時間をもらうということ

このサイトが総ページビュー150万PVに達した次の日、技術営業のFさんが長文メールを送ってくださいました。元々、技術的なことも含め、プログラマーのMさんが相談してくれていたということもあるのですが、節目にふと連絡を頂けるそのタイミングにはいつも驚かされます。“僕は、遠い所からでも感じていますよ”そんな風に行動でも伝えてもらえているようで。何かを返せるとしたら、この場で想いを伝え続けることなのだと思っています。

シェアオフィスで、パソコンをカタカタやっていたら、Mさんからのメッセージに気づき、まずは心を落ち着かせようと思い、深呼吸。Fさんからどんな球が返ってくるのか、なんとなく分かるので毎回読む前に泣きそうになります。そして、読み始めたらやっぱり泣けてきました。以前、オフィス内で記事を書いていたらポロっとこぼれそうになり、慌てて天井を見上げた時、少し離れたところにいたスタッフさんが気づき、優しく微笑んでくれたことがありました。多分それ以来の溢れた感です。ハンドタオル片手に、あの人何やっているの状態。だってね、そこに書かれていたのは、読者の皆さんの気持ちを代弁してくださっているかのような内容だったから。
『さくらいろさんの文章にはこのサイトでしか感じることのできない温度であったり、色であったり、肌触りがあると思っています。これまでのご経験なんでしょうね。あくまで私の感覚ですが、読むという行為なんですが、会話しているように感じることもあります。それはどこかで自分が同じように感じるところがあるからなんだと思います。感情移入とはまた違う何か不思議な気持ちですね。こういった部分を他の文章で知らないので唯一無二と感じているのかもしれません。』

書く時、いつも思うんです。自分のこれまでの経験が無駄にならないように、全てのことが記事に生かされ、それがほんの少しでも誰かの心を和ませられたら、ここまで頑張ってきて良かったなと。唇をぐっと噛まなければいけないこと、溢れる涙を堪えなければならないこと、どうして自分ばかりがこんな目に遭うのだろうと下を向いてしまいそうな時、この場所を訪れて、顔を上げてくれたら。それは無理にじゃなくて、自然とそうなるまで、気の済むまでいてもらえたらと、そんな姿を感じて私もまた頑張るから。そういったことが、インターネットの社会で小さくても起こせたらと願っていたことが、少しずつ実感として起きていることに私自身胸がいっぱいです。

ラグビー日本代表主将、リーチ・マイケル選手がテレビの前でこんな話をしてくれました。「子供の頃、ラグビー選手にサインをもらおうとしたらもらえなかったことが今でも残念に思っている。だから選手になった今、できるだけサインに応えたいんだ。」練習で疲れ切った中で、滴る汗を拭いながら立ってサインをしている彼の姿を見て感動し、やっぱり私も同じ気持ちですって思いました。
高校生の時、自宅にいたくなくて、教材を自転車のかごに入れ、隣町の図書館へ行き、心を落ち着かせようとしました。すると、その日はまさかの蔵書点検の日。月曜日休みなのは知っていたのですが、臨時で閉館することなど全く知らなくて途方に暮れました。あの当時は、情報をインターネットで得ることもできず、現地に行かなければ分からなかった時代。ベンチに座り、お金もないし、誰にも会いたくないし、どうしようとやり場のない気持ちに戸惑いました。私にとって、図書館がホームであり、自宅はそうじゃなかったから。

Mさんにサイト運営の話をされた時、記事の公開間隔についても聞いてもらいました。「できるだけ同じタイミングで公開したい。顔が見える世界じゃない。でもだからこそ、ここにいるのだと伝えたいんだ。」24時間オープン。それでも、せっかく来てもらったのに、そこに私がいなければがっかりさせてしまうかも。あの頃の私と同じように。だから、いつもの時間にここにいる。リーチ・マイケル選手がサインに疲れて、一旦座り込み、持っていたドリンクを飲み、自分を奮い立たせてまた腰を上げたその時、子供の頃の自分がいつもそこにいるのだろうと感じました。そう、私も同じ。強い信念が自然とそうさせる。

技術営業のFさんは、このサイトの中身について、技術面やデザインについてだけでなく、もっと総括的なアドバイスをくださいました。忙しい合間を縫って、沢山考え、伝えてくれたその気持ちはもちろん文面以上のものです。時間も心ももらいました。
“サイトの文章が一方的でない、日々のことを書いてくれているのですが、そこにとどまらないことを伝えてくれています。” 届けられた想いを私なりのやり方で返したい、そう願っています。

図書館カウンターでも、ネット上の架空のカフェのカウンターでも一緒。そこに相手がいてくれる。だから最大限の配慮をしたいし、話せて良かったと思うし、敬意を払いたいです。図書館も、このサイトも、訪問は義務じゃない。そんな中で、時間を使って来てくれてありがとう、そこにいてくれてありがとうといつも思っています。
そして、ゆっくり、でも着実に、自分の足で登る東京タワーを、一緒に見届けてください。