ひとりで過ごす時間の中で

息子が修学旅行へ行く日がやってきました。前夜はヤクルト戦を途中まで見て、9時前には寝かせるというバタバタの中、5時に起こすという頭があったので、すっかり睡眠不足でそれも想定内。まだ寝ぼけている息子を起こし、忘れ物がないように二人で最終確認。そして、外に出ると雨は一滴も降っておらず、本当に胸がいっぱいになりました。去年は、コロナにかかり、野外活動は断念、そして高熱と行けなかった悲しさで息子が大泣きした表情と声はずっと自分の中に残っていて。あれから一年、よく頑張ったねと今年は行けて良かったと安堵の気持ちと共に、いつもの公園でお別れ。スワローズクルーの帽子を被り、リュックを背負い、スポーツバッグを斜めにかける彼を見て、大きくなったなと思いました。「楽しんでおいで!」「うん!」そう言って一枚写真を撮り、軽くハグ。久しぶりのお別れだね、お互いがそんな気持ちで笑ってバイバイ。最高の二日間になりますように。

その後、自宅に帰ってから仮眠を取り、電車に乗って主治医のいる新宿まで向かいました。修学旅行説明会で、もし緊急の時があれば日光まで迎えにきてもらうこともあるかもしれませんと言われていたので、今なら新宿から特急で行けるなと思いながらも息子の無事を祈ることにして。そして、相変わらず穏和な先生に診てもらい、いつもの日常が今回は少し違って見えました。修学旅行まで気を張っていたんだなと痛感、そしてプログラマーのMさんとミーティングの為に待ち合わせのカフェへ。大阪旅行のお礼やプロジェクトのことなどひとしきり話したのち、彼の空気が変わり、今日なら話しても大丈夫と思ってくれたのか言葉を選び伝えてくれました。Mさんと共通の知人である女性が冬に自殺をし、この世を去っていたのだと。絶句し、何かの間違いなのではと思考が今までとは別の動き方をしているようで、店内のざわめきが急に聞こえなくなったようなよく分からない悲しみが襲ってきました。私はほんの数回お会いしただけ、彼の方がもっと関係は濃く、冬にこちらの状態があまり良くないことを知っていたMさんは半年もの間黙ってくれていたのかと思うと、本当にもういろんな気持ちが駆け巡って。そして、亡くなった彼女のお母さんの方が私としては親しくさせてもらっていたことがあり、お母さんの気持ちを思うと胸が潰れそうでした。一回りも上の方、育児の悩みや葛藤を自分のことと照らし合わせ、時に涙を溜めながら寄り添ってくれました。娘さんと仲が良く、その姿も見せてもらっていたので、本当にもう言葉にならなくて。「Sちゃんが演奏会に会いに来てくれたら、きっと喜ぶよ。」目の前でMさんがそう伝えてくれた時、余計に泣きそうに。今の私が会いに行ったら、逆に心配をかけてしまわないだろうか、私を観客席で見つけたら泣かせてしまうのではないか、何ができるだろう、時間をかけてゆっくり考えようと思います。

いろんな気持ちを抱え乗った帰りの電車。行きとは違った色をしていました。最寄り駅で雑用を済ませ、ゆっくり自宅に帰ると、そういえば一人だったと思いながら、録画しておいたドジャース対エンジェルス戦をぼんやり観戦。夜になり、息子がいないとこんなにも静かなのだとその日はなんだか切なくて。胸を張って歩き出すんだよ、振り返らなくていい、自分の人生を思いっきり楽しんでほしい、そう言って笑って見送る母親でありたいと思っているのだけど、今夜はどうもだめだと思い、10時には明かりを消して寝ました。が、浅い眠りの中で何度も起きてしまい、朝がやってきて、パソコンを開きながらまたエンジェルス戦を見ることに。気持ちがなかなか上がらず、遠くに発生した台風の影響もあり、ぐるぐるしていたのでやることをやって一旦寝ました。すると、なぜか一瞬すっと深く眠れて、充電完了。スマホを開けると、学校からの連絡で予定通りに日光江戸村を出たということ。私は息子のお母さんだ、笑ってお迎えに行こうとひとつ息を吐き、ゆっくりと待ち合わせの公園へ向かいました。すると、ベンチで話しかけてくれたのは、ママと一緒にいた幼稚園の男の子。虫を捕まえ、一匹ずつご丁寧に説明してくれるので、虫嫌いなんだよ~とはとても言えず、わいわい盛り上がることに。別れ際、ママも男の子も妹ちゃんも手を振りながらお礼を言ってくれて、素敵なご家族に会えてこちらの方こそありがとう。元気になった。

「ママ~。」ふと横を見ると、すっかり日焼けをしてへとへとになった息子がとことこやってきました。「おかえりなさい。」「ただいま~。楽しかった~。」この声を録音して先生に届けた方が良かったかな。それぐらい、充実して実りある二日間だということが伝わってきました。歩きながら、日光で過ごした沢山のキラキラを話してくれて。行けて本当に良かった。そして、自宅に帰ると、荷物をどさっとリビングに置き、目を瞑ってと言われました。開けていいよと言われ、見せてくれたのはとちおとめ味のミルキーや大福、カントリーマアム。「ママと一緒に食べようと思って買ってきたの!」全部私好みじゃないか、これは泣ける。そして、小さな白刀は自分へのお土産だそう、男の子らしいな。さらにもう一度目を瞑ってと言われ、手の上に乗せてくれたのは息子とずっと集めていた『旅するマメしば』シリーズのおさるの被り物をした豆しばで、日光にいたの!と二人で歓喜し、涙が溢れそうになりました。大阪旅行の最終日、スカイビルにいたヒョウ柄の豆しばを私が見つけ、大阪のおばちゃんみたいだとみんなで大盛り上がり。今度は日光で息子が見つけてくれるなんてね。その豆しばシリーズは、別居前に両親と息子と4人で旅行に出た静岡で、富士山の被り物をしたまめ太を息子が見つけたのが始まりでした。その後、旅先などで自然と集まっていった仲間がいて、二人の歩みを感じました。これからも旅をしよう、二人でも一人になっても。日光で見つけたさる太とくみちゃんと就寝した息子。今日はあなたに助けられた、寝顔に頭をなで、閉じたドア。心の中にある思い出を消さないで、抱き続けて前へ進もう。そっと取り出したら、きっと寂しくない。