前日の夜、息子が伝えてきました。「4年生の時の運動会、きつねダンス、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだよ~。」「それってね、一生その話できるよね。ずっと覚えているよ、きっと。」「ボクは、東京音頭が良かった!」日本ハムじゃなくてヤクルトの応援か~い!「グラウンドでみんなと傘ふりふりしていたら、それはそれで面白いけど。」と二人で大盛り上がり。が、息子の寒暖差アレルギーが強く出てしまい、悪戦苦闘しながら寝かせた夜。明日は、いい日になるといいね。
翌朝、見事な快晴で、運動会日和だなと朝からこみ上げるものがありました。体操服に着替え、リュックに荷物を詰め込み、後でねとハイタッチ。私自身も寒暖差にやられ、頭痛でくらくらしていたものの、プロテインを飲んで一気に気持ちを上げました。今年は最高学年として応援団になった息子、最初の競技から見に来てねと言われていたので、急いで準備をし学校へ。父親の分まで役目は果たせないかもしれない、でもその分長く彼のそばにいようと準備体操から見守りました。すると、広報委員でカメラを構えていた仲良しのKちゃんがこちらに気づいてくれてご挨拶。人の引力って不思議だなと嬉しくなっていると、息子が私を見つけ小さく手を振ってくれました。早く来たよ、今日という日を抱きしめようよ。いつもの糸電話でそっと届けました。そして、他の学年の徒競走で、応援団として息子もはちまきと手袋をして声を出して応援。団長の掛け声とともに、三三七拍子をやる彼を見て、6年間ってあっという間なんだなと泣きそうに。ランドセルがまだ大きくて、入学したのがまだ最近のよう。でも、その間に本当にいろんなことがあったな。大きくなったね。情熱の赤組、心を灯し続けて、澄み切った空を見上げながらそんなことを思いました。
そして、いよいよ6年生の徒競走へ。足が速いから一番最後に走ると教えてくれました。上手に撮れるだろうか、一緒に観た時に息子ががっかりしないように。パン!という音と共に、ダッシュしてくる姿が見えたと思ったら、一瞬見失ってしまい、近くまで来ると悔しそうに最後の力を振り絞る表情を捉えることができました。その悔しさ、覚えておきなよ、いいレースだったねとビデオを閉じると、息子の周りには沢山の友達が。みんなに囲まれ、話しかけられ、彼は大丈夫だと思いました。この先もきっと、仲間に助けられていくのだと。いい光景だったなと思いながら、大トリの演技に向けていい場所の確保へ向かいました。本当に小学校生活、あと少しなんだな。体操服を着て、6年生が組体操を披露してくれた時にかかった曲は、映画『アルマゲドン』の主題歌で、エアロスミスの『I DON’T WANT TO MISS A THING』、涙が溢れそうになりました。大学の一般教養の講義中、なぜか大型スクリーンでその映画を観ることになったものの、一番後ろの席で思うように映像が観られず、隣にいた友達と顔を合わせて頷き、黒のカーテンがかけてある後ろの席からささっと忍者のように脱走し、廊下に出た途端笑い転げた日。それから映画は一人で観て感動、そのなんでもない学生生活が蘇り、目の前では随分身長の伸びた息子がクラスの仲間と手を取り、見事な組体操を披露してくれて、時の流れを感じました。自分の中にはきっと白も黒もあって、いろんなものを吸収してしまうから時々疼くし苦しくなるのだけど、最後に残るのはやっぱり白で、時間が解決してくれることもあるのだとそっと微笑みたくなったひととき。そして、いよいよ法被を着てソーラン節が待っていました。その演目は、幼稚園の年長でも披露してくれたもので。舞台の上で息子が側転をするので、嬉しい驚きがあり、その時も近くで一緒に踊ってくれたのは大親友のD君でした。6年経っても彼らの友情はなんにも変わっていなくて、育まれているものの大きさを知りました。そして、凛々しくなって踊る息子が後ろを向くと、彼の名前の漢字が背中に大きく書かれていて。「好きな漢字を一つ選んで書くことになったから自分の名前にしたんだ。」と話してくれていました。その字は、悪阻が酷かった後、ようやく起き上がれるようになった妊娠6ヶ月目あたりにパソコンの前で沢山考えた名前でした。アメリカ育ちの元彼の大学時代の女友達夫婦と初めて会った時、私の名前と漢字の意味を聞いてくれて。親日家の彼らは、日本人の持つ奥ゆかしさと日本語の美しさを気に入ってくれていました。自分達にもし子供ができたら日本的な名前にしたいんだ、だからSの名前の由来を知りたいのだと。その気持ちがとても嬉しかった。だから、もし私に子供ができたら深い意味を付けたい、苦しい時に思い出してくれたら、そう願い沢山考えて決めたものでした。その一字を背中に背負い、誇らしく踊っている息子を見て、私の方がありがとうと思いました。励まされているのはこちらの方。ねえR、お父さん達多かったね、でもねあなたと二人で過ごす生活、沢山の人達が応援し支えてくれているよ。辛い日いくつもあったね、それ以上に笑ったし、そんな一日を一緒に重ねてきた。その時間の尊さを分かってくれている人達がいる。表面では分からないこと、雑音も気にならないぐらい、自分達の世界大切にしようよ。そして、誰かが辛い時、そっとそばにいてあげて。お母さんね、いい妻にはなれなかった、でもいい母親にはなれるかもしれない。何がいい母親なのかまだ分からないのだけど、探し続けるよ。毎日練習で筋肉痛だと教えてくれた、逞しくなった息子の踊りを見て、画面越しから話しかけました。幼稚園からのソーラン節の綱、ここに繋がっていたんだね。感極まりそうになるのを堪えて、最後まで撮り終え、ひとつ息を吐き、閉会式に向かいました。すると、6年生も一緒に上がってきてくれた旧担任の先生が泣いていて、その表情にとんでもない愛を感じ、もらい泣きしそうに。そんな時、男子がひと言。「先生、泣いてるの?運動会で泣いたら、卒業式で脱水症状になるんじゃね?」男子らしい発想に、先生と同じタイミングで笑ってしまい、この瞬間を切り取っておこうと思いました。キラキラがここにある。
閉会式が終わり、息子に手を振り、秋の見事な空を仰いで運動会の風景を吸い込みました。3年の時の広報委員でカメラを構えしゃがんでいると、6年生の女の担任の先生が万感の想いで隣で頷き、そして途中から演技に入っていきました。最高学年の種目は花形、6年分の先生達の想いもそこに詰まっているのだと。それから3年、立派に演技をしてくれた息子に、そして仲間達に感無量でゆっくり帰宅の途へ。すると、すっかり日焼けをした息子がへとへとになって帰ってきました。「格好良かったね!」「みんな足速いんだよ~。」負けから学べばいい、そう思っているとぽつり。「あのね、1年生の時の先生が見に来てくれていたの。」その言葉を聞き、胸がいっぱいに。「お会いしたかったな。先生、喜んでくれただろうね。」定年退職された女性の恩師、どんな気持ちで子供達の成長を見届けてくれたのだろうか。ゆずの『マスカット』を可愛く踊ってくれた1年生の息子達の姿は、先生の心のアルバムにも綴じられていて。生きていくことのなんと美しいこと、小学校生活最後の運動会、その記録を優しい風と共にそっと残しておく。