地下水で繋がる

入院準備品購入の為、息子に付き合ってもらおうと朝から説得。「え~、ボク外に遊びに行きたい。」「気持ちは分かるけど、お母さん今寒い所にいられないんだよ。」「・・・わかった。じゃあ、おもちゃ買って~。」全くもう、ちゃっかりしているな。「百均に用事があるから、1個だけよ。」そう伝えるとあっさり快諾してくれました。息子とはいつもはんぶんこ。自分のわがままを通すだけでなく、相手を思いやる気持ちも忘れない。そして、伝えました。「お母さんね、Rのことが大好きで入院中とても心配しているし、寂しいの。だから、一匹ぬいぐるみを貸してほしいんだ。」「ボクも、ママのことが大好き。体の中で悪さしているものが取れたらいいね。お腹、縦に切るのかな、横かな。」そんなことも心配してくれていたのねと思うと、胸がいっぱいでぎゅっとすると、息子の方が包んでくれているようで、いつからこんなに強くなったのだろうと堪らない気持ちになりました。そして、持ってきてくれたのは、タリーズのくまちゃんと、八ヶ岳で買ったコロコロくまちゃん。「ありがとう。でも、お母さんね、Rが特に大事にしているのがいいな。くみちゃんのお兄ちゃんのくりちゃんを借りたらだめ?」「いいよっ。これでママも寂しくないね。くりちゃんも病院にお泊りだね。」そう、そのぬいぐるみは息子と同じ誕生日。大事な仲間をゲットしたよ。守り神ならぬ守りぐま。

そんなほんわかとした会話を終わらせ、駅近くの薬局へ二人で向かっていると、すれ違いざまに声をかけられたのは、うちの両親でした。かなり驚き挨拶をすると、両親の表情がとっても穏やかで、入院準備の為に買い物に来たことを伝えると、息子を預かってくれるとのこと。お礼を言い、用事を済ませ自宅に行くと、父が本気で心配してくれて驚きました。私のオールファミリーのメッセージが届いたんだなと。「大丈夫か?卵巣のどちら側だ?今気分はどうだ?休みは融通が利くから、何でも言え。入院の時でも手術の時でもいいぞ。Rは見ているから。」今誰もいなかったら、大泣きしたかった。父と繋がっていた絆。それをこんな形で見せてくれるとは思わず、やはり目には見えないところでこの人とはいつも地下水が流れていたのだと思いました。だらしないのに、薄情なところもあるのに、ここ一番という時にはぐっとそばに来てくれる。今しかできないことを、今しか伝えられない言葉で、届けてくれる想いは本物なのだと思いました。離れなかった理由、あるんだよね。父の急所を知っている、だからまっすぐに届けました。娘の私にできなかったことを孫にしてあげてほしいと。そのメッセージを読んだ後、母にもまた優しくなったそう。困った人達だけど、今回ばかりは助けられ、病気も悪くないなと思いました。

姉が出産後に、母と一悶着あり、助けてほしいのに大喧嘩をしてしまい、出産を控えていた私に気を使い、彼女は珍しく父に泣きついたそう。「お父さんが、とても冷静に穏和に話を聞いてくれて、落ち着いたの。いつも面倒になるとそっぽを向く人なのに、私のことを考えてくれてね。『母親になったんだから。お母さんも、腹を立てても娘や孫のことは心配になるから、あまり意地を張らないで頼る時は頼った方がいいぞ。』って言われて、泣けてきた。ろくでなしと思っていたんだけど、こんな時にこういう言葉をかけてくれると思わなくて、もうちょっと大切にしようと思ったよ。お父さん、意外と役に立つかも。」そう言って最後に笑ってくれました。そんな会話が思い起こされ、意外と役に立った父に、私も驚くほど助けられてしまったなと、こんな話をまた姉としたいなと、彼女の心の回復をゆっくり待とうと思います。

小さかった姉と私を放ったらかして、祖母の介護に専念していた若かりし母。余命宣告をされた時、彼女の中で優先順位は明確になった訳で、その中でも必死の介護で祖母の寿命は驚くほど延びてくれました。時は流れ、親戚の葬儀で声をかけてくれたのは、祖母のお姉さんのお嫁さんでした。「Sちゃん!こんなに立派な女性になって。小さい時にね、おばあちゃんの介護にお母さんが専念していたから、二人ともとっても寂しい思いをしたと思う。でもね、壮絶な介護をお母さんはやっていたよ。テンションを相当上げないとあれはきついだろうなって、なかなかできることじゃないなって見ていて思った。お母さんのそんな気持ちも、忘れないでいてあげてね。」そう言って母や私達姉妹を思い、一緒に泣いてくれました。葬儀が終わり、母にその話をすると泣いて話してくれて。「Sがまだオムツの頃にね、私は病院に付きっきりだったから、そのおばさんちに預けて、可愛がってもらっていたのよ。あの当時はまだ布のオムツだったの。血の繋がらない子の世話をして、いつも抱っこをして、どれだけ大切にしてもらったか分からないよ。私が注げなかった愛情を、あなたは沢山の人達からもらっていたの。赤ちゃんって温もりで色んなことを感じるから。」その話を聞いて、涙が止まらなくなり、久しぶりに声をかけてくれたおばさんの表情を思い出しました。なんて、喜びに満ちてくれた顔だっただろうと。この子はどんな子に育つだろうと沢山の願いを込めて、抱っこをしてくれていたのだろうなと。自分の話よりも、母の話だけをしたおばさん。そんな謙虚な人から、どれだけのものを乳児の時にもらっていたのかと思うと、何かが繋がっていくようでした。

そうか、だから私は血の繋がりだけが全てじゃないと思うんだなと、解けた一つの答え。心の地下水で繋がる人達を大切にしたい。そのスタンスはこれからもずっと変わることはなさそうです。じわっとね、流れ出るその一滴が、笑顔の源なのかも。そうやって今日も笑おうよ。