数日前、買い物をしていると、急に視界が開けていく感覚があり、そしてはっとなりました。母のことでカウンセリングに行った、10年程前に臨床心理士の先生に言われた言葉が、もう一度再生されて。「惜しい所にいる、最後の答えは自分で見つけてください。それがあなたにとって何よりのカウンセリングなのではないかと。」最後の答え、それは最近仲良くさせて頂いている住職さんとの時間の中にあるのではないかと思いました。そのことを感じた時、自分は正しい方向へ歩けているという確信めいたものが沸き上がって。お賽銭箱にいつも入れるのは、10円玉1枚と5円玉1枚。十分ご縁がありますようにという願掛けでもあったのだけど、十分ご縁がありましたという感謝の意味もあったのだと。ご縁、それにいつも助けられてきた。
そして昨日、雑用を済ませ、パソコンを閉じた後、食材を持って住職さんの元へ行ってきました。自転車を停めていると、背後から声がかかって。振り向くと、「何か用事でしたか?」といつも穏和な住職さんがいらっしゃり驚きました。自転車に乗り、どこかに出かける前だった模様。背後に人がいて視線などを感じると、敏感な私はそれをキャッチすることがよくあるのだけど、この方はなぜか気配があまりないんだよなと。初対面の時も、すっと現れて挨拶されたので、不思議に思っていました。足音があまりないのかな。いつお会いしても、住職さんはご自身から放たれる光に包まれているような、そんなオーラを感じ嬉しくなりました。「こんにちは!お出かけの所すみません。この間は、本を頂きありがとうございました。読ませてもらっていたら、もしかして手元にある最後の一冊だったのではないかと心配になってしまって。」「そんなことないよ~。まだあるから。」「良かったです。貴重なものを本当にありがとうございました。それで、本の中にうどんが出てきたので、持ってきました。」そう話すと、ええ!と本気で驚かれて。いやいや、本からうどんが飛び出してきたわけじゃないですって!と思いながら、もう一度説明するとようやく頭の中で繋がったのか、盛大に笑ってくれました。「ありがとね。それじゃあ、ポストの中にでも入れておいてもらえる?」そう言われたので、お互いにお礼を伝え合い、お別れ。保冷剤と一緒にうどんやつゆなどを入れ、なんだか優しい気持ちになりました。本を渡したら、内容に出てくるうどんが届けられた、長年僧侶をやっているけど、ちょっと変わった人だな。その出会いを住職さんもどこかで楽しんでくれているようで。こちらが少し早口になるのは、きっと伝えたい想いが溢れ出すからだろうと思いました。地下5階にあったどろっとした気持ちは、発する時に浄化され、全然違う話の中で薄れていくようで。傷みはある、それは認めた上で、歩いてきた。「生きることってね、やっぱり忍耐だよ。」80歳を過ぎて、伝えられた住職さんの言葉は深い。「すぐに結果を求めちゃいけないよ。一歩ずつ、一歩ずつ。小さく重ねた後に辿り着ける時がくる。焦っちゃいけない。」行間から、住職さんが歩いてこられた厳しい道と数えきれないご縁を感じ、胸が詰まりました。その人そのものが滲み出るのは、こういう時なのかなと。言葉が、想いが何層にも積み重なっている。住職さんが迷い、考え抜いた歴史の上に今があるのだと感銘を受けました。漢方内科の主治医も、どこか似ていて。ものすごく広い視点で達観しているのだけど、丸っと包み込みながらすぐ隣にいてくれる、そんなあたたかさ。堪らないな。
日本料理店でアルバイトをしていた大学時代、なんだか急にその頃のことが蘇ってきました。着物を着て、調理場の隣から入りおはようございますと伝えると、板前さん達が威勢よく挨拶を返してくれて。そして、店長に言われました。「今日は個室の予約が一杯で、一番大きい部屋は二人で担当してもらうね。」と、先輩と組むことが分かって。そして、そのお部屋の予約をしてくださった若い男性の方がスーツで一足先に来店してくださいました。白いハンカチで汗を拭きながらひと言。「今日、大事な商談があるんです。先方の方達には上座に座って頂くので、くれぐれもよろしくお願いします。」と。緊張が伝わり、こちらまで緊張してしまいました。絶対に粗相があってはいけない、何かやらかさないようにと自分に祈るしかなくて。こちらの真意を感じた先輩は、穏やかな表情で伝えてくれました。「私が上座のお客様を担当するから、Sちゃんは後ろからついてきてね。」先輩のリードに心の中で拝みながら返事をして。そして、大きく深呼吸。温かいものは温かい状態で、食器の向きを絶対に間違えないようにといつも言われているので、丁寧に運びました。襖を開け、ご挨拶。すると、下座に座っていた先程の男性が、相変わらず緊張されていて、うまくいきますようにと祈るしかなくて。会話を遮らないように、お料理を出したり下げたりを繰り返し、調理長も気になったのか聞いてくれました。「雰囲気どう?」「変な空気になっている訳でもなく、いい感じに見えますよ。」と率直な感想を述べると、なんとなくほっとしてくれて。そして、無事にお見送りをすると、どっと疲れてお店を閉めた後、先輩に弱音を吐かせてもらうことに。「大事な商談って言われたので、私のミスで破談になったらどうしようと気が気じゃなかったんです。会社の命運がかかっていた可能性もありますよね?何事もなく終わって良かったです。」とわーわーうるさい私にみんなが笑ってくれました。先輩には私と同じ年の娘さんもいて。「うちの子とは落ち着き方が全然違う。」そう何度も言われたのだけど、その度に思っていました。落ち着かざるを得なかった、きっとこれが正解。Sちゃん、あなたが背負っているものなんとなく分かる。今日ね、個室に入る前大きく息を吐いたよね。緊張しているのは伝わってきた。でも、部屋に入ると驚く程冷静だった。立場としてはアルバイトなんだけど、目の前の仕事を責任持ってこなそうとする姿勢は、みんな分かっているよ。調理場のみんなも、きっとお客様も。お酒を扱うお店だから、二十歳の子が感じなくてもいいようなこと、沢山ある。でもね、みんなあなたの夢を応援しているよ。そのことは忘れないで。時に二人で飲みに行きながら、時に行間から、時に表情から、沢山の優しさとエールを送ってもらっていたのだと改めて思いました。商談は、結局うまくいったのだろうか。予約をしてくれた若いビジネスマンの方も、本当にもしかしたらさりげなく応援してくれていたのかもしれないな。出会いと別れ、そんなことを繰り返し、年輪がまたひとつ大きくなっていく。真ん中にある幹、自分で自分を支えたい、これからも思い出と共に。