余韻の中で

息子の朝練があり、6時に起きてテレビを点けると、サッカーワールドカップ、ブラジル戦が1対2の惜敗だったことが分かりました。深夜2時のキックオフ、テスト前ということもあり、オンタイムで観戦するのは難しく、起きてきた息子と二人で少し凹んでしまって。「後半アディショナルタイムに追加点がブラジルにあったようなんだけど、本当にいい戦いだったんだと思う。また4年後だね。歴史が変わる瞬間を楽しみにしようよ。」そんな話をすると、寝ぼけながらも頷いてくれました。次の大会は、彼は高校3年生、あっという間だ。サムライブルー、その色がまた大きく揺れるその時まで、一緒に駆け抜けよう。

サッカーと言えば、中学時代の社会科の恩師がサッカー部の顧問で、部員は大分鍛えられていました。テニス部の練習を終え、部室へ行く途中、グラウンドの端を歩くのでよくサッカー部員と話す機会があって。「なんでトンボをかける時も走っているの?」「これもトレーニングだって先生が言うんだよ。」「サッカー部っていつも走ってるよね。」「持久力を上げるためにも、とにかく走れって。」そりゃ部員全員が臨時で招集される陸上部に送り込まれるわけだと、笑ってしまいました。フィールド競技も選ばせてもらえず、長距離か中距離、短距離走と徹底していて。そして顧問の先生本人はと言うと、走り幅跳びを中心に見守ってくれていました。バラエティ番組をあまり見ず、ニュースやスポーツ観戦が好きな私をどこか面白がっていて。友達との話が時に合わないことを嘆くのではなく、自分の世界を有意義なものにすることを大切にし、誰かと話が合った少しの時間があれば十分だと思っている私をなんとなく感じていました。興味深い記事があったからと新聞を小さく切り抜き、廊下で先生に渡した時は笑ってくれたことも。そして、その内容を社会の授業で取り上げてくれました。クイズを出し、私が先生に渡した新聞の存在を隣で見ていたソフトボール部のエースは、こちらに視線を送り、こっそり答えを教えると彼女が張り切って答えた時間。「おいおい、そこで連携取ったらだめだろ。」と先生が笑い、そしてみんなも笑ってくれました。生きた授業ってなんだと思う?先生が私に、問いかけてくれていたような気がしていて。教科書の内容ももちろん大切、でもな、同時に世の中でいろんなことが起こっている。それをSがキャッチした。ただ受け止めただけでなく、それをひとつの形でパスしてくれたことが嬉しかったんだよ。俺の生徒は、こういう小さな記事にも興味を示したんだなって。それを授業で取り上げたら、みんなはどんな反応をするだろうと思った。案の定、意外な連携で大盛り上がりだ。S、自分が持っているアンテナを大事にしろ。ちょっと変わっていると思われるかもしれない、らしさを引っ込めたくなる時もあるかもしれない、でもな、先生は3年間楽しかったぞ。いろんなことを疑問に思え、考え続けろ、そのままでいい、そのままがいい。時に授業終わりの廊下で、職員室で、そして砂場で、いろんな話をしました。先生が伝えてくれようとした気持ちは、言葉の端々から感じられて。社会科の学びは、私の中で終わることはなく、恩師の授業が原点でずっと続いています。3年生の秋の長距離大会、両足肉離れで、ジャージ姿で壮行会の壇上に上がりました。やや俯く私を恩師は見ていて。Sが休まず練習してきた姿はみんな知ってる。だから顔を上げろ。分かってるよ、先生。でもね、顔を上げたら涙が一滴溢れそうなんだ。あの時唯一繋がった糸電話、その優しさを忘れることはありません。

絵を描くのが下手でずっと美術に対して苦手意識があったのだけど、息子のテスト勉強の中で、美術と社会科の内容が一部重なるところがあり、はっとしました。勝手な先入観で、嫌いなものと判断してはいけないなと。「ミロのヴィーナス、ボク持ってる!」「ん?なんで?!」「あつ森だよ~。ツネキチから買ったんだ。時々偽物を買わせてくるんだけど、本物だった!」それは良かった!と大盛り上がり。そういえば、カッペイが漕ぐ舟は、心地のいい歌を歌ってくれるから、あの舟だと酔わないかもと想像が膨らみ、台風の不調も幾分和らいだようでした。彼は彼で、2年生のクラス写真を見せると、写真撮影した記憶がないと伝えてきて。しっかり写っているのに、まだクラス替えをして間もない時で、また環境に慣れるまでに気を張っていた頃だったのだろうと。そんな経過も、あなたの努力も、見ているよ。傍から見たら小さなことかもしれない、でも私達からしてみたら大きなこと。うずくまらずに次の一歩を進めた、その勇気をどんな時も応援したい。「お母さんの家系って女系だったんだよ。だからRが男の子でちょっと驚いたの。」「へえ、そうなんだ。ボクに子供ができなかったら、その歴史が途絶えちゃうね。」「そんなことは気にしなくていいよ。Rには自由でいてほしい。それが一番の願いかな。なんかね、Rのひいじいちゃん、私が男の子を生んで満足してくれた気がしたの。それが一区切りだったのかなって。」そう呟き上を向くと、なんだか聞いてくれているような気がしました。ふわっとあたたかい空気が吹き抜けていく。敬意を払おう、自分に関わってくれる全ての方達に。ありがとう、届いていますか。