重ねた手と手

息子の合唱祭の日がやってきました。朝はゆっくり起き、後でホールへ行くねと見送った時間。授業参観は来ないでねと言うのに、合唱祭の時間を間違えないでねとこちらの様子を気にする姿が微笑ましくて。いつの間にかどんどん大きくなっていくね、制服で出ていく息子にそっと届けました。その後、ビデオ容量が少なくなっていたので、ミスで撮ってしまったものなど消せないかと思った前日のことが蘇ってきました。そこには、幼い頃の息子と元夫の声が入っていて。この感情をどう説明したらいいのだろう、ただただ涙が溢れて。いろんな気持ちが交錯するのだけど、これも大切な記録だ、そう思いそっと閉じました。息子を見送った後、その映像がもう一度頭の中で流れ、少し沈んでしまいそうになっているとスマホに一件の通知が。『やほー。Sちゃん、待ち合わせ時間に到着予定?もう少し早かったりする?』タイミングが絶妙過ぎて、広報委員で一緒だった彼女の明るさに助けられました。それから会う時間を早め、合唱祭前にガールズトークをすることに。一人っ子の男の子を持つママの悩みはどこか似ていて、ほっこり。「もうね、どうしてもあれこれ勉強について言っちゃうんだけど、最近諦めた!」と笑いながら言ってくれるので、分かるよ~と思いながら一緒に笑ってしまいました。「こちらが開き直った方が、好循環が生まれるのかもしれないね~。」とわいわい。「この間なんて、玄関に座り込んでなかなか学校に行こうとしないの。よく見たら、小さな水たまりができて、傘の先端でアリの絵を描いていてね。遅れるでしょ!ってそんなことばっかり。」と話してくれるので大爆笑。これって男の子あるあるなのかなとお互いのネタで盛り上がり、自分達が抱える悩みが小さくなっていくようでした。母に、一人っ子の男の子ママと小学校の役員になって以来仲良くさせてもらっていると話すと、伝えてくれて。「せっかくのお友達なのに、高校で離れちゃうわね。」と。子供達はそうかもしれない、でも彼女との友情は続くよ。助けられたんだ何度も、だから友達が苦しい時はそばにいる。

そんな気持ちでホールに入り、真ん中の席に座ると前の方に座っていた息子が友達と振り向き、小さく手を振ってくれました。隣には幼稚園から一緒の仲良しD君。クラスは違ったはず、でも彼らの友情は何も変わっていなくて。幼稚園の制服を着て、砂だらけになって遊ぶ二人を思い出し、なんだかぐっときました。日々の雑務に追われ、大切なことを忘れてしまいそうになるのだけど、成長を見届けるってこんなにも幸せなことだったんだなと。制服を着て家の外で会うっていいね、世界がまた少し優しく見える。そして、合唱祭が始まりました。隣にはいつも彼女がいて、一緒に感動できるこんな時間にもありがとうだなと思って。それから、息子のクラスの番がやってきました。ビデオを持つ手が震えてしまい、なんだかもう泣きそうで。曲は、『キミのもとへ…』(作詞:𠮷野莉紗、作曲:松井孝夫)、東日本大震災がきっかけで作られ、広い空の下でつながっているよという深い希望が込められているよう。画面越しから息子を捉え、合唱が聴こえると澄んだ気持ちに。そして、ピアノの音が途中で無くなり、生徒達が手拍子をしながら歌い続けるととても自然に観客席からも手拍子が送られ、涙腺が崩壊しそうでした。気持ちが重なるからこそ、その音は大きな優しさに包まれていて、あなた達の今を応援しているよというお母さん達の想いも彼らに届いていたらいいなと。中学校の半分がもう終わろうとしているよ、早すぎるでしょ、早いよ。だから、記録に残したいんだ。でもまだ、お母さんね、じっくり見返せそうにない。ただ、あなたにも元夫にもありがとうという気持ちを持って、前に進みたい。大人になって今日のビデオを振り返った時も、堪らない気持ちになるんだろうね。曲が終わり、そっと閉じたビデオカメラ。息子と私の大切な成長の記録だ。拍手を送りたい、今この瞬間に。

学年合唱も聴き、友達と感激しながらホールを出ました。「1年違うだけで、こんなにも合唱が変わるんだね!」と二人で驚いて。またカフェでもしようと約束し、笑ってバイバイ。その後、本屋さんへ行き、読みたい本をゲットして店員さんと盛り上がり、穏やかな気持ちで自転車を走らせていると、正面から歩いてくるのはうちの母。「お母さん!」と声をかけると喜んでくれて。お互いのカサカサが薄れていくと、遭遇率が高くなるのはなぜだろう。「今、本屋さんの帰りなんだよ。」「どんな本?」と聞かれたので、表紙を見せると母が伝えてくれました。「この漢字ね、亡くなったお兄ちゃんの名前なの。」え?生後1週間で亡くなった伯父さんに名前があったの?と本気で驚いて。母の精神状態が良くない時、記憶が曖昧になることがあり、きっと私は以前そのタイミングで聞いたから、名前をつけられないまま亡くなったのだと思い込んでいました。まさか、私が好きな著者さんの一字が、伯父さんの名前だったとは。その漢字から、祖父母の想いが痛いほど伝わり溢れそうでした。愛ってすごいな。おじいちゃんとおばあちゃんのメッセージがそこに全部詰まっている。「あのね、お母さん。伯父さんは、肉体は死んでしまっても魂は生き続けていると思うんだ。忘れないでいたら、お母さんのことを守ってくれるよ。」「そうね。きっとそうなのね。あなたはいつも本を読んでいて、何かおすすめがあったら教えてね。教養を深めたくて。」本をあまり読もうとしない母からそんな言葉が聞けるとは思わず、本気で驚きました。彼女は、本当に何かを掴みつつあるのではないかと。母の内側から感じられたのは、感謝の気持ちでした。辛くなると訳が分からない展開が待っているのだけど、お母さんが自分を見失わなければ、明るい方へ進めるよ。その時、自分が伝えた方がいいと思った言葉を探し、やんわり届けました。秋晴れの空の下、そんな光景を祖父母も伯父さんも見守ってくれているに違いない。私は、伯父さんの漢字を大事に大事に持って生を全うするよ。生まれたお兄ちゃんは、本当に男前でおじいちゃんに似ていたらしいと母が教えてくれました。重ねた手と手、祖父母の気持ちをこの先も忘れない。