんだよ。」「K君は大きな人だよ。私にはないものを持ってる。」「あ~もう、だからSと話すと寝れなくなるんだよ!」と深夜の電話でわいわい。どうして、人って生まれて死んでいくのだろう、物心ついた時から、本当にもしかしたら母のお腹にいた時から考えていて、K君とも沢山語り合い、そして今も考え続けていて。その答えにもう辿り着いているのかもしれないし、これから見つけるのかも。ただひとつ言えるのは、心から尊敬する漢方内科の主治医がヒントを持っている気がしていて。未病だと言われる不定愁訴に悩む患者さんを少しでも救うために、休むことなく自分を削っている医師。でも先生は、半分趣味みたいなものだからと笑う。どれだけ嫌な思いをしても貫こうとするその姿勢が、先生の生き様そのものなのだと。どれだけのものを私も吸収できるだろうか。
K君に送ってもらった伊豆、そこからペンションに一泊し、翌日ひとりで熱海の海岸沿いを歩いた大学卒業前。通りがかった女性の方に、一枚写真を撮ってもらった。海をバックにスマイル。その時の写真はもうないけど、その時の自分はしっかり覚えていて。この4年間をありがとう。自分の長い人生において、大きな土台になるだろう、そう思った。息子が大学の卒業証書を手にしてくれた時、何を思うだろう。言葉にならない程の想いが溢れ出すその時まで、走り続けることにしよう。