残された時間

この間は、息子と約束していたズーラシアへ行ってきました。気負うとなかなか睡眠が取れないのは相変わらずで、それでも一日が楽しく終わりますようにと祈りを込めて、ピンクサファイアのネックレスを付けることに。誕生石がきっと自分を守ってくれる。その後、朝早くから電車に乗り、バスを待って現地に到着しました。張り切って年間パスポートを買い、開園と共に動物園の中へ。そこは、息子がパパと出かけた思い出の場所でした。隣を歩くだけで彼の色んな気持ちが伝わり、胸が締め付けられそうになりました。自分を責めるなと言われても、こんな時は難しくて。それでも、息子の気持ちが少しでも和らぎ、私との時間も優しく残ってくれたらいいなと思っていると、小さな手でぎゅっと握ってくれて泣きそうに。ボク、色んな気持ちの中にいてまだ整理ができないし寂しいけど、ママの気持ち少しだけど分かっているよ、そう伝えてくれているようでした。

それから、ファーストフード店で早めのランチを済ませ、別の場所でかき氷が食べたいと言われたので持ってきたシートを広げ、芝生の広場で食べ始めると周りはみんなご家族連れで、お母さんと小学生の男の子という組み合わせは私達だけでした。周りは気になるよね、でもね、本当に大切なものって中にある気がするんだ。息子が私と出かけたがらなくなる時期もきっと近い、それまでに届けられるものを私なりのやり方で伝えていこうと思いました。難産で生まれてきた後、まともに睡眠が取れなくなった入院最後の夕方、助産師さんが伝えてくれて。「男の子は離れるのが早いから、その分そばにいる時は甘えたがるでしょう。一緒にいる時間をどうか大切にしてあげてください。」と。その言葉を聞いたその時から、もしかしたら妊娠が発覚したその時から、かけがえのない時間は始まっていたのかもしれないと思うと、疲れが優しさに変わっていくようでした。あなたが背中を向けるまで、ここにいるよ。
さてさて、かき氷を食べて、少し復活したので全て歩くと言い出し、地図を見ながらまた全部の動物をカメラで撮り始めました。どうしても見たかったオカピに会えて感激。なんて綺麗な動物なんだろうと見る度に思っていると、「オカピのおしりが撮れた!」とわざわざ見せに来てくれて二人でわいわい。その時、なぜか父が実家を出る二十歳の頃が思い出されました。両親が冷戦状態の中にいたので、毎日疲弊し、父が出て行った時、寂しさよりも安堵の方が大きくて。これまで過ごしていた時間は、家族ごっこのように思っていたところがあったんだなとどこかで冷静になれた気がしました。その感覚は、ネネちゃんが言っていた“茶番”という言葉に通じるものがあるのではないかとようやく頭の中で繋がって。家族は、夫婦はこうあるべきだという考え方が自分をどこかでがんじがらめにしていたのかもしれないなと。妹の手を握り、大阪に飛んでおいでと言った姉の気持ちがこの年になって痛い程分かりました。家族ごっこはやめて、自分の道進もうよ。ネネちゃんのスタンスは、昔も今も何にも変わっていないのだと。「SちんもR君もオーストラリアに住みなよ。もういいんじゃない。S、十分やったよ。これからはもっと自分のことを考えてもいいって思う。」別居をする数日前に言われた姉の言葉が蘇り、堪らない気持ちになりました。ずっと同じ距離で見守ってくれていたんだね。

ふと顔を上げると、可愛いキリンさん親子が目に入ってきました。名古屋の東山動物園でも、キリンの親子はいつも寄り添っていて。それからも全部を回り、途中でアイスを食べ、へとへとになりながらお土産屋さんへ。「ママ、ズーラシア出身の子が増えるね!オカピもそうなんだよ。」そうだったね~、でももう一匹いるんだ。随分前に父にプレゼントしたくまのキーホルダー。名古屋でずっと使ってくれていて、母との同居でマンションのキーを付けた時はすでにボロボロでした。もう捨てたらいいのにまだ使ってくれていて、父との言葉数は少ないのにそんな気持ちが嬉しかった。そんなことを思っていると、見つけてしまったカワウソ親子。お母さんのお腹には子供のカワウソが入っていて、息子がすっかりひと目ぼれをしてしまいました。そこそこ大きいので、もう少し小さい方がいいのではと説得を試みたものの、全く聞こうとせず。新しい家族は息子の心にいつも温かさを届けてくれているのを知っていたので、すっかり丸め込まれて購入決定。バスを待っている間も、車内でもカワウソ親子を抱きしめていて、周りの目なんてお構いなしで笑えてきました。ね、二人のペースで行こう。人は人だから。そう思いながら、あまりの眠気にうとうとなりかけていると、息子がふと伝えてくれました。「あ~楽しかった!」と。その言葉を聞いて、わっと色々な思いがこみ上げ、本気で泣きたくなりました。パパとの思い出よりも、芝生の広場で感じた母子だけの寂しい気持ちよりも、二人で楽しかったね~という彼の気持ちは紛れもなく本心だったから。今度はもっと遊具で遊びたい、カワウソ親子買ってくれてありがとう、疲れたけど全部回れて良かったね、無邪気な気持ちを真っ直ぐ届けてくれて、一日の疲れは飛んでいきました。離れる時まで、あと何日あるだろう。余命宣告された時、あ~楽しかった!という息子の声が聞こえてくるのかもしれない。